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第22話 漆黒の炎
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その少女を助けたのは、単なる気まぐれに近い行動であり、深い意味は無かった。
ウェアウルフの少女と初めて出会ったのは、森の中だった。
最初は、縄張りを荒らしている魔物と同様に、噛み殺すつもりだった。
しかし、そのウェアウルフの少女からは、何故か懐かしい香りがした。
ガルムが生涯で唯一愛した番 であり、魔王と共に人間と戦った同胞でもあり・・・二度と会う事は叶わない存在。
彼女が大地を駆け抜ければ、嵐が巻き起こり、彼女の咆哮は雷鳴と共に天を轟かした。
かつて、最強の名を欲しいままにした魔犬フェンリルの気高く美しい姿に惚れていた。
しかし、最強だと思っていた彼女も勇者との戦いで命を落とした。
異世界より召喚された勇者達との戦いは熾烈を極めた。
フェンリルは、四肢を切り裂かれ、首を斬り落とされても尚、勇者の頭に喰らい付き、道連れにしたと聞いている。
そんな彼女と同じ香りを纏うウェアウルフの少女が気になった。
その懐かしい香りから離れたく無い一心で、少女の影の中に入ったら、彼女に包まれているかの様な心地良さで、離れるタイミングを失ってしまった。
だが、このウェアウルフの少女は、彼女と同じ香りがするだけで、ガルムの番だったフェンリルでは無い。
・・・ただ、もしも彼女との子が産まれていれば、こんな娘が産まれていたのかも知れないと思うと、愛おしさが込み上げてくるのだ。
助ける気など無かったはずなのに、どうしても見捨てられない。
だから、つい、娘の様に守ってしまった。
漆黒の炎と共に姿を現したガルムは、一瞬にして、亡霊の騎士 の大剣を焼き尽くした。
それは、光を放たない漆黒の炎、邪神エキドナが冥界の亡者達を焼き尽くす為に創り出した炎であり、その炎に焼かれた者は魂まで焼かれる。
「ウグッ!?」
魂の一部を焼かれた亡霊の騎士 は、苦しそうに呻き声を上げて後退した。
冥界の亡者達すら恐れる黒炎は、魂に直接攻撃する為、亡霊の騎士 にとっては天敵の様な存在だ。
「何故お前が!?」
| 亡霊の騎士 は、驚きと共に全身から禍々しいオーラを発して、怒りを顕にした。
ガルムは、黒炎の壁を創り出して、ウェアウルフの少女を守る様に立ちはばかる。
「・・・ガルム様!?」
少女は、ガルムの事を覚えている様で、惚ける様にこちらを見上げている。
魔力を使い果たしているのか、戦う力は残っていない様だ。
「お前が守るべき相手はその娘では無いだろう!」
亡霊の騎士 の怒声がビリビリと響く。
これが裏切り行為だと思われても仕方が無い事は、自覚していた。
亡霊の騎士 とは、300年前から共にこの屋敷を守ってきた仲間であり、魔王軍時代の同胞だ。
プライドが高く、ガルム以上に忠誠心が高い黒騎士であり、真っ直ぐな性格の憎めない奴だ。
亡霊の騎士 とガルムが守るべき対象は同じであり、争うべきでは無い。
ましてや、見知らぬウェアウルフの為に争うなんて愚の骨頂・・・それは分かっている。
だが、影の中で、死を覚悟した少女の顔を見た瞬間、体が動いていた。
彼女と同じ香りを纏う少女を死なせたく無い。
あの日、彼女と共に戦う事が出来なかったのを、ガルムは、この300年間ずっと後悔していた。
魔王に頼まれた別の依頼があったとは言え、彼女を守りたかった。
せめて、彼女と一緒に戦って死にたかったと、何度も後悔の念が込み上げる。
「退け!その娘は我等の敵だ!」
亡霊の騎士 は、最後の警告をすると、黒いオーラから大剣を創り出して構えた。
「グルルルル!」
しかし、対するガルムは、地鳴りの様な低い唸り声を上げて、少女を守る様に、一歩前に出ると鋭い牙を剥き出しに威嚇した。
「その雌犬を貴様の番にでもするつもりか?」
亡霊の騎士 は、侮蔑を込めて問いかける。
その問いがガルムの逆鱗に触れた。
