黒騎士物語

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5話 聖魔の儀

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漸く全ての試験を終えたジン・クロードも残すは聖魔の儀だけとなった。
本来の実力を測る為に、聖魔の儀は他の試験が全て終わってから執り行うのが通例となっている。

聖魔の儀は儀式塔の一つで行われており、鉄の扉の前に案内された。

「入りなさい」

指示に従いジンは鉄の扉を開けて中に入る。
重々しい音を立てて扉が開いた瞬間、ジンの目が見開いた。

「・・・マジか」

儀式の間は壁中に幾何学模様でルーン文字が刻まれた巨大なドーム状になっていた。
そして、驚いた事に部屋にいたのは試験官では無く、巨大な悪魔と天使だった。

「そこに立て人間」

左側に立つ巨大な悪魔がジンに指図する。
5m以上ある巨体に黒い蝙蝠の翼を持ち、筋肉隆々な黒い肌の悪魔からは尋常では無い威圧感を感じた。



「私達が貴方の魂を判定します」

右側に立つのは温和な表情の白い翼を持つ天使だ。
金髪に白い肌の美しい女性の姿をしているが、その身体は悪魔と同じくらい大きく、ジンを見下ろしていた。



「分かりました」

ジンは指示通りに部屋の中央にあるルーン文字の印がある場所に立った。

「貴様は何を望む?」

悪魔が問う。

「力が欲しい・・・独りでもオークの皇帝を殺せるくらいの力が」

ジンは復讐する為の力を渇望していた。
それは己の無力さを知るが故の欲望だ。
王女1人にすら勝てないのでは、オークの皇帝を倒すなんて夢のまた夢・・・誰にも負けない力が欲しい。

「貴様の魂からは復讐、憎悪、怒りが感じられる」

悪魔はジンを値踏みする様に眺める。

「ですが、同時に彼の魂からは慈愛と勇気が感じられます」

天使が柔和な眼差しをジンに向ける。

「どうやら貴様の魂には天使と悪魔の両方の性質がある様だ」

幸運な事に聖騎士の母と黒騎士の父を持つジンにはその両方の才能が魂に引き継がれていた。

「貴様はどちらの力を望む、破壊と殺戮の為の悪魔の力か?」

「それとも、他者を守り、自らの誇りを守る為の天使の力ですか?」

悪魔と天使がジンに選択を迫る。

「その選択は片方しか選べないのか?」

ジンの問いに悪魔が邪悪な笑みを浮かべた。

「グハハハハ!傲慢な人間だな!強すぎる欲望はその身を滅ぼすかも知れんぞ?」

「貴方にはその代償を払う覚悟がありますか?」

「代償とは何ですか?」

「魂だ!力とは貴様の魂の一部を代償にして生み出される!貴様の憎悪と怒りから生まれる悪魔が貴様に力を齎らす!強い力を望むのならより多くの代償を払う事になる」

「天使を生み出すだけでも貴方の魂に掛かる負担は絶大です。悪魔と天使の2つの力を得ようとすれば、貴方の魂は耐えられずに消滅してしまうかも知れません」

「仮に魂が無事だったとしても魂が削られる苦痛は貴様の精神を破壊するかも知れんぞ?」

悪魔と天使の問いにもジンの気持ちは一ミリも揺らぎはしなかった。
復讐を果たすためなら、どんな代償でも受け入れる覚悟があった。

「構いません」

「面白い!ならば貴様の覚悟が本物か試してやろう!」

「試練を乗り越えた時、貴方は新たな道が開けるでしょう」

悪魔と天使が黒と白の魔力の球を創り出し、ジンの胸に放った。

「ぐっ!?」

ドクンッと心臓が波打つ様に鼓動すると、視界が真っ暗になり、全身に激痛が走った。
まるで精神がバラバラに引き裂かれた様な不快感と痛みで頭がおかしくなりそうになる。
血が沸騰して血管という血管が破裂しそうな痛みの中、ジンは荒い息を吐きながらも、必死に耐えていた。

「グハハハハ!倒れないとは大した人間だな!」

「普通の人間ならのたうち回って発狂する程の痛みですからね」

一瞬なのか永遠なのかも分からないくらいの時間の流れの中、ジンは魂が3つに引き裂かれる痛みに耐えていた。

「・・・ほう、耐え切ったか」

ジンの全身から憎悪と怒りが具現化したかの様な暗く重たい漆黒のオーラが溢れ出る。
オーラは次第に形を持ち始め、一体の悪魔の騎士を創り出した。
漆黒の鎧を身に纏い、漆黒の両手剣を持つ悪魔はジンに片膝を着いて頭を垂れた。



「我が主人よ、何なりと御命令下さい」

忠実な悪魔の騎士の力と知識が頭の中に直接流れ込んでくる。
悪魔の騎士はジンの魂の一部であり新たな力だ。

それと同時に右目に激痛が走った。

「ぐあああああ!!」

漆黒だった瞳の色が金色に染まる。



「どうやら、天使が受肉するには不十分だった様ですね」

ジンの魂の大半を悪魔の騎士が持っていった為、天使を創り出すだけの力が残っておらず、代わりにジンの右目を代償に天使の力が付与された。

その右目はまるで千里眼の様に周囲を見る事ができ、壁の向こう側でも見透す力があった。

「天使は創り出す事が出来ませんでしたが、貴方の右眼には神眼の力が宿りました」

「神眼の力?」

「ありとあらゆるモノを見透すその瞳は、力を強化すれば未来すら見透す事ができるでしょう」

「だが、貴様の力の本質は悪魔だ・・・貴様には血塗られた未来への道を歩む運命が待っている事をゆめゆめ忘れぬ事だ」

血塗られた運命なら覚悟の上だ。
オーク共の血で大地を染めてやるさ。

「これが、俺の力・・・ハハッ!最高の気分だ!」

ジンは右手を翳して悪魔の騎士を霧に変えた。
望んだ以上の力を手に入れたジンは不敵な笑みを浮かべた。
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