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第15話 イステリア
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森を抜けると、切り立った崖の向こうに大きな青い海が見えた。
どこまでも続いている水平線は、青い空と繋がっている様にも見える。
「・・・綺麗」
生まれて初めて見る海に、クロエは、感動していた。
この広い大海原を見ると、自分の抱えている悩みなんて、とても小さな事の様に思えてしまう。
クロエのエメラルドグリーンの瞳には、自然と涙が浮かんでいた。
それは悲しいからでは無く、嬉しいからでも無かった。
自分でも分からないが、何故か涙が止まらない。
暫く、海を眺めたクロエは、大きく深呼吸をした。
「よーし!やるぞー!」
クロエは、両手を広げて風を感じた。
新しい風だ。
ここから、私の新しい生き方が始まる。
クロエは、不安と期待に胸を膨らませて、笑った。
数歩前に進むと、切り立った崖の下には砂浜が続いているのが見えた。
そして、右手に目を向けると、岬の方に大きな港街が見えた。
「・・・あれが、イステリアね」
赤や青のカラフルな屋根が並んでおり、港には沢山の船が往来していた。
空にはウミネコ達が羽ばたいており、漁船を追いかけながら鳴いている。
街には活気があり、辺境の地とは思えないくらい人がいっぱいいた。
「今日から、ここが私の住む街になるのね!」
クロエは、再びカバンから取り出した白い仮面と黒いフードで犬耳と尻尾を隠してイステリアへ入っていた。
見慣れないクロエの姿に、街の人間は、少し怪訝な目を向けるが、海辺の街の人間らしく、懐が広いのか、直ぐに気にしなくなった。
ここは、辺境の地だから、犯罪者や逃亡奴隷なんかが逃げてくる事も少なく無い。
だから、いちいち他人の事を気にする様な事はしない。
クロエが最初に向かった先は、冒険者ギルドだった。
冒険者ギルドは、ある程度大きな都市や街ならだいたい在る。
ここイステリアにも冒険者ギルドの支部があると聞いていた。
地図を見ながら、街の中心部に在る冒険者ギルドを訪れたクロエは、建物を見上げていた。
「王都ほどじゃないけど、思っていたより立派ね」
王都の冒険者ギルドは、木造三階建の屋敷の様な造りだったが、イステリアの冒険者ギルドは、石造りで堅牢な建物だった。
王都と同じく3階建で、1階に受付や酒場、解体場などが設置されており、2階には宿屋や素材買取屋に武器屋やアイテム屋などが入っている。
3階はギルドマスターの部屋や重要な依頼の打ち合わせや会議を行う場所となっているらしい。
「辺境の地だから、もっと廃れているのかと思ってたわ」
良い意味で想像を裏切られたクロエは、楽しそうに受付窓口に向かった。
「本日はどの様なご用でしょうか?」
金髪の美人な受付嬢が対応してくれた。
「すみません、冒険者カードの変更手続きをお願いしたいんですが」
そういうと、クロエはポケットから冒険者カードを取り出してカウンターに置いた。
冒険者カードは魔鉱石で作られた金属製のプレートで、本人の魔力を判定するので、偽装や不正はできない様になっている。
身分証としても使えるので、便利だ。
クロエの冒険者カードには、Cと大きく刻まれており、名前の部分には、クロエとだけ記載されていた。
王都で冒険者登録をした時に、バレない様に家名は伏せていたから、ここでも問題無く使える。
「王都支部Cランク冒険者のクロエ様ですね、では、本日からイステリア支部の冒険者として登録させて頂きます」
冒険者カードは、魔力を持つ魔鉱石で作られているので、冒険者ギルドは、魔導具を使用して、冒険者カードの内容を読み取ったり、書き込んだりする事ができる。
これで、イステリアでも冒険者として仕事を受けられる。
独りで生きて行く上で、職を持つ事は何より大事だ。
元々は、世界一の大富豪であるハートフィリア家の令嬢だが、今は唯のクロエだ。
多少のお金は持ち出して来たが、一生食べていける様な金額では無い。
「じゃあ、次は住む家を探さないといけないわね」
着いたばかりだが、今夜寝る場所も決まっていない。
ここ最近は、ずっと森の中で野宿していたので、久しぶりにベッドで熟睡したい。
それに、美味しいご飯と温かいお風呂も外せない。
旅の間は身体を洗えるのは、1週間に一度有れば良い方だったし、あっても川で水浴びする程度だ。
温かいお風呂、出来れば温泉に入ってゆっくりしたい。
「でも、大衆浴場は無理だしなぁ」
風呂で裸になった瞬間、犬耳と尻尾がバレて大騒ぎになる事は明らかだ。
「この際、家を買うのも手かな?」
宿屋で暮らすのも良いが、コスパは悪いし、宿屋での生活は共同生活の様なものだ。
いつまでも仮面とフードを付けていたら怪しまれるし、食事や風呂でうっかり見られる可能性もある。
何より、人間がずっと側に居ると、殺人衝動を抑えられない可能性もある。
