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9話 オークの力
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窓から差し込む日の光で、ジン・クロードは目を覚ました。
「・・・朝か」
今日は黒騎士学園の入学式だ。
同時にこの家とも暫くお別れになる。
独り身には広過ぎて、時折寂しさを感じさせられる家だが、両親と過ごした大切な場所だ。
名残惜しさはあるが、黒騎士学園に入れば、寮での生活が基本になる。
昨日の内に荷物や資産は全て収納アイテムに入れたので、2階建の一軒家はガランとしていた。
いつもの革鎧や刀も今は収納されており、黒いジャケットと白いシャツに黒いパンツ姿に着替えていた。
これは黒騎士学園の制服であり、先週家に送られてきた物だ。
在学中は基本的に制服で過ごすのが決まりらしい。
「そろそろ行くか」
ジンは家を出ると、ザザンの南区にある騎士学園へと歩き始めた。
ジンの家は西区にあり、騎士学園までは徒歩で1時間程度掛かる。
街中には、ジンと同じく騎士学園に入学する学生達が何人も歩いていた。
だが、全員ジンとは違う制服を着ている。
確か、聖騎士学園は金の刺繍が施された白いジャケットに白いシャツと白いパンツの全身白一色だ。
騎士学園は白いジャケットに白いシャツと黒いパンツを着ており、魔導騎士学園の生徒は紺色のローブを着ている。
制服を見れば直ぐにどの学園の生徒なのか分かる様になっている。
更に肩に刺繍された星の数が学年をあらわしており、ジンの肩には星が1つだけある。
「おい、あいつ黒騎士学園の制服着ているぞ?」
少し離れた騎士学園の学生達がジンの制服を見て話をしている。
騎士学園の中でも黒騎士や聖騎士学園に入れるのは1割程度しかいない。
だから、ジン・クロードは騎士学園の中ではエリートに位置する。
「マジかよ、離れようぜ」
「怖いわね」
しかし、周囲の反応は決してエリートに対するものでは無かった。
問題は黒騎士学園の評判にある。
黒騎士が悪魔と契約しているからという風評的な部分もあるが、問題は悪魔と契約できる黒騎士には邪悪な魂を持つ者が多いからだ。
憎悪や怒りといった負の感情を悪魔は好む。
実際、黒騎士には残虐行為や素行の悪さが目立っており、戦場では優秀だが、街中では嫌われている場合が少なくない。
黒騎士学園の生徒が起こしたトラブルは数え切れない程あり、他の学園の生徒は嫌厭する。
逆に聖騎士学園の生徒は品性良好かつエリートな騎士として人気がある。
正義感や自己犠牲の強いタイプが多く、騎士道にも通じているからだろう。
「誰か!そいつを止めてくれ!」
誰かが叫び声を上げた。
声がした方を見てみると、鎖で繋がれた魔物や亜人達を檻に入れて運んでいる人達がおり、一体のオークが鎖を引き千切って、手前にいた護衛の騎士を殴り倒して武器を奪った。
「・・・オーク?」
全身の血管が浮き上がり、拳に力が入る。
オークを生で見るのは初めてだったが、文献や絵で見た特徴と一致していた。
2mを超える巨体に緑色の肌、筋肉質な肉体に醜い豚の様な鼻の亜人は、真っ直ぐジン達がいる方へと逃げてきた。
騎士から奪った両手剣を片手で軽々しく振り回しているオークの身体能力は人間の数倍以上あり、近接戦闘が得意な亜人だ。
油断すれば殺られる。
「お、オークだ!」
「きゃああああ!?」
「逃げろ!」
市民だけで無く、騎士学園の生徒達も慌てて逃げ惑う。
そんな中、ジンだけが右手に黒刀を持っていた。
「邪魔する奴は殺すぞ!」
オークは立ち塞がるジンに怒声を上げると全身に赤い魔力のオーラを纏った。
オークが得意とする身体強化魔法だ。
通常時でさえ、人間の数倍の力を持つオークが身体強化をすれば、その力は絶大だ。
ドガンッ!!
