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7話 魔の森
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魔の森の奥深く、そこは人の足が殆ど入る事は無く、熟練の冒険者でも嫌厭する程に高ランクの魔物が頻出する危険地帯だ。
そんな森の中を1人の男が駆け抜ける。
漆黒の全身鎧に身を包み、両手剣を構えた騎士の目の前に巨大な木の魔物が立ち塞がった。
その硬い樹皮は捉えた獲物の血を吸い紅く染まっており、伸びた無数の枝には葉が一枚も無く、硬く渇き切った枝は血を吸いたくて獲物を探しているかの様に蠢いていた。
他の木と大差ない大きさのブラッティエントは、木に擬態しながらの不意打ちを得意とする魔物だ。
その危険度はキラーワームと同じくCランクに位置しており、並の冒険者では歯が立たない。
しかし、漆黒の騎士は眼前に現れたブラッティエントへと剣を突き立てた。
「キェェエエエエ!!」
血の様に紅い樹皮に刃が突き刺さり、ブラッティエントが悲痛な叫び声を上げる。
怒り狂ったブラッティエントはドリルの様に鋭く尖らした根を地面から何本も放つ。
だが、黒騎士の右目はその全てを見透かしており、漆黒の鎧が最適な動きで全ての攻撃を躱す。
ジン・クロードは闘いの最中でも愉しんでいた。
鋼鉄より硬い全身鎧は、羽の様に軽く重荷にはならない。
それどころか、漆黒の鎧は意志を持って動いており、身体強化したかの様に戦闘を補助してくれる。
自らが悪魔の騎士となる事で普段の数倍もの力を得る事ができた。
両手剣は木の枝の様に軽く感じられ、目にも留まらぬ速さで、襲い来るブラッティエントの枝を斬り落としていく。
「キェェエエエエ!?」
ブラッティエントの枝には痛覚があるのか、痛そうにもがいている。
「トドメだ!」
ジンは両手剣を構えると一気に突っ込んだ。
真っ直ぐ突き立てた両手剣がベキベキとブラッティエントの幹を貫き魔石を砕いた。
神眼は魔物の急所である魔石の位置すら見透かす。
絶命したブラッティエントは地面から触手の様な根と土を巻き上げながらズシンと地面に倒れた。
「グルアアアア!」
そこへ間髪入れずに現れたのは全長5mのキラーベアだ。
まるで恐れを知らないかの様に襲い掛かって来るのを、2体の悪魔の騎士が左右から斬り裂いた。
キラーベアはなす術なく胴体を両断され、首を落とされて絶命した。
「良くやった」
ジンが褒めると、2体の悪魔の騎士が膝を着いて頭を垂れる。
まるで次の命令を待っているかの様な姿に、ジンは笑みを浮かべる。
「出てこい」
ジンが命令すると更に3体の悪魔の騎士が現れ、合計5体の悪魔の騎士がジンを守る様に陣形を取る。
既に悪魔の騎士単体でもC級冒険者のトップレベルと遜色ないくらいの力を持っている。
ちなみに冒険者のランクはこんな感じだ。
E級:新米
D級:中堅
C級:熟練
B級:上級
A級:一流
S級:英雄
SS級:伝説
B級にもなると現役の騎士にも引けを取らないレベルだ。
「入学式までにはB級程度まで上げたいところだな」
ジンは悪魔の騎士達を引き連れて、更に森の奥深くへと入って行った。
~3週間後~
冒険者ギルドは今日も忙しそうにギルド職員達が仕事に追われていた。
当然、ギルド職員の一員であるナーベも大量の依頼書を整理しながら受付を捌いていく。
だが、ナーベの心境は非常に不安定だった。
ジン・クロードがグレイウルフの討伐依頼を受注してから、既に3週間が経過していた。
しかし、未だに依頼達成の報告は来ておらず、ギルドにも顔を出していない。
家にも何度か訪ねてみたが、ずっと留守の様だ。
門番にも尋ねてみたが、3週間前に見送った後、一度も門を通過した記録は無いとの事だ。
魔の森で何かあったのではないか?
