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1話 キラーワームの討伐
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暗い洞窟の中を進むのは1人の冒険者だった。
背丈は180cm程だろうか、細身の身体は鍛えられた筋肉で引き締まっており、動きやすい皮の鎧はよく使い込まれている。
熟練の冒険者にも見えるが、その端正な顔は未だ若い。
16歳位だろうか、艶のある黒髪と鋭い黒目の青年は、子供と大人の両方の側面を併せ持つ顔付きだ。
1人で洞窟の中を進むのは熟練の冒険者でも危険を伴う。
しかし、青年は黙々と暗い道を進んで行く。
左手には松明を持ち、左腰には片刃の刀を下げている。
更に右腰にはハンドガンタイプの魔銃が下げられていた。
どの装備も良く使い込まれていると同時に丁寧に整備されている。
その姿を見れば、青年が新人冒険者では無い事は誰の目にも明らかだった。
「来たか?」
青年は僅かに感じる地面の振動を察知して松明を地面に落とした。
油が染み込んだ布で巻いた松明は簡単には消えず、暗い洞窟の中を照らしてくれる。
そして、ゆっくりと腰の刀をひきぬくと、正面に構えた。
意識を集中し、僅かな空気や地面の振動も見逃さない様に呼吸を静める。
振動は徐々に大きくなっており、揺れる壁から小石がパラパラと落ちる。
ドガンッ!!
右斜め上の壁を突き破って出てきたのは巨大な牙だった。
円状に並んだ無数の巨大な牙の中心には全てを飲み込まんとする深い穴があり、穴の奥まで牙が並んでいるのが見える。
岩石すら噛み砕きながら穴を掘れる奴の牙に捕らえられたら一瞬にして喰いちぎられてしまうだろう。
ズルズルと穴から這い出てくると奴の全身が露になる。
ブヨブヨした灰色の皮は芋虫の様に脈打ち、牛すら丸呑みできるくらいに太く、全長は10m以上ある。
「来たなキラーワーム!」
青年が今回受けた依頼はキラーワームの討伐だった。
最近、魔鉄の鉱山で坑夫が行方不明になる事件が多発していた。
調査に来た前の冒険者パーティは1人がキラーワームの餌食になり、残りの2人も重傷を負いながら命からがら逃げ帰った。
キラーワームの危険度はCランクだが、その中で最も危険な討伐対象の魔物だ。
青年の冒険者ランクはCランクであり、単独での戦闘では厳しい戦いになる。
それでも、千年戦争で戦力の殆どをオルクス帝国との戦いに割かなければいけない冒険者ギルドには、Bランク以上の冒険者を派遣する余裕は無かった。
青年の名はジン・クロード、16歳の冒険者だ。
聖騎士の母と黒騎士の父の間に産まれたが、ジンが12歳の時に戦争で両親を失っているので、今は独りで生きている。
幸い両親が残してくれた遺産があるので生活には困らないが、自分で生きていく力をつける為に冒険者をしている。
しかし、それも今日までの話だった。
ジンは明日の試験を受けて騎士学園へ入学する予定だからだ。
両親がそうした様にジンも騎士となり、戦場へ出る。
そして、両親を殺したハイオークの皇帝オルクスを必ず殺さなければいけない。
だから、こんな場所で死ぬわけにはいかない。
ジンは左に飛んでキラーワームの牙を避けると同時にキラーワームの横っ腹へと踏み込んだ。
居合斬りを抜き放ち、キラーワームの皮膚を横一文字に斬り裂く。
ガキンッ!
しかし、キラーワームの皮膚は岩石よりも硬く、細い刀では刃が立たない。
薄い傷が付いただけで、逆にキラーワームが胴体をウネらせて弾き飛ばされてしまう。
「チッ、硬いな」
硬い皮膚以外に狙うとしたら口の中しかないが、あの凶悪な牙を前にして、正面に立つのは自殺行為だ。
キラーワームは、暗い洞窟で一生を過ごすので、眼は完全に退化して無くなっている。
その代わり、少しの振動すらも見逃さない様に感覚器官が発達しており、正確にジンへと向かって来る。
ジンは魔力を発動し全身に纏う。
魔力のオーラは刀まで包み込み、肉体と武器の強度を上げる。
更に皮の鎧に刻んだ身体強化のルーン文字に魔力を流し込み発動させた。
身体強化魔術は、一時的に魔力で全身の筋肉を限界まで使える様にする事ができる代わりに、肉体への負担が大きい。
通常は、一度使うと翌日は筋肉痛で真面に動けなくなる。
ジンは、先程とは比べ物にならない速度でキラーワームの攻撃を避けるとキラーワームの横っ腹へ鋭い突きを放つ。
ガキンッ!!