オークが振り下ろした両手剣が地面を割る。
土煙が舞う中、ジンは黒刀を横一文字に振り抜いてオークの腹に当てた。
「グアアッ!?痛えな!」
全力で振り抜いた一撃だったが、オークの分厚い筋肉と脂肪の鎧に防がれてしまい、内臓までダメージがいかなかった様だ。
「チッ」
そこへオークの荒っぽい一撃が振り下ろされる。
咄嗟に刀でガードをするが、オークの一撃は想像以上に重い。
「ぐっ!」
まるで巨大な岩が落ちてきたかの様な一撃にジンは膝を着く。
何とか止める事が出来たが、両腕が痺れて感覚が無い。
「舐めるなよ?クソガキが!」
オークの前蹴りがジンの腹を穿つ。
「げはっ!」
オークの硬く巨大な足がめり込み、そのまま数十メートル吹き飛ばして民家に突っ込んだ。
「余計な時間を食ったぜ!」
オークは、早く人間の街から脱出する為に外を目指して走り出す。
しかし、いつの間にか目の前には黒騎士が1人立っていた。
「チッ、もう来やがったか!」
黒騎士は、無言で両手剣を構えると、流れる様な動きでオークの懐に潜り込み、剣を振るう。
漆黒の刃がオークの分厚い胸板を斬り裂き、緑色の血が噴き出した。
「グアアッ!」
黒騎士は、瞬きの間に数十を超える連撃を繰り出し、オークを圧倒した。
「何だコイツは!?」
全身に斬撃を受けたオークは血塗れになりながらも、致命傷を避けており、反撃に出た。
ガキンッ!!
オークが放った上段からの一撃と黒騎士が放つ下段からの斬り上げがぶつかり合い火花が散る。
黒騎士とオークの力は拮抗しており、互いに一歩も引かない。
「グハァ!?」
しかし、突如、オークの胸から漆黒の刃が生えた。
オークが後ろを振り向くと、先程蹴り飛ばしたはずのジン・クロードが背中から刀を突き刺していた。
「この・・・ガキ・・が」
オークは心臓を貫かれており、直ぐに絶命し、地面に倒れる。
同時に黒騎士も黒い霧となって消えた。
「これが、オークの力か」
ジンはそのまま意識を失い地面に倒れた。
「・・・朝か」
今日は黒騎士学園の入学式だ。
同時にこの家とも暫くお別れになる。
独り身には広過ぎて、時折寂しさを感じさせられる家だが、両親と過ごした大切な場所だ。
名残惜しさはあるが、黒騎士学園に入れば、寮での生活が基本になる。
昨日の内に荷物や資産は全て収納アイテムに入れたので、2階建の一軒家はガランとしていた。
いつもの革鎧や刀も今は収納されており、黒いジャケットと白いシャツに黒いパンツ姿に着替えていた。
これは黒騎士学園の制服であり、先週家に送られてきた物だ。
在学中は基本的に制服で過ごすのが決まりらしい。
「そろそろ行くか」
ジンは家を出ると、ザザンの南区にある騎士学園へと歩き始めた。
ジンの家は西区にあり、騎士学園までは徒歩で1時間程度掛かる。
街中には、ジンと同じく騎士学園に入学する学生達が何人も歩いていた。
だが、全員ジンとは違う制服を着ている。
確か、聖騎士学園は金の刺繍が施された白いジャケットに白いシャツと白いパンツの全身白一色だ。
騎士学園は白いジャケットに白いシャツと黒いパンツを着ており、魔導騎士学園の生徒は紺色のローブを着ている。
制服を見れば直ぐにどの学園の生徒なのか分かる様になっている。
更に肩に刺繍された星の数が学年をあらわしており、ジンの肩には星が1つだけある。
「おい、あいつ黒騎士学園の制服着ているぞ?」
少し離れた騎士学園の学生達がジンの制服を見て話をしている。
騎士学園の中でも黒騎士や聖騎士学園に入れるのは1割程度しかいない。
だから、ジン・クロードは騎士学園の中ではエリートに位置する。
「マジかよ、離れようぜ」
「怖いわね」
しかし、周囲の反応は決してエリートに対するものでは無かった。
問題は黒騎士学園の評判にある。
