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3話 入学試験
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騎士学園の入学試験は首都ザザンを含む5大都市で開催され、毎年10000人近くの才能ある青年達が受験する。
エスパーダ王国では16歳になると騎士学園の入学試験を受けるかそれ以外の進路を進むかを選ぶ必要がある。
騎士は命を掛けて国民を守る義務があり、危険を伴う仕事だが、その分だけの俸給と名誉が与えられる。
なので毎年、騎士を目指す若者は後を絶たない。
騎士学園の入学試験は、試験と謳ってはいるものの、基本的に不合格になる事は滅多に無い。
騎士学園のモットーは人を育てる事であり、入学してから才能を伸ばせば良いと言う考えなので、入学時の実力の有無はあまり影響しない。
ならば、なぜ入学試験などと言うものを行うのか、と思うかも知れない。
騎士学園の入学試験は謂わばふるい分けである。
騎士学園には以下の4つの学園が存在する。
・騎士学園:騎士としての育成機関
・魔導騎士学園:魔術師としての育成機関
・聖騎士学園:聖騎士としての育成機関
・黒騎士学園:黒騎士としての育成機関
入学試験で必ず行うのが聖魔の儀と呼ばれる儀式である。
これは全ての受験生が受ける義務があり、才能がある者は魂の一部を捧げることで天使か悪魔を召喚し、契約できる様になる。
人間が強力な亜人達に抗う為に編み出した技術である。
悪魔か天使かは本人の魂の性質に依存し、基本的には新たに生まれたばかりの低レベルな天使や悪魔しか契約する事は出来ない。
しかし、使役した天使や悪魔は魔石を喰わす事で成長する。
人間はルーン文字を利用した魔術しか使う事が出来ないが、悪魔や天使と契約をする事で、ルーン文字を介さない魔法の使用が可能になる。
使える魔法は使役した天使や悪魔の性質に依存する。
そして、エスパーダ王国最強と謳われる聖騎士と黒騎士になる為には、それぞれ天使と悪魔を使役する事が条件となっている。
軍としては少しでも聖騎士や黒騎士を増やしたいので、優先的に聖魔の儀を受けさせる。
しかし、聖魔の儀で成功できるのは1割程度の人間しかいない。
残りの9割は騎士学園か魔導騎士学園に割り振られる。
魔術の才能がある者は魔導騎士学園へ入学し、それ以外は騎士学園に入学する。
騎士学園は、凡才の印象が強いが、決して才能が無いわけでは無い。
騎士としてなら聖騎士や黒騎士に引けを取らない程の実力者も毎年卒業している。
首都ザザンの南区に位置する騎士学園では、正に入学試験が行われており、入学を希望する若者達で溢れかえっていた。
貴族から平民までが入り乱れるこの光景は騎士学園でしか見る事は出来ない。
当然、その中にはジン・クロードの姿も在った。
「次の者!」
屈強な体躯の男が刃を潰した鈍の剣で受験生を指すと、石造りのリングに上がる。
今は実技試験中であり、騎士を希望する者の実力を測っていた。
試験管の屈強な男は現役の騎士であり、歩兵隊のザックス将軍である。
余りに格上の存在を前に、受験生達は萎縮してしまい本来の実力を出せないでいた。
リングに上がった受験生も棒立ちのままザックスの放った横薙ぎの一撃を受けてしまい、そのままリングの外に弾き飛ばされてしまった。
「ろくに反応も出来ないとは!入学したら扱きまくる必要があるな!」
ザックスは若干の落胆を禁じ得なかった。
受験生とは言え、騎士を目指す者がこんな素人同然とは・・・。
相手が格上で実力が出せないと言うのは言い訳にすらならない。
戦場では常に敵味方が入り乱れており、格上と相見える事も少なくない。
しかし、敵は手加減などしてはくれないのだ。
実力以上の力を発揮して何とか生き残れる様に僅かな隙を狙い、工夫しなければ、生き残る事など出来ない。
「次!!」
ザックスは、次の受験生を指名する。
「・・・ほう」
リングに上がって来たのは黒髪の青年だった。
鋭く黒い瞳は真っ直ぐにザックスを見つめており、集中している。
装備も他の受験生は馬鹿みたいに重たい重装備の鎧を着た貴族の息子や普段着で来る平民など戦闘経験が無い者ばかりだが、この青年は自分の身体に合った動きやすい皮の鎧を身につけていた。
しかも、皮の鎧は使い込まれており、無数の傷が目立つが、しっかりと整備されている。
恐らく熟練の冒険者か?