「不動産屋に行ってみるか」
クロエは、家を買うために冒険者ギルドを後にした。
どこまでも続いている水平線は、青い空と繋がっている様にも見える。
「・・・綺麗」
生まれて初めて見る海に、クロエは、感動していた。
この広い大海原を見ると、自分の抱えている悩みなんて、とても小さな事の様に思えてしまう。
クロエのエメラルドグリーンの瞳には、自然と涙が浮かんでいた。
それは悲しいからでは無く、嬉しいからでも無かった。
自分でも分からないが、何故か涙が止まらない。
暫く、海を眺めたクロエは、大きく深呼吸をした。
「よーし!やるぞー!」
クロエは、両手を広げて風を感じた。
新しい風だ。
ここから、私の新しい生き方が始まる。
クロエは、不安と期待に胸を膨らませて、笑った。
数歩前に進むと、切り立った崖の下には砂浜が続いているのが見えた。
そして、右手に目を向けると、岬の方に大きな港街が見えた。
「・・・あれが、イステリアね」
赤や青のカラフルな屋根が並んでおり、港には沢山の船が往来していた。
空にはウミネコ達が羽ばたいており、漁船を追いかけながら鳴いている。
街には活気があり、辺境の地とは思えないくらい人がいっぱいいた。
「今日から、ここが私の住む街になるのね!」
クロエは、再びカバンから取り出した白い仮面と黒いフードで犬耳と尻尾を隠してイステリアへ入っていた。
見慣れないクロエの姿に、街の人間は、少し怪訝な目を向けるが、海辺の街の人間らしく、懐が広いのか、直ぐに気にしなくなった。
ここは、辺境の地だから、犯罪者や逃亡奴隷なんかが逃げてくる事も少なく無い。
だから、いちいち他人の事を気にする様な事はしない。
クロエが最初に向かった先は、冒険者ギルドだった。
冒険者ギルドは、ある程度大きな都市や街ならだいたい在る。
ここイステリアにも冒険者ギルドの支部があると聞いていた。
地図を見ながら、街の中心部に在る冒険者ギルドを訪れたクロエは、建物を見上げていた。
「王都ほどじゃないけど、思っていたより立派ね」
王都の冒険者ギルドは、木造三階建の屋敷の様な造りだったが、イステリアの冒険者ギルドは、石造りで堅牢な建物だった。
王都と同じく3階建で、1階に受付や酒場、解体場などが設置されており、2階には宿屋や素材買取屋に武器屋やアイテム屋などが入っている。
3階はギルドマスターの部屋や重要な依頼の打ち合わせや会議を行う場所となっているらしい。
「辺境の地だから、もっと廃れているのかと思ってたわ」
良い意味で想像を裏切られたクロエは、楽しそうに受付窓口に向かった。
「本日はどの様なご用でしょうか?」
金髪の美人な受付嬢が対応してくれた。
「すみません、冒険者カードの変更手続きをお願いしたいんですが」
そういうと、クロエはポケットから冒険者カードを取り出してカウンターに置いた。
冒険者カードは魔鉱石で作られた金属製のプレートで、本人の魔力を判定するので、偽装や不正はできない様になっている。
身分証としても使えるので、便利だ。
クロエの冒険者カードには、Cと大きく刻まれており、名前の部分には、クロエとだけ記載されていた。
王都で冒険者登録をした時に、バレない様に家名は伏せていたから、ここでも問題無く使える。
「王都支部Cランク冒険者のクロエ様ですね、では、本日からイステリア支部の冒険者として登録させて頂きます」
冒険者カードは、魔力を持つ魔鉱石で作られているので、冒険者ギルドは、魔導具を使用して、冒険者カードの内容を読み取ったり、書き込んだりする事ができる。
これで、イステリアでも冒険者として仕事を受けられる。
独りで生きて行く上で、職を持つ事は何より大事だ。
元々は、世界一の大富豪であるハートフィリア家の令嬢だが、今は唯のクロエだ。
多少のお金は持ち出して来たが、一生食べていける様な金額では無い。
「じゃあ、次は住む家を探さないといけないわね」
着いたばかりだが、今夜寝る場所も決まっていない。
ここ最近は、ずっと森の中で野宿していたので、久しぶりにベッドで熟睡したい。
それに、美味しいご飯と温かいお風呂も外せない。
旅の間は身体を洗えるのは、1週間に一度有れば良い方だったし、あっても川で水浴びする程度だ。
温かいお風呂、出来れば温泉に入ってゆっくりしたい。
「でも、大衆浴場は無理だしなぁ」
風呂で裸になった瞬間、犬耳と尻尾がバレて大騒ぎになる事は明らかだ。
「この際、家を買うのも手かな?」
宿屋で暮らすのも良いが、コスパは悪いし、宿屋での生活は共同生活の様なものだ。
いつまでも仮面とフードを付けていたら怪しまれるし、食事や風呂でうっかり見られる可能性もある。
何より、人間がずっと側に居ると、殺人衝動を抑えられない可能性もある。
「不動産屋に行ってみるか」
クロエは、家を買うために冒険者ギルドを後にした。
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