黒騎士が悪魔と契約しているからという風評的な部分もあるが、問題は悪魔と契約できる黒騎士には邪悪な魂を持つ者が多いからだ。
憎悪や怒りといった負の感情を悪魔は好む。
実際、黒騎士には残虐行為や素行の悪さが目立っており、戦場では優秀だが、街中では嫌われている場合が少なくない。
黒騎士学園の生徒が起こしたトラブルは数え切れない程あり、他の学園の生徒は嫌厭する。
逆に聖騎士学園の生徒は品性良好かつエリートな騎士として人気がある。
正義感や自己犠牲の強いタイプが多く、騎士道にも通じているからだろう。
「誰か!そいつを止めてくれ!」
誰かが叫び声を上げた。
声がした方を見てみると、鎖で繋がれた魔物や亜人達を檻に入れて運んでいる人達がおり、一体のオークが鎖を引き千切って、手前にいた護衛の騎士を殴り倒して武器を奪った。
「・・・オーク?」
全身の血管が浮き上がり、拳に力が入る。
オークを生で見るのは初めてだったが、文献や絵で見た特徴と一致していた。
2mを超える巨体に緑色の肌、筋肉質な肉体に醜い豚の様な鼻の亜人は、真っ直ぐジン達がいる方へと逃げてきた。
騎士から奪った両手剣を片手で軽々しく振り回しているオークの身体能力は人間の数倍以上あり、近接戦闘が得意な亜人だ。
油断すれば殺られる。
「お、オークだ!」
「きゃああああ!?」
「逃げろ!」
市民だけで無く、騎士学園の生徒達も慌てて逃げ惑う。
そんな中、ジンだけが右手に黒刀を持っていた。
「邪魔する奴は殺すぞ!」
オークは立ち塞がるジンに怒声を上げると全身に赤い魔力のオーラを纏った。
オークが得意とする身体強化魔法だ。
通常時でさえ、人間の数倍の力を持つオークが身体強化をすれば、その力は絶大だ。
ドガンッ!!
オークが振り下ろした両手剣が地面を割る。
土煙が舞う中、ジンは黒刀を横一文字に振り抜いてオークの腹に当てた。
「グアアッ!?痛えな!」
全力で振り抜いた一撃だったが、オークの分厚い筋肉と脂肪の鎧に防がれてしまい、内臓までダメージがいかなかった様だ。
「チッ」
そこへオークの荒っぽい一撃が振り下ろされる。
咄嗟に刀でガードをするが、オークの一撃は想像以上に重い。
「ぐっ!」
まるで巨大な岩が落ちてきたかの様な一撃にジンは膝を着く。
何とか止める事が出来たが、両腕が痺れて感覚が無い。
「舐めるなよ?クソガキが!」
オークの前蹴りがジンの腹を穿つ。
「げはっ!」
オークの硬く巨大な足がめり込み、そのまま数十メートル吹き飛ばして民家に突っ込んだ。
「余計な時間を食ったぜ!」
オークは、早く人間の街から脱出する為に外を目指して走り出す。
しかし、いつの間にか目の前には黒騎士が1人立っていた。
「チッ、もう来やがったか!」
黒騎士は、無言で両手剣を構えると、流れる様な動きでオークの懐に潜り込み、剣を振るう。
漆黒の刃がオークの分厚い胸板を斬り裂き、緑色の血が噴き出した。
「グアアッ!」
黒騎士は、瞬きの間に数十を超える連撃を繰り出し、オークを圧倒した。
「何だコイツは!?」
全身に斬撃を受けたオークは血塗れになりながらも、致命傷を避けており、反撃に出た。
ガキンッ!!
オークが放った上段からの一撃と黒騎士が放つ下段からの斬り上げがぶつかり合い火花が散る。
黒騎士とオークの力は拮抗しており、互いに一歩も引かない。
「グハァ!?」
しかし、突如、オークの胸から漆黒の刃が生えた。
オークが後ろを振り向くと、先程蹴り飛ばしたはずのジン・クロードが背中から刀を突き刺していた。
「この・・・ガキ・・が」
オークは心臓を貫かれており、直ぐに絶命し、地面に倒れる。
同時に黒騎士も黒い霧となって消えた。
「これが、オークの力か」
ジンはそのまま意識を失い地面に倒れた。
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