若いのに良い面構えだ。
ザックスはニヤリと笑うと一気に踏み込んだ。
先程と同じ様に横薙ぎに剣を振るう。
しかし、先程とは違い青年は剣とは逆に避けてザックスの背後へと移動していた。
「良い反応だ!」
青年が放った鋭い突きをザックスは軽く剣でいなす。
同時に前蹴りを放ち青年の体勢を崩した。
「そらっ!」
今度はザックスが上段からの一撃を放った。
それを青年は剣を滑らせる様に逸らし、カウンターの上段斬りを返す。
「ほっ、やるな!」
ザックスは身を捻って避けると同時に横一文字に渾身の一撃を放った。
避ける事は不可能なゼロ距離からの一撃だ。
青年は全身に魔力を込めて、更に身体強化の魔術を発動させた。
即座に剣の腹でザックスの一撃をガードするが、凄まじい威力の剣撃により身体ごと吹き飛ばされる。
「くっ」
リングのギリギリで踏み止まる事ができたが、両腕が痺れて使い物にならない。
しかも、今の一撃で剣が真っ二つに折れてしまっていた。
「終わりか?」
ザックスは容赦なく踏み込み、上段からの一撃を放つ。
周りにいた誰もがザックスの勝ちを確信した瞬間、青年は剣を捨ててザックスの懐に踏み込んだ。
身体強化で限界まで強化されたタックルはザックスの巨体ごと吹き飛ばす。
上段からの一撃も懐に入られては効果を発揮しない。
ザックスに馬乗りになった青年は、腰のナイフを抜きザックスの首筋に当てていた。
「まだ続けますか?」
青年の質問に、ザックスは満面の笑みを浮かべて笑った。
「ガッハッハッハ!ワシの負けだ!やるじゃ無いか!」
ザックスは立ち上がり嬉しそうに青年を見る。
青年はザックスに勝ったと言うのに、少しも嬉しそうでは無かった。
青年はザックスが手加減をしている事に気が付いていたのだ。
それを悟ったザックスはより嬉しそうに笑う。
「小僧、名前は?」
青年がナイフをしまいリングを降りようとしたので、思わず名前を尋ねた。
「ジン・クロードです」
ジンは一礼してリングを降りる。
「卒業したら絶対ワシの部隊に入れてやる!」
ザックスは笑いながら手を振る。
「次!」
ジン・クロードの戦い方に刺激されたのか、次の受験生は少し真面な面構えに変わっていた。
エスパーダ王国では16歳になると騎士学園の入学試験を受けるかそれ以外の進路を進むかを選ぶ必要がある。
騎士は命を掛けて国民を守る義務があり、危険を伴う仕事だが、その分だけの俸給と名誉が与えられる。
なので毎年、騎士を目指す若者は後を絶たない。
騎士学園の入学試験は、試験と謳ってはいるものの、基本的に不合格になる事は滅多に無い。
騎士学園のモットーは人を育てる事であり、入学してから才能を伸ばせば良いと言う考えなので、入学時の実力の有無はあまり影響しない。
ならば、なぜ入学試験などと言うものを行うのか、と思うかも知れない。
騎士学園の入学試験は謂わばふるい分けである。
騎士学園には以下の4つの学園が存在する。
・騎士学園:騎士としての育成機関
・魔導騎士学園:魔術師としての育成機関
・聖騎士学園:聖騎士としての育成機関
・黒騎士学園:黒騎士としての育成機関
入学試験で必ず行うのが聖魔の儀と呼ばれる儀式である。
これは全ての受験生が受ける義務があり、才能がある者は魂の一部を捧げることで天使か悪魔を召喚し、契約できる様になる。
人間が強力な亜人達に抗う為に編み出した技術である。
悪魔か天使かは本人の魂の性質に依存し、基本的には新たに生まれたばかりの低レベルな天使や悪魔しか契約する事は出来ない。
しかし、使役した天使や悪魔は魔石を喰わす事で成長する。
人間はルーン文字を利用した魔術しか使う事が出来ないが、悪魔や天使と契約をする事で、ルーン文字を介さない魔法の使用が可能になる。
使える魔法は使役した天使や悪魔の性質に依存する。
そして、エスパーダ王国最強と謳われる聖騎士と黒騎士になる為には、それぞれ天使と悪魔を使役する事が条件となっている。
軍としては少しでも聖騎士や黒騎士を増やしたいので、優先的に聖魔の儀を受けさせる。
しかし、聖魔の儀で成功できるのは1割程度の人間しかいない。
残りの9割は騎士学園か魔導騎士学園に割り振られる。
魔術の才能がある者は魔導騎士学園へ入学し、それ以外は騎士学園に入学する。