「グオオオオ!」
ガルムは咆哮と共に黒炎のブレスを吐いた。
対する亡霊の騎士 も、大剣に禍々しいオーラを纏わせて、必殺の一撃を放つ。
漆黒のオーラの斬撃と黒炎のブレスが衝突し、大爆発を引き起こし、庭にクレーターができる。
爆風で舞い上がった砂煙が晴れた瞬間、両者は一気に駆け出した。
大剣を上段に構える亡霊の騎士 に対して、ガルムは鋭い牙を剥き出しに、飛び掛かった。
「あんた達いい加減にしなさい!」
少女の様な声がしたと同時に、ガルムと亡霊の騎士 の両者が地面に這いつくばった。
まるで、凄まじい見えない力で押し潰されたかの様に、地面にめり込み、立ち上がる事が出来ない。
これ程の念力を使える存在は、1人しか知らない。
ガルムと亡霊の騎士 の間に、光と共に現れたのは、小さな少女だった。
そのサイズは人間の手のひらに乗るくらいの大きさで、美しい金髪に、水色のワンピースを来た美少女の姿をしていた。
背中から蝶の羽が生えており、薄らと光を発している。
「ピクシー?」
ウェアウルフの少女は、初めて見る妖精の美しさに目を奪われていた。
しかし、ピクシーの醜悪で嫉妬深い本質を知るガルムは、吐き気を催す様な嫌悪感を顕にする。
それは亡霊の騎士 も同様の様で、溜息を吐いた。
「仲間同士で本気で戦ってどうすんのよ!?」
ピクシーは、呆れ顔で頭に手を当てて溜息を吐いた。
まるで、使えない部下に落胆するかの様な仕草をすると、2人を睨みつけた。
ピリピリと空気に亀裂が生じる程のプレッシャーで、2人は更に地面にめり込んだ。
その凄まじい怒りの形相は、妖精と言うよりは、悪魔か鬼に近い。
拷問や陵辱が大好きなピクシーは、魔王軍の中でも恐れられていた。
魔王の前では猫をかぶっていたが、その残虐性は悪魔以上で、捉えた勇者をペットにしたり、玩具の様に扱うサイコパスだ。
強者を陵辱して屈服させる事が生き甲斐であり、しかも、厄介なことに、その強さは魔王軍の中でも5本の指に入る程強い。
「さて、コイツが仲間割れの原因を作ったバカ犬かしら?」
ピクシーに睨まれた瞬間、少女の肩が、ビクッと震えた。
ウェアウルフの少女と初めて出会ったのは、森の中だった。
最初は、縄張りを荒らしている魔物と同様に、噛み殺すつもりだった。
しかし、そのウェアウルフの少女からは、何故か懐かしい香りがした。
ガルムが生涯で唯一愛した番 であり、魔王と共に人間と戦った同胞でもあり・・・二度と会う事は叶わない存在。
彼女が大地を駆け抜ければ、嵐が巻き起こり、彼女の咆哮は雷鳴と共に天を轟かした。
かつて、最強の名を欲しいままにした魔犬フェンリルの気高く美しい姿に惚れていた。
しかし、最強だと思っていた彼女も勇者との戦いで命を落とした。
異世界より召喚された勇者達との戦いは熾烈を極めた。
フェンリルは、四肢を切り裂かれ、首を斬り落とされても尚、勇者の頭に喰らい付き、道連れにしたと聞いている。
そんな彼女と同じ香りを纏うウェアウルフの少女が気になった。
その懐かしい香りから離れたく無い一心で、少女の影の中に入ったら、彼女に包まれているかの様な心地良さで、離れるタイミングを失ってしまった。
だが、このウェアウルフの少女は、彼女と同じ香りがするだけで、ガルムの番だったフェンリルでは無い。
・・・ただ、もしも彼女との子が産まれていれば、こんな娘が産まれていたのかも知れないと思うと、愛おしさが込み上げてくるのだ。
助ける気など無かったはずなのに、どうしても見捨てられない。
だから、つい、娘の様に守ってしまった。
漆黒の炎と共に姿を現したガルムは、一瞬にして、亡霊の騎士 の大剣を焼き尽くした。
それは、光を放たない漆黒の炎、邪神エキドナが冥界の亡者達を焼き尽くす為に創り出した炎であり、その炎に焼かれた者は魂まで焼かれる。
「ウグッ!?」
魂の一部を焼かれた亡霊の騎士 は、苦しそうに呻き声を上げて後退した。
冥界の亡者達すら恐れる黒炎は、魂に直接攻撃する為、亡霊の騎士 にとっては天敵の様な存在だ。
「何故お前が!?」