それでも、キラーワームの硬い皮膚は中々貫けない。
僅かな傷を残しただけだ。
「ギギギギギギ!!」
怒り狂う様にキラーワームは直線的な攻撃を繰り返してきた。
その度にジンは左に避けて突きを放ち続けた。
ザクッ!
そして5回目の突きがキラーワームの硬い皮膚を貫いた。
「ギギギギギギ!?」
緑色の体液が噴水の様に噴き出し、ジンの皮の鎧を汚した。
酷い悪臭だが、気にしている暇は無い。
全ての攻撃を同じ箇所に当てる事で漸くキラーワームの皮膚を貫通出来た。
この隙を逃すわけにはいかない。
キラーワームは、既に逃亡しようと身体の向きを変えようとしていた。
野生の動物は臆病だ。
少しでも危険を感じれば直ぐに逃げる。
そして、傷が癒えたらまた敵を襲う。
ジンは、右腰のハンドガンを抜くとキラーワームの傷口に銃口を押し込んだ。
有りったけの魔力を魔銃に込めて引金を引く。
魔銃に刻まれたルーン文字は爆炎、銃口から放たれた業火がキラーワームの体内を焼き尽くし、キラーワームの口から爆炎が噴き出した。
「ギギギギギギ・・ギギ」
断末魔を上げたキラーワームは、ドシンッと地面に横たわり動かなくなった。
「終わったか」
ジンは収納魔術のルーン文字が刻まれた指輪をキラーワームの死体にかざして魔力を流し込んだ。
すると一瞬にしてキラーワームの死体が指輪の宝石に吸い込まれていく。
「全部入ったのか、流石ギルドが貸してくれた魔導具だな」
この指輪は討伐の証拠を持ち帰る為にギルドがジンに貸与した魔導具であり、一つだけなら一軒家くらいの大きさの物まで収納できる。
非常に高価な魔導具であり、Cランクの冒険者には買えない代物た。
大型の魔物の討伐や死骸に価値がある場合は、ギルドから貸し出される事がある。
虚偽の報告や貴重な魔物の素材を横流しさせない為の防止としても活用されている。
「さて、ギルドに帰るか」
ジンは松明を拾い上げると、来た道をゆっくり歩き始めた。
既に身体強化の反動が出始めており、身体中がバキバキと軋む。
「明日の入学試験は大丈夫かな?」
ジンはトボトボと暗い洞窟を歩きながら、帰路に着く。
背丈は180cm程だろうか、細身の身体は鍛えられた筋肉で引き締まっており、動きやすい皮の鎧はよく使い込まれている。
熟練の冒険者にも見えるが、その端正な顔は未だ若い。
16歳位だろうか、艶のある黒髪と鋭い黒目の青年は、子供と大人の両方の側面を併せ持つ顔付きだ。
1人で洞窟の中を進むのは熟練の冒険者でも危険を伴う。
しかし、青年は黙々と暗い道を進んで行く。
左手には松明を持ち、左腰には片刃の刀を下げている。
更に右腰にはハンドガンタイプの魔銃が下げられていた。
どの装備も良く使い込まれていると同時に丁寧に整備されている。
その姿を見れば、青年が新人冒険者では無い事は誰の目にも明らかだった。
「来たか?」
青年は僅かに感じる地面の振動を察知して松明を地面に落とした。
油が染み込んだ布で巻いた松明は簡単には消えず、暗い洞窟の中を照らしてくれる。
そして、ゆっくりと腰の刀をひきぬくと、正面に構えた。
意識を集中し、僅かな空気や地面の振動も見逃さない様に呼吸を静める。
振動は徐々に大きくなっており、揺れる壁から小石がパラパラと落ちる。
ドガンッ!!