騎士学園は、凡才の印象が強いが、決して才能が無いわけでは無い。
騎士としてなら聖騎士や黒騎士に引けを取らない程の実力者も毎年卒業している。
首都ザザンの南区に位置する騎士学園では、正に入学試験が行われており、入学を希望する若者達で溢れかえっていた。
貴族から平民までが入り乱れるこの光景は騎士学園でしか見る事は出来ない。
当然、その中にはジン・クロードの姿も在った。
「次の者!」
屈強な体躯の男が刃を潰した鈍の剣で受験生を指すと、石造りのリングに上がる。
今は実技試験中であり、騎士を希望する者の実力を測っていた。
試験管の屈強な男は現役の騎士であり、歩兵隊のザックス将軍である。
余りに格上の存在を前に、受験生達は萎縮してしまい本来の実力を出せないでいた。
リングに上がった受験生も棒立ちのままザックスの放った横薙ぎの一撃を受けてしまい、そのままリングの外に弾き飛ばされてしまった。
「ろくに反応も出来ないとは!入学したら扱きまくる必要があるな!」
ザックスは若干の落胆を禁じ得なかった。
受験生とは言え、騎士を目指す者がこんな素人同然とは・・・。
相手が格上で実力が出せないと言うのは言い訳にすらならない。
戦場では常に敵味方が入り乱れており、格上と相見える事も少なくない。
しかし、敵は手加減などしてはくれないのだ。
実力以上の力を発揮して何とか生き残れる様に僅かな隙を狙い、工夫しなければ、生き残る事など出来ない。
「次!!」
ザックスは、次の受験生を指名する。
「・・・ほう」
リングに上がって来たのは黒髪の青年だった。
鋭く黒い瞳は真っ直ぐにザックスを見つめており、集中している。
装備も他の受験生は馬鹿みたいに重たい重装備の鎧を着た貴族の息子や普段着で来る平民など戦闘経験が無い者ばかりだが、この青年は自分の身体に合った動きやすい皮の鎧を身につけていた。
しかも、皮の鎧は使い込まれており、無数の傷が目立つが、しっかりと整備されている。
恐らく熟練の冒険者か?
若いのに良い面構えだ。
ザックスはニヤリと笑うと一気に踏み込んだ。
先程と同じ様に横薙ぎに剣を振るう。
しかし、先程とは違い青年は剣とは逆に避けてザックスの背後へと移動していた。
「良い反応だ!」
青年が放った鋭い突きをザックスは軽く剣でいなす。
同時に前蹴りを放ち青年の体勢を崩した。
「そらっ!」
今度はザックスが上段からの一撃を放った。
それを青年は剣を滑らせる様に逸らし、カウンターの上段斬りを返す。
「ほっ、やるな!」
ザックスは身を捻って避けると同時に横一文字に渾身の一撃を放った。
避ける事は不可能なゼロ距離からの一撃だ。
青年は全身に魔力を込めて、更に身体強化の魔術を発動させた。
即座に剣の腹でザックスの一撃をガードするが、凄まじい威力の剣撃により身体ごと吹き飛ばされる。
「くっ」
リングのギリギリで踏み止まる事ができたが、両腕が痺れて使い物にならない。
しかも、今の一撃で剣が真っ二つに折れてしまっていた。
「終わりか?」
ザックスは容赦なく踏み込み、上段からの一撃を放つ。
周りにいた誰もがザックスの勝ちを確信した瞬間、青年は剣を捨ててザックスの懐に踏み込んだ。
身体強化で限界まで強化されたタックルはザックスの巨体ごと吹き飛ばす。
上段からの一撃も懐に入られては効果を発揮しない。
ザックスに馬乗りになった青年は、腰のナイフを抜きザックスの首筋に当てていた。
「まだ続けますか?」
青年の質問に、ザックスは満面の笑みを浮かべて笑った。
「ガッハッハッハ!ワシの負けだ!やるじゃ無いか!」
ザックスは立ち上がり嬉しそうに青年を見る。
青年はザックスに勝ったと言うのに、少しも嬉しそうでは無かった。
青年はザックスが手加減をしている事に気が付いていたのだ。
それを悟ったザックスはより嬉しそうに笑う。
「小僧、名前は?」
青年がナイフをしまいリングを降りようとしたので、思わず名前を尋ねた。
「ジン・クロードです」
ジンは一礼してリングを降りる。
「卒業したら絶対ワシの部隊に入れてやる!」
ザックスは笑いながら手を振る。
「次!」
ジン・クロードの戦い方に刺激されたのか、次の受験生は少し真面な面構えに変わっていた。
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