| 亡霊の騎士 は、驚きと共に全身から禍々しいオーラを発して、怒りを顕にした。
ガルムは、黒炎の壁を創り出して、ウェアウルフの少女を守る様に立ちはばかる。
「・・・ガルム様!?」
少女は、ガルムの事を覚えている様で、惚ける様にこちらを見上げている。
魔力を使い果たしているのか、戦う力は残っていない様だ。
「お前が守るべき相手はその娘では無いだろう!」
亡霊の騎士 の怒声がビリビリと響く。
これが裏切り行為だと思われても仕方が無い事は、自覚していた。
亡霊の騎士 とは、300年前から共にこの屋敷を守ってきた仲間であり、魔王軍時代の同胞だ。
プライドが高く、ガルム以上に忠誠心が高い黒騎士であり、真っ直ぐな性格の憎めない奴だ。
亡霊の騎士 とガルムが守るべき対象は同じであり、争うべきでは無い。
ましてや、見知らぬウェアウルフの為に争うなんて愚の骨頂・・・それは分かっている。
だが、影の中で、死を覚悟した少女の顔を見た瞬間、体が動いていた。
彼女と同じ香りを纏う少女を死なせたく無い。
あの日、彼女と共に戦う事が出来なかったのを、ガルムは、この300年間ずっと後悔していた。
魔王に頼まれた別の依頼があったとは言え、彼女を守りたかった。
せめて、彼女と一緒に戦って死にたかったと、何度も後悔の念が込み上げる。
「退け!その娘は我等の敵だ!」
亡霊の騎士 は、最後の警告をすると、黒いオーラから大剣を創り出して構えた。
「グルルルル!」
しかし、対するガルムは、地鳴りの様な低い唸り声を上げて、少女を守る様に、一歩前に出ると鋭い牙を剥き出しに威嚇した。
「その雌犬を貴様の番にでもするつもりか?」
亡霊の騎士 は、侮蔑を込めて問いかける。
その問いがガルムの逆鱗に触れた。
「グオオオオ!」
ガルムは咆哮と共に黒炎のブレスを吐いた。
対する亡霊の騎士 も、大剣に禍々しいオーラを纏わせて、必殺の一撃を放つ。
漆黒のオーラの斬撃と黒炎のブレスが衝突し、大爆発を引き起こし、庭にクレーターができる。
爆風で舞い上がった砂煙が晴れた瞬間、両者は一気に駆け出した。
大剣を上段に構える亡霊の騎士 に対して、ガルムは鋭い牙を剥き出しに、飛び掛かった。
「あんた達いい加減にしなさい!」
少女の様な声がしたと同時に、ガルムと亡霊の騎士 の両者が地面に這いつくばった。
まるで、凄まじい見えない力で押し潰されたかの様に、地面にめり込み、立ち上がる事が出来ない。
これ程の念力を使える存在は、1人しか知らない。
ガルムと亡霊の騎士 の間に、光と共に現れたのは、小さな少女だった。
そのサイズは人間の手のひらに乗るくらいの大きさで、美しい金髪に、水色のワンピースを来た美少女の姿をしていた。
背中から蝶の羽が生えており、薄らと光を発している。
「ピクシー?」
ウェアウルフの少女は、初めて見る妖精の美しさに目を奪われていた。
しかし、ピクシーの醜悪で嫉妬深い本質を知るガルムは、吐き気を催す様な嫌悪感を顕にする。
それは亡霊の騎士 も同様の様で、溜息を吐いた。
「仲間同士で本気で戦ってどうすんのよ!?」
ピクシーは、呆れ顔で頭に手を当てて溜息を吐いた。
まるで、使えない部下に落胆するかの様な仕草をすると、2人を睨みつけた。
ピリピリと空気に亀裂が生じる程のプレッシャーで、2人は更に地面にめり込んだ。
その凄まじい怒りの形相は、妖精と言うよりは、悪魔か鬼に近い。
拷問や陵辱が大好きなピクシーは、魔王軍の中でも恐れられていた。
魔王の前では猫をかぶっていたが、その残虐性は悪魔以上で、捉えた勇者をペットにしたり、玩具の様に扱うサイコパスだ。
強者を陵辱して屈服させる事が生き甲斐であり、しかも、厄介なことに、その強さは魔王軍の中でも5本の指に入る程強い。
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この子のおかげで作家デビューできました
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