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第5話 冒険者ギルド
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シエロ王国の最南端にある港町カナンは、貴族達のリゾート地として開発された光の当たる側面がある一方、海外から来た亜人種や海賊、それに王都から逃亡してきた犯罪者達の巣窟となっている闇の側面もあった。
当然、そんな街の冒険者ギルドに所属する冒険者は、必然的にならず者や脛に傷のある者達が多く集まる。
何とか冒険者ギルドに辿り着いたクロエは、ギルド内の雰囲気を見て、頬を引くつかせた。
「これが・・・冒険者ギルドなの?」
何より最初に驚いたのは、臭いだった。
冒険者ギルド内は酒場かと思うくらいに酒の臭いが充満しており、タバコの煙とおっさんの汗の臭いが混ざり合って、吐き気が込み上げそうになる。
床に座り込んで酒瓶を抱えている男は冒険者と言うより浮浪者と言われた方がしっくりくるレベルだ。
それに、冒険者ギルド内は酷く汚い。
酒や食べカスが床に散らかっても清楚する者はおらず、まるで閉店後の酒場の様な雰囲気に、来る場所を間違えたのでは無いかと不安が込み上げる。
「こ、こんな所で挫けるわけには行かないわ!」
それでも、冒険者として成り上がる決意は固く、クロエは気を取り直して冒険者ギルドの受付に向かって歩いて行く。
冒険者ギルド内に女性は殆どおらず、美しいクロエを見た酔っ払いの冒険者達のいやらしい視線が集まった。
暴漢に襲われた時に破れたワイシャツやスカートのせいで、余計な関心を集めてしまった様だ。
中には、あからさまにクロエのスカートの中を覗き込もうとする者もいたが、クロエは全て無視して、毅然とした態度でカウンターの老人の前で立ち止まった。
「何の様だ?」
体格の良い老人は威圧的な態度でジロリとクロエを見て質問した。
太い腕には刺青が入っており、引退した傭兵の様な鋭い目付きをしていた。
一瞬、気圧されそうになるが、こう言う場所では舐められない事が大事だと分かったクロエは、堂々と胸を張り、受付の男を見上げた。
「冒険者登録をしに来たわ!」
クロエが答えた瞬間、冒険者ギルド内が笑いに包まれた。
「ギャハハ!俺はテッキリ娼婦が出張サービスで来たのかと思ったぜ!」
「冒険者じゃなくて、娼館に行った方が稼げるぜ?」
「ヒッヒッヒ、着替えも一人じゃ出来なそうなお嬢ちゃんに冒険者はまだ早いぜ!」
「ハハッ!ゴブリンの囮役なら使えそうだぜ?」
「囮が捕まってゴブリンを増やしちまうんじゃねーか?」
「ゴブリンの子を産むくらいなら、俺の子を増やしてくれや!」
冒険者達は、デリカシーのカケラもない下品で猥褻な言葉の数々を浴びせてきた。
公爵令嬢として、蝶よ花よと育てられてきたクロエには、理解が追いつかない状況だった。
今まで下衆なクズだと思っていた貴族令息達は、あくまでも最低限の貴族としての礼儀は守っており、紳士な対応の範囲内だった。
平民の男とは、こうも下劣で卑猥な生き物なの?
いやらしい言葉の数々を浴びせられたクロエの顔は羞恥心で真っ赤に染まっていた。
冒険者になると言う事は、こんな汚く、卑猥で下劣な男達に囲まれて生きて行かなければならないのだ。
クロエは、自分がどれだけ危うい事をしているのか理解した。
飢えた狼の群れの中に放り込まれた仔羊の様に震えるクロエを見て、受付の老人は、溜息を吐いて、首を横に振った。
「ここは、こう言う場所だ、覚悟が無いなら家に帰りな」
老人は、冷たく言っている様だが、クロエの事を気遣ってくれていた。
しかし、家に帰れと言われたクロエは、俯いて表情が曇る。
「・・・私に帰る家は無いわ」
ハートフィリア家を追い出されたクロエには、帰る家は無い。
ましてや一文無しの今の状況で、クロエには後退の選択肢は無かった。
もしも、ここで、冒険者になる事を諦めたら、残された道は本当に娼館で働く事くらいしか無くなってしまうかも知れない。
見ず知らずの男に身体を許す?
プライドを捨てて、好きでも無い男に媚びへつらう?
男の性欲の捌け口として、道具の様に扱われる生き方なんて、自分には出来ない。
今まで、婚約者である第一王子の為に厳しい王妃教育を耐え抜き、社交界では政敵である第二王子派の貴族達の嫌がらせに耐え、時には悪役を買って出る事すら厭わなかった。
第一王子とは、政略結婚だったとは言え、嫌いでは無かった。
いや、寧ろ好意を抱く程に、誠実で真面目で努力家だった。
だから、自分も第一王子の為に出来る事を頑張ろうと努力した。
それだけに、裏切られたショックは大きかった。
少しは気持ちが繋がっていたと思っていた相手から、尻尾切りの様に切り捨てられたのだ。
絶対に見返してやる!
