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第1話 全てを失った日
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そこは、太陽の光が燦々と降り注ぐ常夏のビーチだった。
真っ白な砂浜に何処までも続く青い海は、シエロ王国屈指のリゾート地であり、貴族達の避暑地として人気を集めていた。
しかし、日焼けをする事を嫌う貴族令嬢達は、別荘の窓やテラスから景色を眺めるだけで、砂浜に立ち入る者は案外少ない。
そんな中、1人の美少女が砂浜に寝そべっていた。
真っ白なビキニは露出が多く、小麦色に焼けた健康的な肌を惜しみなく太陽に晒していた。
サングラスを掛けて、眩しい太陽の下で、アイスレモンティーを飲みながら、優雅に休日を過ごしているのは、シエロ王国の三大公爵家の一つであるハートフィリア家の長女クロエ・ハートフィリアだった。
貴族令嬢の中でもトップに君臨する公爵令嬢が、そんなはしたない姿を晒せば、直ぐに社交界で噂が立つはずだが、彼女を良く知る者達は、今更その程度の事で驚きはしない。
クロエ・ハートフィリアは、社交界の悪女として名を馳せており、噂が途絶える事は無かった。
パーティーでドレスが被った令嬢にお茶をかけたり、嫌いな令嬢に嫌がらせで大量のネズミをプレゼントしたり、気に入った宝石やアクセサリーがあれば、他人の物でもお構い無しに平気で奪う我儘っぷりが面白おかしく話題にされており、噂は次第に尾鰭はひれが付いて行く。
使用人を何人も殺している、嫌いな令嬢に毒を盛った、暗殺者を雇って敵対する家を襲わせた、莫大な金を横領して使い込んでいるなど、クロエの知らないところで噂は勝手に広がっていた。
そんな中でも、最近のホットな話題は、クロエの浮気騒動だった。
クロエが奴隷を集めて、ハーレムを作っているだとか、毎日、違う男をたらし込んでいるといった貴族令嬢として許容し難い噂が広がっていた。
クロエは、第一王子の婚約者でもあり、流石に今回の噂は不味いと判断したハートフィリア家は、噂が落ち着くまで、クロエを王都から出して、別荘で謹慎する様に命じた。
当然だが、クロエには、浮気の心当たりなど無く、必死に噂を否定したが、普段の行いと悪評から、誰も信じてくれる者は居なかった。
・・・家族すらもクロエが浮気をしたという噂を信じており、冷たい目を向けられた時は、ショックを受けた。
「何で誰も私の言葉を信じてくれないのかしら?」
クロエは、ムスッとした表情で自分の境遇を嘆いた。
噂の殆どが嘘であり、クロエには身に覚えの無い内容だった。
しかし、繰り返し流される噂によって作られたクロエのイメージは、簡単には払拭する事は出来ない。
公爵令嬢であり、第一王子の婚約者であるクロエには、敵が多い。
わざとクロエのイメージを悪くさせようと嘘の噂を流す者は後を絶たない。
先月行った15歳のデビュタントでは、令嬢達からは距離を置かれ、噂を信じた愚かで下衆な貴族令息達が甘い蜜に群がる虫の様に集まってクロエを囲った。
その光景を見た者達は、クロエが若い男達を侍らせていると勘違いして、更に噂は広がって行った。
全てがクロエにとって悪い方向へと進んで行く。
最悪なデビュタントを忘れる為に、避暑地では羽目を外して日焼けをしてみたが、これもきっと新たな噂の種になってしまうのだろう。
「クロエお嬢様!」
その時、別荘の方から侍女のアンが大声で呼んでいるのが聴こえて来た。
かなり焦っている様で、メイド姿で走っている。
「何かあったのかしら?」
アンはクロエの前に来ると息を整える様に深呼吸をする。
「王家から遣いが来ております!急いで別荘にお戻り下さ・・ってなんて格好をしてるんですか!?」
白いビキニ姿のクロエを見て、アンは顔を真っ赤にして声を荒げた。
ハートフィリア家の使用人の中でも、アンは付き合いが長く、唯一の気を許せる相手だった。
「取り敢えず、着替えるまで待ってもらって」
