4 / 9
4話 王家の剣
しおりを挟む
入学試験は順調に進んでいた。
午前の部最後の試験は受験生同士の対戦形式による試験であり、勝ち上がりのトーナメント形式で進められていた。
既に8回戦まで進んでおり、残った4人の中にはジン・クロードの姿もあった。
「次の試合はジン・クロード対シルフ・エスパーダ様です!」
審判が名前を呼んだ瞬間、会場が騒めく。
既に殆どの受験生が試合を終えており、観戦モードに入っているせいもあるが、何より、ジンの対戦相手の名前を聞いた時の衝撃が大きい。
国名であるエスパーダの性を名乗る彼女は、この国の第三王女であり、騎士が命を賭けて守るべき対象だ。
「なんで王族が騎士学園の入学試験を受けているんだよ」
ジンは溜息混じりに愚痴をこぼしながら石造りの闘技台に上がった。
反対側には、美しい銀髪と雪の様に白い肌の少女が立っていた。
身長は160cm程で、ジンとは20cm近く差がある。
確か年齢はジンと同じ16歳だったはずだ。
シルフ王女は、アイスブルーの瞳で真っ直ぐジンを見ていた。
「まいったな、王女相手に剣なんか振るったら不敬罪で死刑になるんじゃ無いか?」
恐らく、今までの戦いも相手が棄権するかワザと負けて勝ち上がって来たのだろう。
全く、興味本位か知らないが、迷惑な王女だなとジンは眉間に皺を寄せる。
シルフ王女は細身のレイピアを片手で持ち、正面に構えた。
「参ります!」
次の瞬間、レイピアの剣先が目の前に迫っていた。
「早ッ!?」
10m以上あった距離を一瞬にして詰めてきたシルフ王女は、最短距離の突きを放つ。
その一撃をギリギリ反応したジンは頬から赤い血を流しながら、反射的に剣を振るっていた。
カウンターを狙った上段からの一撃は確実にシルフ王女の頭へと狙いが定められている。
「やべっ!」
反撃をするつもりは無かったが、シルフ王女の予想外な気迫と剣術に身体が反応してしまった。
ギャリンッ!
しかし、シルフ王女は細いレイピアの剣先でジンの剣を滑らせる様に軌道を逸らして躱した。
ジンの剣はそのまま地面に当たり、刃が折れる。
「何!?」
次の瞬間、レイピアの剣先がジンの喉元に置かれていた。
「降参・・・しますか?」
シルフ王女は、真っ直ぐにジンの瞳を覗き込む。
まるで、試しているかの様なその瞳に何故か無性に腹が立った。
普段ならここで降参して終わりだ。
だが、それではダメだと感じだ。
ここが戦場なら敗北は死だ。
簡単に降参する様な奴にオークの皇帝を殺す事など出来るはずがない。
「・・・嫌です」
次の瞬間、ジンの前蹴りがシルフ王女の胸当てを突き上げた。
ダメージは無いが、数メートル後ろに吹き飛ばされたシルフ王女は、軽い身のこなしで着地すると、口元に薄く笑みを浮かべていた。
「ブー!」
会場からは大ブーイングが巻き起こり、ジンに非難の声や悪口が飛び交っていた。
「少し・・・熱くなっていますね」
ジンは半分に折れた剣を構えて、呼吸を整える。
もう、ジンの中に油断や侮りの心は無かった。
真剣な眼差しに、シルフ王女は満面の笑みを浮かべてレイピアを構えた。
可愛い。
一瞬、シルフ王女の笑顔に見惚れてしまった。
だが、直ぐに気持ちを切り替えたジンは、足元に落ちている折れた刃を蹴り飛ばした。
ビュンッと剣先がシルフ王女に飛来するが、軽くレイピアで叩き落とす。
会場からは卑怯だぞとヤジが飛ぶが、無視だ。
蹴り飛ばすと同時に踏み出していたジンは折れた剣でレイピアの根本を狙って斬り付ける。
しなやかなレイピアとはいえ、根本は柔軟性が低く、折れているとは言え、太い剣で叩きつければ破壊できるはずだ。
ガキンッ!
