公爵令嬢と闇に囚われし刻印

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第26話

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第26話:見えざる渇望、逃れられぬ檻

 ──なぜ、私はまたここにいるの?

 クロエ・ハートフィリアは、魔導列車のホームに立ち、静かに息を吐いた。
 ここ数日、痴漢犯を捕らえるために囮捜査を続けてきた。
 けれど、毎回、満員電車の圧力に封じ込められ、身動きが取れないまま敗北している。

 そして昨日、ついに気づいてしまった。
 この電車は、もう普通の列車ではない。
 痴漢たちの間で、「毎日、痴女が乗る痴漢電車」として認識されている。

 ──なのに、私は。

 今日も、こうしてホームに立っている。
 今日こそは捕まえる。
 今日こそは……。

 それが、本当に理由なの?

悪化していく状況の中で

 列車がホームに滑り込む。
 クロエは、無意識のうちに足を踏み出した。
 身体が、自分の意思とは関係なく動いている気がする。

 乗り込んだ瞬間、彼女は周囲の空気の異変に気づいた。

 ──違う。
 ──昨日までと、何かが違う。

 視線。
 乗客の視線が、最初からクロエに集中している気がする。

 これは偶然ではない。
 彼らは、彼女がここにいることを知っている。

 ──でも、もういい。

 クロエはポールの前に立ち、静かに深呼吸した。

 「今日は、捕まえる。」
 「今日は、絶対に……!!」

 電車が動き出した。
 そして、すぐに。

 ──魔の手が忍び寄る。

歪な欲求、困惑する自分

 「……っ!」

 背後から、昨日と同じように手が伸びる。
 それは、クロエの体を確実に狙っていた。

 ──いや、昨日と違う。

 今日は、もっと多い。
 誰のものかも分からない指。
 どれが誰の手なのか、もう区別がつかない。

 「っ……!」

 振り払いたい。
 でも、今日もまた、乗客の波に埋もれ、満員電車に封じ込められる。

 ──私は、また負けるの?

 ──違う。これは、囮捜査。

 なのに。

 なのに、なぜ。

 背中を這う指の感触が、頭を真っ白に塗りつぶしていく?

抗えない、理解できない

 クロエは、これまでの感覚と決定的に違う何かを感じていた。

 ──昨日までは、怖かった。
 ──でも、今は……?

 「くっ……!!」

 ぞわり、とした感覚が背筋を駆け上がる。
 気持ち悪いはずなのに、不快なはずなのに。

 ──なぜか、違う。

 これは、何?
 どうして?

 背後から、耳元で囁く声がする。

 「変態女、今日も来たんだな。」

 「……っ……!!」

 クロエの心臓が跳ねる。

 ──やめて。
 ──やめなきゃいけないのに。

 なのに、今日は。

 「私は、本当に捕まえに来たの……?」

そして、また明日も……

 2時間後。
 電車が目的地に到着し、乗客が降りていく。

 クロエも、ようやく解放された。
 けれど、昨日とは違う。
 今日は、立ち尽くしていた。

 「はぁ……はぁ……っ……!!」

 全身が震えている。
 もう、わからない。

 これが、囮捜査なのか。
 それとも、ただ……。

 ──また、明日も。

 気がつけば、クロエは拳を握りしめていた。

 「明日こそ……捕まえる。」

 でも、彼女はもう分かっていた。
 明日も、彼女はここに来るのだ。

 なぜなら、それが「必要だから」。

次回予告

クロエはもう、自分の目的を理解できなくなっていた……!!
痴漢を捕まえるため? それとも、ただ、この電車に乗りたくて?
次回、「見えざる真実、抗えぬ衝動!」
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