ナーベは心配で仕方が無かった。
ジンの捜索依頼を出したい所だが、常に人員不足の冒険者ギルドには余裕が無い上に、ジン・クロードより強い冒険者は居ないので、助けられる者も居ない。
歯痒い中、ナーベは魔の森に関する依頼を出来るだけ優先的に冒険者達へ割り当てる様にしていた。
もしかしたら、森の中でジン・クロードを発見してくれるかもしれないという淡い期待を込めての行動だが、何故か依頼は殆ど達成できずに冒険者達が帰ってくる事が多い。
理由はターゲットの魔物が見つからないからと言うのが大半だ。
何故か討伐対象の魔物がどこにもいない。
魔物が少ないのは良い事なのだが、冒険者達は依頼の失敗が続いてイラついていた。
もしかしたら、正体不明の強力な魔物が出現し、他の魔物達が縄張りを追い出されたのかも知れない。
もし、ジン・クロードが強力な魔物に襲われていたらと考えると、居ても立っても居られない気持ちになる。
その時、冒険者ギルドの扉が開いて1人の青年が入ってきた。
見慣れた革の鎧に黒髪の青年は、真っ直ぐナーベの立っている受付カウンターへ近付き、10個の魔石を置いた。
「依頼を達成しました」
ジン・クロードは少し疲れた顔で報告する。
「無事だったんですね!3週間も連絡が無くて、心配したんですよ?」
「すみません。魔物を追っていたら夢中になってしまって」
ジンは苦笑いしながら謝る。
ナーベは少し怒っているのか、頬を膨らませていた。
「もしかして、ずっと魔の森に居たんですか?」
「はい、ついでに素材の買取を依頼したいんですけど、良いですか?」
「え?大丈夫ですけど、素材はどこに?」
見た感じジンは手ぶらだ。
しかも収納アイテムの貸与もしていないので、素材らしき物は無さそうに見えた。
「すみません、勝手にギルドの裏に置かせて頂きました」
確かにギルドの裏は大型の魔物を討伐した時用に大きめの広場がある。
だが、あくまで巨大な魔物を倒した時の為のものであり、収納アイテムも使わないで運べる様な素材を置く場所では無い。
「分かりました、先ずは確認してみましょう」
ナーベとジンはギルドの裏口から広間に向かった。
何故か広間には人集りが出来ており、ナーベは首を傾げる。
「何かあったんですかね?」
ナーベは野次馬が集まっている場所に行くと、目を見開いて驚愕した。
「な、何ですかこれ!?」
そこにあったのは数千体以上ある魔物の死体だった。
ドラゴンの死体ですら置ける広間が魔物の死体で山積みになっている。
「すみません、やり過ぎました」
ジンは苦笑いしながら頭を下げた。
そんな森の中を1人の男が駆け抜ける。
漆黒の全身鎧に身を包み、両手剣を構えた騎士の目の前に巨大な木の魔物が立ち塞がった。
その硬い樹皮は捉えた獲物の血を吸い紅く染まっており、伸びた無数の枝には葉が一枚も無く、硬く渇き切った枝は血を吸いたくて獲物を探しているかの様に蠢いていた。
他の木と大差ない大きさのブラッティエントは、木に擬態しながらの不意打ちを得意とする魔物だ。
その危険度はキラーワームと同じくCランクに位置しており、並の冒険者では歯が立たない。
しかし、漆黒の騎士は眼前に現れたブラッティエントへと剣を突き立てた。
「キェェエエエエ!!」
血の様に紅い樹皮に刃が突き刺さり、ブラッティエントが悲痛な叫び声を上げる。
怒り狂ったブラッティエントはドリルの様に鋭く尖らした根を地面から何本も放つ。
だが、黒騎士の右目はその全てを見透かしており、漆黒の鎧が最適な動きで全ての攻撃を躱す。
ジン・クロードは闘いの最中でも愉しんでいた。
鋼鉄より硬い全身鎧は、羽の様に軽く重荷にはならない。
それどころか、漆黒の鎧は意志を持って動いており、身体強化したかの様に戦闘を補助してくれる。
自らが悪魔の騎士となる事で普段の数倍もの力を得る事ができた。
両手剣は木の枝の様に軽く感じられ、目にも留まらぬ速さで、襲い来るブラッティエントの枝を斬り落としていく。
「キェェエエエエ!?」
ブラッティエントの枝には痛覚があるのか、痛そうにもがいている。
「トドメだ!」
ジンは両手剣を構えると一気に突っ込んだ。
真っ直ぐ突き立てた両手剣がベキベキとブラッティエントの幹を貫き魔石を砕いた。
神眼は魔物の急所である魔石の位置すら見透かす。