「冒険者になるわ」
クロエは、改めて覚悟を決めた表情で答えた。
「・・・そうか」
クロエの強い意志を感じ取ったのか、老人はそれ以上何も言わずに冒険者の登録用紙を渡した。
当然、そんな街の冒険者ギルドに所属する冒険者は、必然的にならず者や脛に傷のある者達が多く集まる。
何とか冒険者ギルドに辿り着いたクロエは、ギルド内の雰囲気を見て、頬を引くつかせた。
「これが・・・冒険者ギルドなの?」
何より最初に驚いたのは、臭いだった。
冒険者ギルド内は酒場かと思うくらいに酒の臭いが充満しており、タバコの煙とおっさんの汗の臭いが混ざり合って、吐き気が込み上げそうになる。
床に座り込んで酒瓶を抱えている男は冒険者と言うより浮浪者と言われた方がしっくりくるレベルだ。
それに、冒険者ギルド内は酷く汚い。
酒や食べカスが床に散らかっても清楚する者はおらず、まるで閉店後の酒場の様な雰囲気に、来る場所を間違えたのでは無いかと不安が込み上げる。
「こ、こんな所で挫けるわけには行かないわ!」
それでも、冒険者として成り上がる決意は固く、クロエは気を取り直して冒険者ギルドの受付に向かって歩いて行く。
冒険者ギルド内に女性は殆どおらず、美しいクロエを見た酔っ払いの冒険者達のいやらしい視線が集まった。
暴漢に襲われた時に破れたワイシャツやスカートのせいで、余計な関心を集めてしまった様だ。
中には、あからさまにクロエのスカートの中を覗き込もうとする者もいたが、クロエは全て無視して、毅然とした態度でカウンターの老人の前で立ち止まった。
「何の様だ?」
体格の良い老人は威圧的な態度でジロリとクロエを見て質問した。
太い腕には刺青が入っており、引退した傭兵の様な鋭い目付きをしていた。
一瞬、気圧されそうになるが、こう言う場所では舐められない事が大事だと分かったクロエは、堂々と胸を張り、受付の男を見上げた。
「冒険者登録をしに来たわ!」
クロエが答えた瞬間、冒険者ギルド内が笑いに包まれた。
「ギャハハ!俺はテッキリ娼婦が出張サービスで来たのかと思ったぜ!」
「冒険者じゃなくて、娼館に行った方が稼げるぜ?」
「ヒッヒッヒ、着替えも一人じゃ出来なそうなお嬢ちゃんに冒険者はまだ早いぜ!」
「ハハッ!ゴブリンの囮役なら使えそうだぜ?」
「囮が捕まってゴブリンを増やしちまうんじゃねーか?」
「ゴブリンの子を産むくらいなら、俺の子を増やしてくれや!」
冒険者達は、デリカシーのカケラもない下品で猥褻な言葉の数々を浴びせてきた。
公爵令嬢として、蝶よ花よと育てられてきたクロエには、理解が追いつかない状況だった。
今まで下衆なクズだと思っていた貴族令息達は、あくまでも最低限の貴族としての礼儀は守っており、紳士な対応の範囲内だった。
平民の男とは、こうも下劣で卑猥な生き物なの?
いやらしい言葉の数々を浴びせられたクロエの顔は羞恥心で真っ赤に染まっていた。
冒険者になると言う事は、こんな汚く、卑猥で下劣な男達に囲まれて生きて行かなければならないのだ。
クロエは、自分がどれだけ危うい事をしているのか理解した。
飢えた狼の群れの中に放り込まれた仔羊の様に震えるクロエを見て、受付の老人は、溜息を吐いて、首を横に振った。
「ここは、こう言う場所だ、覚悟が無いなら家に帰りな」
老人は、冷たく言っている様だが、クロエの事を気遣ってくれていた。
しかし、家に帰れと言われたクロエは、俯いて表情が曇る。
「・・・私に帰る家は無いわ」
ハートフィリア家を追い出されたクロエには、帰る家は無い。
ましてや一文無しの今の状況で、クロエには後退の選択肢は無かった。
もしも、ここで、冒険者になる事を諦めたら、残された道は本当に娼館で働く事くらいしか無くなってしまうかも知れない。
見ず知らずの男に身体を許す?
プライドを捨てて、好きでも無い男に媚びへつらう?
男の性欲の捌け口として、道具の様に扱われる生き方なんて、自分には出来ない。
今まで、婚約者である第一王子の為に厳しい王妃教育を耐え抜き、社交界では政敵である第二王子派の貴族達の嫌がらせに耐え、時には悪役を買って出る事すら厭わなかった。
第一王子とは、政略結婚だったとは言え、嫌いでは無かった。
いや、寧ろ好意を抱く程に、誠実で真面目で努力家だった。
だから、自分も第一王子の為に出来る事を頑張ろうと努力した。
それだけに、裏切られたショックは大きかった。
少しは気持ちが繋がっていたと思っていた相手から、尻尾切りの様に切り捨てられたのだ。
絶対に見返してやる!
「冒険者になるわ」
クロエは、改めて覚悟を決めた表情で答えた。
「・・・そうか」
クロエの強い意志を感じ取ったのか、老人はそれ以上何も言わずに冒険者の登録用紙を渡した。
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