だが、次の瞬間、ジンの視界は空を見上げていた。
「ガハッ!?」
シルフ王女が真下からジンの顎を蹴り上げていた。
「先程の蹴りのお返しです」
強い。
洗練された動きは王家の剣に恥じない実力だった。
こんなに一方的にやられたのは久しぶりだ。
次の瞬間には、再び喉元に剣先を押し当てられており、シルフ王女がニコリと笑みを浮かべていた。
「降参しますか?」
流石に2度も負ければ認めざる得ないだろう。
「参った」
ジンは折れた剣を地面に落として両手を上げた。
シルフ王女への喝采が鳴り響き、ジンへのブーイングも同じくらい鳴っていた。
「ふふっ、良い戦いでしたわ」
シルフ王女は右手を前に出した。
握手を求めているのだろうが、ジンは片膝を着いて、こうべを垂れた。
「勿体なきお言葉感謝します」
シルフ王女は少し複雑そうな顔をして、闘技台を降りていく。
ジンは重い体を引きずって近くのベンチに腰掛けた。
全身が身体強化の反動でガタガタだ。
ザックス将軍との試合で身体強化を使ってしまったのが響いた。
しかし、シルフ王女は万全の体調でも勝てるかは分からないくらい強かった。
「負けたのなんか、久しぶりだな」
ジンは、少し悔しそうに呟いた。
結局、その次の試合もシルフ王女が圧勝し、優勝者はシルフ・エスパーダとなった。
午前の部最後の試験は受験生同士の対戦形式による試験であり、勝ち上がりのトーナメント形式で進められていた。
既に8回戦まで進んでおり、残った4人の中にはジン・クロードの姿もあった。
「次の試合はジン・クロード対シルフ・エスパーダ様です!」
審判が名前を呼んだ瞬間、会場が騒めく。
既に殆どの受験生が試合を終えており、観戦モードに入っているせいもあるが、何より、ジンの対戦相手の名前を聞いた時の衝撃が大きい。
国名であるエスパーダの性を名乗る彼女は、この国の第三王女であり、騎士が命を賭けて守るべき対象だ。
「なんで王族が騎士学園の入学試験を受けているんだよ」
ジンは溜息混じりに愚痴をこぼしながら石造りの闘技台に上がった。
反対側には、美しい銀髪と雪の様に白い肌の少女が立っていた。
身長は160cm程で、ジンとは20cm近く差がある。
確か年齢はジンと同じ16歳だったはずだ。
シルフ王女は、アイスブルーの瞳で真っ直ぐジンを見ていた。
「まいったな、王女相手に剣なんか振るったら不敬罪で死刑になるんじゃ無いか?」
恐らく、今までの戦いも相手が棄権するかワザと負けて勝ち上がって来たのだろう。
全く、興味本位か知らないが、迷惑な王女だなとジンは眉間に皺を寄せる。
シルフ王女は細身のレイピアを片手で持ち、正面に構えた。
「参ります!」
次の瞬間、レイピアの剣先が目の前に迫っていた。
「早ッ!?」
10m以上あった距離を一瞬にして詰めてきたシルフ王女は、最短距離の突きを放つ。
その一撃をギリギリ反応したジンは頬から赤い血を流しながら、反射的に剣を振るっていた。
カウンターを狙った上段からの一撃は確実にシルフ王女の頭へと狙いが定められている。
「やべっ!」
反撃をするつもりは無かったが、シルフ王女の予想外な気迫と剣術に身体が反応してしまった。
ギャリンッ!
しかし、シルフ王女は細いレイピアの剣先でジンの剣を滑らせる様に軌道を逸らして躱した。
ジンの剣はそのまま地面に当たり、刃が折れる。
「何!?」
次の瞬間、レイピアの剣先がジンの喉元に置かれていた。
「降参・・・しますか?」
シルフ王女は、真っ直ぐにジンの瞳を覗き込む。
まるで、試しているかの様なその瞳に何故か無性に腹が立った。
普段ならここで降参して終わりだ。
だが、それではダメだと感じだ。
ここが戦場なら敗北は死だ。
簡単に降参する様な奴にオークの皇帝を殺す事など出来るはずがない。
「・・・嫌です」
次の瞬間、ジンの前蹴りがシルフ王女の胸当てを突き上げた。
ダメージは無いが、数メートル後ろに吹き飛ばされたシルフ王女は、軽い身のこなしで着地すると、口元に薄く笑みを浮かべていた。
「ブー!」
会場からは大ブーイングが巻き起こり、ジンに非難の声や悪口が飛び交っていた。
「少し・・・熱くなっていますね」
ジンは半分に折れた剣を構えて、呼吸を整える。
もう、ジンの中に油断や侮りの心は無かった。
真剣な眼差しに、シルフ王女は満面の笑みを浮かべてレイピアを構えた。
可愛い。
一瞬、シルフ王女の笑顔に見惚れてしまった。
だが、直ぐに気持ちを切り替えたジンは、足元に落ちている折れた刃を蹴り飛ばした。
ビュンッと剣先がシルフ王女に飛来するが、軽くレイピアで叩き落とす。
会場からは卑怯だぞとヤジが飛ぶが、無視だ。
蹴り飛ばすと同時に踏み出していたジンは折れた剣でレイピアの根本を狙って斬り付ける。
しなやかなレイピアとはいえ、根本は柔軟性が低く、折れているとは言え、太い剣で叩きつければ破壊できるはずだ。
ガキンッ!
だが、次の瞬間、ジンの視界は空を見上げていた。
「ガハッ!?」
シルフ王女が真下からジンの顎を蹴り上げていた。
「先程の蹴りのお返しです」
強い。
洗練された動きは王家の剣に恥じない実力だった。
こんなに一方的にやられたのは久しぶりだ。
次の瞬間には、再び喉元に剣先を押し当てられており、シルフ王女がニコリと笑みを浮かべていた。
「降参しますか?」
流石に2度も負ければ認めざる得ないだろう。
「参った」
ジンは折れた剣を地面に落として両手を上げた。
シルフ王女への喝采が鳴り響き、ジンへのブーイングも同じくらい鳴っていた。
「ふふっ、良い戦いでしたわ」
シルフ王女は右手を前に出した。
握手を求めているのだろうが、ジンは片膝を着いて、こうべを垂れた。
「勿体なきお言葉感謝します」
シルフ王女は少し複雑そうな顔をして、闘技台を降りていく。
ジンは重い体を引きずって近くのベンチに腰掛けた。
全身が身体強化の反動でガタガタだ。
ザックス将軍との試合で身体強化を使ってしまったのが響いた。
しかし、シルフ王女は万全の体調でも勝てるかは分からないくらい強かった。
「負けたのなんか、久しぶりだな」
ジンは、少し悔しそうに呟いた。
結局、その次の試合もシルフ王女が圧勝し、優勝者はシルフ・エスパーダとなった。
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる