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第23話 ピクシー
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ピクシーとは、神話や童話に度々登場する小さな美しい少女の様な姿で描かれている妖精だ。
物語の中では、心の綺麗な子供にしか見えないイタズラ好きな可愛らしい存在と言われている。
しかし、実際にピクシーを見たと言う者は、殆どいないので、その実態は謎に包まれていた。
クロエも実際にピクシーを見たのは初めての事であり、感動と共に、なんとも言えない不安が込み上げていた。
外見こそ、童話で見た様な羽の生えた美しい少女の姿をしているが、ピクシーから発せられている気配は魔物よりも不気味で恐ろしい。
クロエの中の獣が、本能的にピクシーに恐怖を抱いている。
まるで、森で絶対に出会ってはいけない天敵と遭遇してしまったかの様な足元が竦む感覚に、戸惑いを隠せない。
殺気?
ピクシーに睨まれた瞬間、凄まじい威圧感で息が詰まりそうになる。
「あんた、名前は?」
ピクシーは、クロエの目の前に迫ると、名前を聞いてきた。
「クロエ・・・です」
目の前の妖精に逆らってはいけないと本能が警告している。
少しでも逆らえば、待っているのは、悲惨な死であると想像できる程の殺気と威圧感を感じる。
「へー、お利口なワンちゃんね」
ピクシーは、クロエの態度に満足したのか、笑みを浮かべた。
「あんた、何でこの屋敷に侵入したの?」
「この屋敷を私が購入したので、住むために入りました」
正当な手続きで購入したはずのクロエが、何故か不法占拠している魔物達に対して申し訳無さそうにしなければいけないのは、理不尽さを覚えるが、文句を言える状況では無かった。
「なるほど、つまり、あんたがこの家の持主ってわけね」
ピクシーは、悪い笑みを浮かべた。
「おい、亡霊の騎士 !」
ピクシーは、乱暴な口調で地面に倒れる亡霊の騎士 を呼んだ。
「・・・何だ?」
亡霊の騎士 は、潰されたまま嫌そうに返事をする。
「このワンちゃん、ウェアウルフだよね?」
ピクシーは、確認する様に亡霊の騎士 に問う。
「・・・恐らくな」
亡霊の騎士 もクロエの種族を断定できたわけでは無いので、その回答が限界だった。
普通のウェアウルフは、全身毛むくじゃらの怪物であり、人間より犬や狼に近い姿をしているものだが、クロエの場合は、犬の特徴は体の一部にしか現れていない。
「魔物なら私達の仲間じゃん?」
それでも、ピクシーからしたら、魔物である事には、変わりは無い。
魔物が全て仲間であるわけでは無いが、少なくとも人間側では無いはずだ。
「いや、そいつは魔物に成りきれていない半端者だ」
クロエには、魔石が無い。
邪神の呪いで姿が変わっているが、完全に魔物化したわけでは無い。
それが、亡霊の騎士 にとっては大きな懸念であり、クロエを敵と見做す理由でもあった。
「あー、なるほどね」
即座に理解したピクシーは、クロエのエメラルドグリーンの瞳を見つめる。
ピクシーの青い瞳と目が合うと、恐ろしくも吸い込まれそうな魅力があった。
「ねえ、ワンちゃん、一度だけ聞くから心して答えてね!」
ピクシーは、優しく話しかける。
しかし、どこか有無を言わせない威圧感がある。
「は、はい」
クロエは、緊張した面持ちで返事をした。
「ワンちゃんは・・・魔物?」
「・・・え?」
予想外の問いにクロエは、固まった。
「それとも・・・人間?」
ピクシーの青い瞳が怪しく光っており、目が離せない。
質問の意図を理解したクロエは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
これは、クロエが魔物側なのか、人間側なのかを聞かれている・・・魔物と答えれば、仲間と見做され、人間と答えれば・・・敵と見做されるだろう。
「よく考えて答えなさい?」
ピクシーに究極の2択を迫られ、クロエの瞳が揺れる。
答えを間違えたら、命に関わる質問・・・それ故に、クロエは、簡単に口を開く事が出来ない。
相手は魔物であり、当然だが、魔物と答えるのが賢い選択である事は分かっている。
しかし、ここで自分の事を魔物だと認めてしまったら・・・二度と人間には戻れない気がして、言葉が出ない。
1秒が何時間にも感じる様な重たい空気の中、時間だけが過ぎて行く。
「そう・・・答えないなら」
ピクシーは、軽く溜息を吐いた。
「・・・魔物です」
その瞬間、クロエは、自分が魔物だと答えた。
ピクシーは、一瞬だけ漏れ出た殺気を直ぐに消して、笑顔になる。
「賢いワンちゃんは好きよ?」
クロエが、あと1秒でも答えるのが遅かったら、心臓を握り潰されていただろう。
一瞬とは言え、ピクシーの本気の殺気に当てられ、全身から脂汗が溢れ出しており、呼吸が苦しい。
「あ、ありがとうございます」
クロエは、ワンちゃん呼ばわりされても、心を押し殺して、作り笑いを浮かべた。
人間としての自分を否定してしまった。
クロエの中で、何かが音を立てて崩れ落ちて行くのを感じていた。
「魔物なら、私達は、仲間だよね?」
ピクシーは、脅迫にも等しい同意を求めて来た。
ここまで来て、違うなんて、クロエに言えるわけがなく、頷く事しかできない。
「良かったぁ、なら、私達に協力しなさい!」
ピクシーは、手を合わせて嬉しそうに笑みを浮かべた。
一体、何をさせるつもりなのだろうか?
「協力って・・・具体的に何をすれば良いんですか?」
クロエは、逆らえない恐怖と、より深く泥沼に引き摺り込まれる予感で青ざめる。
物語の中では、心の綺麗な子供にしか見えないイタズラ好きな可愛らしい存在と言われている。
しかし、実際にピクシーを見たと言う者は、殆どいないので、その実態は謎に包まれていた。
クロエも実際にピクシーを見たのは初めての事であり、感動と共に、なんとも言えない不安が込み上げていた。
外見こそ、童話で見た様な羽の生えた美しい少女の姿をしているが、ピクシーから発せられている気配は魔物よりも不気味で恐ろしい。
クロエの中の獣が、本能的にピクシーに恐怖を抱いている。
まるで、森で絶対に出会ってはいけない天敵と遭遇してしまったかの様な足元が竦む感覚に、戸惑いを隠せない。
殺気?
ピクシーに睨まれた瞬間、凄まじい威圧感で息が詰まりそうになる。
「あんた、名前は?」
ピクシーは、クロエの目の前に迫ると、名前を聞いてきた。
「クロエ・・・です」
目の前の妖精に逆らってはいけないと本能が警告している。
少しでも逆らえば、待っているのは、悲惨な死であると想像できる程の殺気と威圧感を感じる。
「へー、お利口なワンちゃんね」
ピクシーは、クロエの態度に満足したのか、笑みを浮かべた。
「あんた、何でこの屋敷に侵入したの?」
「この屋敷を私が購入したので、住むために入りました」
正当な手続きで購入したはずのクロエが、何故か不法占拠している魔物達に対して申し訳無さそうにしなければいけないのは、理不尽さを覚えるが、文句を言える状況では無かった。
「なるほど、つまり、あんたがこの家の持主ってわけね」
ピクシーは、悪い笑みを浮かべた。
「おい、亡霊の騎士 !」
ピクシーは、乱暴な口調で地面に倒れる亡霊の騎士 を呼んだ。
「・・・何だ?」
亡霊の騎士 は、潰されたまま嫌そうに返事をする。
「このワンちゃん、ウェアウルフだよね?」
ピクシーは、確認する様に亡霊の騎士 に問う。
「・・・恐らくな」
亡霊の騎士 もクロエの種族を断定できたわけでは無いので、その回答が限界だった。
普通のウェアウルフは、全身毛むくじゃらの怪物であり、人間より犬や狼に近い姿をしているものだが、クロエの場合は、犬の特徴は体の一部にしか現れていない。
「魔物なら私達の仲間じゃん?」
それでも、ピクシーからしたら、魔物である事には、変わりは無い。
魔物が全て仲間であるわけでは無いが、少なくとも人間側では無いはずだ。
「いや、そいつは魔物に成りきれていない半端者だ」
クロエには、魔石が無い。
邪神の呪いで姿が変わっているが、完全に魔物化したわけでは無い。
それが、亡霊の騎士 にとっては大きな懸念であり、クロエを敵と見做す理由でもあった。
「あー、なるほどね」
即座に理解したピクシーは、クロエのエメラルドグリーンの瞳を見つめる。
ピクシーの青い瞳と目が合うと、恐ろしくも吸い込まれそうな魅力があった。
「ねえ、ワンちゃん、一度だけ聞くから心して答えてね!」
ピクシーは、優しく話しかける。
しかし、どこか有無を言わせない威圧感がある。
「は、はい」
クロエは、緊張した面持ちで返事をした。
「ワンちゃんは・・・魔物?」
「・・・え?」
予想外の問いにクロエは、固まった。
「それとも・・・人間?」
ピクシーの青い瞳が怪しく光っており、目が離せない。
質問の意図を理解したクロエは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
これは、クロエが魔物側なのか、人間側なのかを聞かれている・・・魔物と答えれば、仲間と見做され、人間と答えれば・・・敵と見做されるだろう。
「よく考えて答えなさい?」
ピクシーに究極の2択を迫られ、クロエの瞳が揺れる。
答えを間違えたら、命に関わる質問・・・それ故に、クロエは、簡単に口を開く事が出来ない。
相手は魔物であり、当然だが、魔物と答えるのが賢い選択である事は分かっている。
しかし、ここで自分の事を魔物だと認めてしまったら・・・二度と人間には戻れない気がして、言葉が出ない。
1秒が何時間にも感じる様な重たい空気の中、時間だけが過ぎて行く。
「そう・・・答えないなら」
ピクシーは、軽く溜息を吐いた。
「・・・魔物です」
その瞬間、クロエは、自分が魔物だと答えた。
ピクシーは、一瞬だけ漏れ出た殺気を直ぐに消して、笑顔になる。
「賢いワンちゃんは好きよ?」
クロエが、あと1秒でも答えるのが遅かったら、心臓を握り潰されていただろう。
一瞬とは言え、ピクシーの本気の殺気に当てられ、全身から脂汗が溢れ出しており、呼吸が苦しい。
「あ、ありがとうございます」
クロエは、ワンちゃん呼ばわりされても、心を押し殺して、作り笑いを浮かべた。
人間としての自分を否定してしまった。
クロエの中で、何かが音を立てて崩れ落ちて行くのを感じていた。
「魔物なら、私達は、仲間だよね?」
ピクシーは、脅迫にも等しい同意を求めて来た。
ここまで来て、違うなんて、クロエに言えるわけがなく、頷く事しかできない。
「良かったぁ、なら、私達に協力しなさい!」
ピクシーは、手を合わせて嬉しそうに笑みを浮かべた。
一体、何をさせるつもりなのだろうか?
「協力って・・・具体的に何をすれば良いんですか?」
クロエは、逆らえない恐怖と、より深く泥沼に引き摺り込まれる予感で青ざめる。
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