クロエは、ゆっくりと着替え用の小屋に向かう。
「その日焼けも治してから来て下さいね!」
クロエは、ハイハイと返事をする様に振り返らずに手を振って答える。
シックな黒いドレスに着替えたクロエは、別荘の応接室に向かっていた。
日焼けした肌は治癒魔術で元の白い肌に治してあり、優雅に歩く姿は目を奪われる程に美しかった。
「はぁ・・・嫌な予感がするわね」
クロエは、応接室の前に着くと、深いため息を吐いて呟いた。
この状況で、王家から遣いが来るという事は、良くない知らせが来た事は間違いないだろう。
知らせの内容を聞くのが怖い。
だが、いつまでも国王の遣いを待たせるわけにもいかないクロエは、ゆっくりと扉を開いて中に入った。
応接室では、王国騎士達が物々しい雰囲気で待っていた。
「遅くなり申し訳ありません」
普段、我儘で傲慢なクロエだが、国王の遣いの前では、流石に礼儀正しく振る舞う。
「クロエ・ハートフィリア、汝に国王からの王命を授ける!」
先頭に立つ騎士が羊皮紙を取り出して読み上げて行く。
クロエの素行の悪さや醜聞に耐えかねる噂の数々の内容の羅列が続き、昨今の浮気騒動の真偽に関わらず、王家の評判を落とした責任は全てクロエの普段の行いに起因する事、そして、これ以上、両家の信頼を失墜させない為の措置として、問題を起こしたクロエ・ハートフィリアを厳罰に処する旨が伝えられた。
「・・・よって、ハートフィリア家と王家の婚約を解消し、クロエ・ハートフィリアは、貴族の資格を剥奪し平民に降格とする!今後、ハートフィリア家への出入り及び接触を禁ずる!」
王国騎士は、読み終えると、羊皮紙を懐に仕舞い、鞄を一つ手渡して来た。
クロエは、余りのショックで現実を受け入れられず、黄金色の瞳を揺らして動揺を隠せずにいた。
「・・・これは?」
渡されたボロい鞄を見て首を傾げる。
「最低限の荷物と手切金が入っている、ハートフィリア家の所有する財産及び宝石やドレスは全て返却し、鞄の中にある服に着替えて、一刻以内に退去する様に!」
その日、クロエ・ハートフィリアは、財産、名誉、権力の全てを失い平民へ堕ちた。
真っ白な砂浜に何処までも続く青い海は、シエロ王国屈指のリゾート地であり、貴族達の避暑地として人気を集めていた。
しかし、日焼けをする事を嫌う貴族令嬢達は、別荘の窓やテラスから景色を眺めるだけで、砂浜に立ち入る者は案外少ない。
そんな中、1人の美少女が砂浜に寝そべっていた。
真っ白なビキニは露出が多く、小麦色に焼けた健康的な肌を惜しみなく太陽に晒していた。
サングラスを掛けて、眩しい太陽の下で、アイスレモンティーを飲みながら、優雅に休日を過ごしているのは、シエロ王国の三大公爵家の一つであるハートフィリア家の長女クロエ・ハートフィリアだった。
貴族令嬢の中でもトップに君臨する公爵令嬢が、そんなはしたない姿を晒せば、直ぐに社交界で噂が立つはずだが、彼女を良く知る者達は、今更その程度の事で驚きはしない。
クロエ・ハートフィリアは、社交界の悪女として名を馳せており、噂が途絶える事は無かった。
パーティーでドレスが被った令嬢にお茶をかけたり、嫌いな令嬢に嫌がらせで大量のネズミをプレゼントしたり、気に入った宝石やアクセサリーがあれば、他人の物でもお構い無しに平気で奪う我儘っぷりが面白おかしく話題にされており、噂は次第に尾鰭はひれが付いて行く。
使用人を何人も殺している、嫌いな令嬢に毒を盛った、暗殺者を雇って敵対する家を襲わせた、莫大な金を横領して使い込んでいるなど、クロエの知らないところで噂は勝手に広がっていた。
そんな中でも、最近のホットな話題は、クロエの浮気騒動だった。
クロエが奴隷を集めて、ハーレムを作っているだとか、毎日、違う男をたらし込んでいるといった貴族令嬢として許容し難い噂が広がっていた。
クロエは、第一王子の婚約者でもあり、流石に今回の噂は不味いと判断したハートフィリア家は、噂が落ち着くまで、クロエを王都から出して、別荘で謹慎する様に命じた。