右斜め上の壁を突き破って出てきたのは巨大な牙だった。
円状に並んだ無数の巨大な牙の中心には全てを飲み込まんとする深い穴があり、穴の奥まで牙が並んでいるのが見える。
岩石すら噛み砕きながら穴を掘れる奴の牙に捕らえられたら一瞬にして喰いちぎられてしまうだろう。
ズルズルと穴から這い出てくると奴の全身が露になる。
ブヨブヨした灰色の皮は芋虫の様に脈打ち、牛すら丸呑みできるくらいに太く、全長は10m以上ある。
「来たなキラーワーム!」
青年が今回受けた依頼はキラーワームの討伐だった。
最近、魔鉄の鉱山で坑夫が行方不明になる事件が多発していた。
調査に来た前の冒険者パーティは1人がキラーワームの餌食になり、残りの2人も重傷を負いながら命からがら逃げ帰った。
キラーワームの危険度はCランクだが、その中で最も危険な討伐対象の魔物だ。
青年の冒険者ランクはCランクであり、単独での戦闘では厳しい戦いになる。
それでも、千年戦争で戦力の殆どをオルクス帝国との戦いに割かなければいけない冒険者ギルドには、Bランク以上の冒険者を派遣する余裕は無かった。
青年の名はジン・クロード、16歳の冒険者だ。
聖騎士の母と黒騎士の父の間に産まれたが、ジンが12歳の時に戦争で両親を失っているので、今は独りで生きている。
幸い両親が残してくれた遺産があるので生活には困らないが、自分で生きていく力をつける為に冒険者をしている。
しかし、それも今日までの話だった。
ジンは明日の試験を受けて騎士学園へ入学する予定だからだ。
両親がそうした様にジンも騎士となり、戦場へ出る。
そして、両親を殺したハイオークの皇帝オルクスを必ず殺さなければいけない。
だから、こんな場所で死ぬわけにはいかない。
ジンは左に飛んでキラーワームの牙を避けると同時にキラーワームの横っ腹へと踏み込んだ。
居合斬りを抜き放ち、キラーワームの皮膚を横一文字に斬り裂く。
ガキンッ!
しかし、キラーワームの皮膚は岩石よりも硬く、細い刀では刃が立たない。
薄い傷が付いただけで、逆にキラーワームが胴体をウネらせて弾き飛ばされてしまう。
「チッ、硬いな」
硬い皮膚以外に狙うとしたら口の中しかないが、あの凶悪な牙を前にして、正面に立つのは自殺行為だ。
キラーワームは、暗い洞窟で一生を過ごすので、眼は完全に退化して無くなっている。
その代わり、少しの振動すらも見逃さない様に感覚器官が発達しており、正確にジンへと向かって来る。
ジンは魔力を発動し全身に纏う。
魔力のオーラは刀まで包み込み、肉体と武器の強度を上げる。
更に皮の鎧に刻んだ身体強化のルーン文字に魔力を流し込み発動させた。
身体強化魔術は、一時的に魔力で全身の筋肉を限界まで使える様にする事ができる代わりに、肉体への負担が大きい。
通常は、一度使うと翌日は筋肉痛で真面に動けなくなる。
ジンは、先程とは比べ物にならない速度でキラーワームの攻撃を避けるとキラーワームの横っ腹へ鋭い突きを放つ。
ガキンッ!!
それでも、キラーワームの硬い皮膚は中々貫けない。
僅かな傷を残しただけだ。
「ギギギギギギ!!」
怒り狂う様にキラーワームは直線的な攻撃を繰り返してきた。
その度にジンは左に避けて突きを放ち続けた。
ザクッ!
そして5回目の突きがキラーワームの硬い皮膚を貫いた。
「ギギギギギギ!?」
緑色の体液が噴水の様に噴き出し、ジンの皮の鎧を汚した。
酷い悪臭だが、気にしている暇は無い。
全ての攻撃を同じ箇所に当てる事で漸くキラーワームの皮膚を貫通出来た。
この隙を逃すわけにはいかない。
キラーワームは、既に逃亡しようと身体の向きを変えようとしていた。
野生の動物は臆病だ。
少しでも危険を感じれば直ぐに逃げる。
そして、傷が癒えたらまた敵を襲う。
ジンは、右腰のハンドガンを抜くとキラーワームの傷口に銃口を押し込んだ。
有りったけの魔力を魔銃に込めて引金を引く。
魔銃に刻まれたルーン文字は爆炎、銃口から放たれた業火がキラーワームの体内を焼き尽くし、キラーワームの口から爆炎が噴き出した。
「ギギギギギギ・・ギギ」
断末魔を上げたキラーワームは、ドシンッと地面に横たわり動かなくなった。
「終わったか」
ジンは収納魔術のルーン文字が刻まれた指輪をキラーワームの死体にかざして魔力を流し込んだ。
すると一瞬にしてキラーワームの死体が指輪の宝石に吸い込まれていく。
「全部入ったのか、流石ギルドが貸してくれた魔導具だな」
この指輪は討伐の証拠を持ち帰る為にギルドがジンに貸与した魔導具であり、一つだけなら一軒家くらいの大きさの物まで収納できる。
非常に高価な魔導具であり、Cランクの冒険者には買えない代物た。
大型の魔物の討伐や死骸に価値がある場合は、ギルドから貸し出される事がある。
虚偽の報告や貴重な魔物の素材を横流しさせない為の防止としても活用されている。
「さて、ギルドに帰るか」
ジンは松明を拾い上げると、来た道をゆっくり歩き始めた。
既に身体強化の反動が出始めており、身体中がバキバキと軋む。
「明日の入学試験は大丈夫かな?」
ジンはトボトボと暗い洞窟を歩きながら、帰路に着く。
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