絶命したブラッティエントは地面から触手の様な根と土を巻き上げながらズシンと地面に倒れた。
「グルアアアア!」
そこへ間髪入れずに現れたのは全長5mのキラーベアだ。
まるで恐れを知らないかの様に襲い掛かって来るのを、2体の悪魔の騎士が左右から斬り裂いた。
キラーベアはなす術なく胴体を両断され、首を落とされて絶命した。
「良くやった」
ジンが褒めると、2体の悪魔の騎士が膝を着いて頭を垂れる。
まるで次の命令を待っているかの様な姿に、ジンは笑みを浮かべる。
「出てこい」
ジンが命令すると更に3体の悪魔の騎士が現れ、合計5体の悪魔の騎士がジンを守る様に陣形を取る。
既に悪魔の騎士単体でもC級冒険者のトップレベルと遜色ないくらいの力を持っている。
ちなみに冒険者のランクはこんな感じだ。
E級:新米
D級:中堅
C級:熟練
B級:上級
A級:一流
S級:英雄
SS級:伝説
B級にもなると現役の騎士にも引けを取らないレベルだ。
「入学式までにはB級程度まで上げたいところだな」
ジンは悪魔の騎士達を引き連れて、更に森の奥深くへと入って行った。
~3週間後~
冒険者ギルドは今日も忙しそうにギルド職員達が仕事に追われていた。
当然、ギルド職員の一員であるナーベも大量の依頼書を整理しながら受付を捌いていく。
だが、ナーベの心境は非常に不安定だった。
ジン・クロードがグレイウルフの討伐依頼を受注してから、既に3週間が経過していた。
しかし、未だに依頼達成の報告は来ておらず、ギルドにも顔を出していない。
家にも何度か訪ねてみたが、ずっと留守の様だ。
門番にも尋ねてみたが、3週間前に見送った後、一度も門を通過した記録は無いとの事だ。
魔の森で何かあったのではないか?
ナーベは心配で仕方が無かった。
ジンの捜索依頼を出したい所だが、常に人員不足の冒険者ギルドには余裕が無い上に、ジン・クロードより強い冒険者は居ないので、助けられる者も居ない。
歯痒い中、ナーベは魔の森に関する依頼を出来るだけ優先的に冒険者達へ割り当てる様にしていた。
もしかしたら、森の中でジン・クロードを発見してくれるかもしれないという淡い期待を込めての行動だが、何故か依頼は殆ど達成できずに冒険者達が帰ってくる事が多い。
理由はターゲットの魔物が見つからないからと言うのが大半だ。
何故か討伐対象の魔物がどこにもいない。
魔物が少ないのは良い事なのだが、冒険者達は依頼の失敗が続いてイラついていた。
もしかしたら、正体不明の強力な魔物が出現し、他の魔物達が縄張りを追い出されたのかも知れない。
もし、ジン・クロードが強力な魔物に襲われていたらと考えると、居ても立っても居られない気持ちになる。
その時、冒険者ギルドの扉が開いて1人の青年が入ってきた。
見慣れた革の鎧に黒髪の青年は、真っ直ぐナーベの立っている受付カウンターへ近付き、10個の魔石を置いた。
「依頼を達成しました」
ジン・クロードは少し疲れた顔で報告する。
「無事だったんですね!3週間も連絡が無くて、心配したんですよ?」
「すみません。魔物を追っていたら夢中になってしまって」
ジンは苦笑いしながら謝る。
ナーベは少し怒っているのか、頬を膨らませていた。
「もしかして、ずっと魔の森に居たんですか?」
「はい、ついでに素材の買取を依頼したいんですけど、良いですか?」
「え?大丈夫ですけど、素材はどこに?」
見た感じジンは手ぶらだ。
しかも収納アイテムの貸与もしていないので、素材らしき物は無さそうに見えた。
「すみません、勝手にギルドの裏に置かせて頂きました」
確かにギルドの裏は大型の魔物を討伐した時用に大きめの広場がある。
だが、あくまで巨大な魔物を倒した時の為のものであり、収納アイテムも使わないで運べる様な素材を置く場所では無い。
「分かりました、先ずは確認してみましょう」
ナーベとジンはギルドの裏口から広間に向かった。
何故か広間には人集りが出来ており、ナーベは首を傾げる。
「何かあったんですかね?」
ナーベは野次馬が集まっている場所に行くと、目を見開いて驚愕した。
「な、何ですかこれ!?」
そこにあったのは数千体以上ある魔物の死体だった。
ドラゴンの死体ですら置ける広間が魔物の死体で山積みになっている。
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