当然だが、クロエには、浮気の心当たりなど無く、必死に噂を否定したが、普段の行いと悪評から、誰も信じてくれる者は居なかった。
・・・家族すらもクロエが浮気をしたという噂を信じており、冷たい目を向けられた時は、ショックを受けた。
「何で誰も私の言葉を信じてくれないのかしら?」
クロエは、ムスッとした表情で自分の境遇を嘆いた。
噂の殆どが嘘であり、クロエには身に覚えの無い内容だった。
しかし、繰り返し流される噂によって作られたクロエのイメージは、簡単には払拭する事は出来ない。
公爵令嬢であり、第一王子の婚約者であるクロエには、敵が多い。
わざとクロエのイメージを悪くさせようと嘘の噂を流す者は後を絶たない。
先月行った15歳のデビュタントでは、令嬢達からは距離を置かれ、噂を信じた愚かで下衆な貴族令息達が甘い蜜に群がる虫の様に集まってクロエを囲った。
その光景を見た者達は、クロエが若い男達を侍らせていると勘違いして、更に噂は広がって行った。
全てがクロエにとって悪い方向へと進んで行く。
最悪なデビュタントを忘れる為に、避暑地では羽目を外して日焼けをしてみたが、これもきっと新たな噂の種になってしまうのだろう。
「クロエお嬢様!」
その時、別荘の方から侍女のアンが大声で呼んでいるのが聴こえて来た。
かなり焦っている様で、メイド姿で走っている。
「何かあったのかしら?」
アンはクロエの前に来ると息を整える様に深呼吸をする。
「王家から遣いが来ております!急いで別荘にお戻り下さ・・ってなんて格好をしてるんですか!?」
白いビキニ姿のクロエを見て、アンは顔を真っ赤にして声を荒げた。
ハートフィリア家の使用人の中でも、アンは付き合いが長く、唯一の気を許せる相手だった。
「取り敢えず、着替えるまで待ってもらって」
クロエは、ゆっくりと着替え用の小屋に向かう。
「その日焼けも治してから来て下さいね!」
クロエは、ハイハイと返事をする様に振り返らずに手を振って答える。
シックな黒いドレスに着替えたクロエは、別荘の応接室に向かっていた。
日焼けした肌は治癒魔術で元の白い肌に治してあり、優雅に歩く姿は目を奪われる程に美しかった。
「はぁ・・・嫌な予感がするわね」
クロエは、応接室の前に着くと、深いため息を吐いて呟いた。
この状況で、王家から遣いが来るという事は、良くない知らせが来た事は間違いないだろう。
知らせの内容を聞くのが怖い。
だが、いつまでも国王の遣いを待たせるわけにもいかないクロエは、ゆっくりと扉を開いて中に入った。
応接室では、王国騎士達が物々しい雰囲気で待っていた。
「遅くなり申し訳ありません」
普段、我儘で傲慢なクロエだが、国王の遣いの前では、流石に礼儀正しく振る舞う。
「クロエ・ハートフィリア、汝に国王からの王命を授ける!」
先頭に立つ騎士が羊皮紙を取り出して読み上げて行く。
クロエの素行の悪さや醜聞に耐えかねる噂の数々の内容の羅列が続き、昨今の浮気騒動の真偽に関わらず、王家の評判を落とした責任は全てクロエの普段の行いに起因する事、そして、これ以上、両家の信頼を失墜させない為の措置として、問題を起こしたクロエ・ハートフィリアを厳罰に処する旨が伝えられた。
「・・・よって、ハートフィリア家と王家の婚約を解消し、クロエ・ハートフィリアは、貴族の資格を剥奪し平民に降格とする!今後、ハートフィリア家への出入り及び接触を禁ずる!」
王国騎士は、読み終えると、羊皮紙を懐に仕舞い、鞄を一つ手渡して来た。
クロエは、余りのショックで現実を受け入れられず、黄金色の瞳を揺らして動揺を隠せずにいた。
「・・・これは?」
渡されたボロい鞄を見て首を傾げる。
「最低限の荷物と手切金が入っている、ハートフィリア家の所有する財産及び宝石やドレスは全て返却し、鞄の中にある服に着替えて、一刻以内に退去する様に!」
その日、クロエ・ハートフィリアは、財産、名誉、権力の全てを失い平民へ堕ちた。
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