呪われた令嬢の辺境スローライフ

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第27話 色欲の代償

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 忠誠を誓う行為は、主従契約の一種だ。
 魔物と人間が行う従魔契約や奴隷商人が使う隷属契約の場合は、主人が従者に従属を強制するのに対して、忠誠は、従者が自ら主人に対して従属を誓う行為である。

 両方とも主従関係であり、絶対命令権を主人が持つ事に変わりは無い。
 但し、従魔契約や隷属契約は、契約者である主人が従者を従える為に、代償を支払ったり、一定の条件をクリアする必要があるのに対して、忠誠の場合は、従属側が主人への忠誠の証として代償を支払う必要がある。

 基本的に忠誠を誓う行為は、従属側にメリットが無く、殆ど使われる事は無かった。
 かつては、王家や皇帝の家臣が信頼を得る為に忠誠を誓っていたが、今では形式的な儀式であり、実際に契約を行っている国は殆ど無い。

 なので、代償がどの様なモノなのか、クロエもよく知らなかった。

「・・・ウグッ!?」

 色欲の魔導書に血を注いだ瞬間、血を通して、何かが身体の中に入り込んで来る感じがした。
 まるで身体の中から汚され、陵辱されている様な不快感と快感が入り乱れ、卑猥な気分になる。
 血が煮えたぎる様に熱くなり、子宮が疼く。
 燻っていた小さな火種に油を注がれた様に、自分の中の小さな欲望の炎が燃え上がるのが分かった。
 一度勢いを付けた炎は、自分では消せないくらいの大きな炎となっており、次第に怖くなる。
 抑えようとする理性が炎に焼かれ、獣の様な本性が顔を出すと、今まで、必死に押さえていた願望や欲望が溢れ出す。

 人を殺したい。
 陵辱されたい。
 血を飲みたい。
 破滅してしまいたい。
 力でねじ伏せたい。
 誰でも良いから踏み躙って欲しい。

 頭の中で殺人衝動や破壊衝動が込み上げるのと同時に相反する破滅願望や陵辱願望が込み上げる。
 理性が効かないクロエは、欲望を欲望で上書きする事でしか、自分の獣を抑制出来なくなっていた。

 クロエの魂が暴かれ、剥き出しにされると、まるで、自分の中の卑しく浅ましい欲望を見透かされている様な羞恥心が込み上げる。
 そして、色欲の契約が魂に刻印された瞬間、クロエは、全身をビクッと震わせて絶頂と共に快感が突き抜けた。
 
 色欲の魔導書のプレートに、クロエ・ハートフィリアの名前が浮かび上がると同時に、クリスタルの床が輝き出し、紫色の怪しい光に包まれる。
 膨大な魔力の渦が巻き起こり、クリスタルの床がガラスの様に砕け散った。

「グオオオオ!」

 床の下から咆哮と共に巨大な黒龍ルドラが現れ、地下室の中を飛び回る。
 よく見ると黒龍の頭の上には黒髪の少女が立っており、黄金色の瞳でクロエ達を見下ろしていた。
 漆黒のローブの様なドレスを纏い圧倒的なオーラを放つ美少女は、そのまま龍の頭から飛び降りて床に着地した。

「ヤッホー!久しぶり?」

 黒髪の少女が、軽いノリで挨拶をすると、6体の魔物達は一斉に彼女の前に跪き、こうべを垂れた。

「復活を心待ちにしておりました!」

 亡霊の騎士ファントムナイト は、感無量で肩を震わせていた。

「七絵様~!」

 ピクシーは、我慢の臨界点を超えた様に七絵と呼ばれた少女の胸に抱きついて頬擦りをする。

「フィンは相変わらず甘えん坊さんだね」

 まるで、長らく留守にしてた主人が帰ってきた犬の様な反応に、七絵も笑みを浮かべて、ピクシーの頭を撫でた。
 ガルムも尻尾をブンブンと振って喜びを隠し切れない様子だ。

「あれれ?そっちの子は新顔かな!?」

 突然、七絵の関心が自分に向けられて、クロエは、ビクッと肩を震わせる。
 先程の周りの反応からして、恐らくこの魔物達の主人は、七絵と呼ばれる黒髪の少女なのだろうと予想は付く。
 それはつまり、クロエが忠誠を誓った相手という事になるので、クロエにとってもご主人様だという事だ。

 とは言え、面識も無い相手にご主人様と遜るのも気が引ける。
 しかも、相手はクロエと同世代くらいの人間の少女と変わらない姿をしており、魔物なのかも怪しい。

「ほら、さっさと挨拶しなさいよ」

 エニスにお尻を叩かれたクロエは、一歩前に踏み出して、七絵の前に立たされた。

「・・・クロエです、宜しくです」

 クロエは、渋々だが、自己紹介をして軽く会釈をする。
 忠誠を誓ったとは言え、封印を解く為に一時的に仕方なくやった事であり、七絵をご主人様として認めたわけでは無い。
 それに、ピクシーとの約束では、封印を解除できたら、この屋敷から出て行ってくれる事になっている。
 この恐ろしい魔物の集団と、これ以上深く関わるつもりは無かった。

「キャー!?何この可愛い生物!ケモノ娘!?」

 クロエを見た瞬間、七絵のテンションが爆上がりして、クロエは、ビクッと肩を震わせた。

「耳触らせて!」

 七絵は興奮した様に荒い息でクロエのモフモフの犬耳を揉みくちゃに触る。

 擽ったいが、七絵の興奮が怖くて、クロエは抵抗も出来ないでなされるままだった。

「尻尾も付いてる!?」

 七絵は、クロエのフワフワな尻尾に気付くと、鷲掴みにして摩って来た。

「フニャアッ!?」

 初めて、他人に尻尾を触られたクロエは、変な声を上げてしまい、顔を真っ赤に染める。
 尻尾には、神経が集まっていて敏感な性感帯の様になっており、触られた瞬間、快感で動けなくなる。

「え、何、もしかして、尻尾触られると気持ち良いの!?」

 七絵は、面白い玩具を見つけた子供の様な笑みを浮かべて、クロエの尻尾を指で擦ったり握ってみる。

「アッ、ダメ、擦らないで!?」

 尻尾を弄られる度にクロエは、顔を真っ赤にして、体をくねらせながら、色っぽい声を出すので、益々七絵の黄金の瞳に輝きが増した。

「ヤバイ、興奮してきちゃった・・・ってかこの尻尾、めっちゃエロい!」

 七絵は、思わず鼻血を拭く。
 その光景を鬼の様な形相のピクシーが見ていた事を、エニスだけが見ていた。

「・・・怖」

 エニスは、フィンの嫉妬の怒りを買ってしまったクロエを見て、憐れみの目を向けた。
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