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第7話 盗賊
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クロエは、馬車に揺られながら、次の町を目指していた。
王都を出てから2ヶ月以上が経過しており、イステリアへの道程も8割近くまで到達した。
かなり辺境の土地なので、乗合馬車を利用する人間はかなり少ない。
今乗っているのも、8歳の少女を連れた親子だけだ。
「お姉ちゃんはどこまで行くの?」
銀髪の少女がクロエに質問した。
一月前に少女と会話してからクロエは妙に懐かれてしまった。
この様にちょいちょい話しかけられており、クロエもそれを許容していた。
この2ヶ月、ずっと馬車で旅をしているので、クロエも孤独を感じていた。
だから、少女との会話は少しだけ嬉しかった。
「・・・イステリアよ」
クロエが答えると、少女はルビー色の瞳を大きく開き、輝かせた。
「私達と一緒だね!」
少女の目的地がクロエと同じと聞いて、クロエは仮面の下で目を見開いて驚いた。
呪われた姿を見せるわけにいかないクロエは、イステリアに着いてからも人目を避けて隠れて過ごす必要がある。
だから、余り親しい人間を作る事は避けたかった。
何より、自分の中の殺人衝動を抑えるため、人間との関わりは最低限にする必要がある。
この少女とも深く関わるべきでは無かった。
「・・・そうなんだ」
クロエは、素っ気なく返事をして、これ以上話をするつもりは無いと意思表示するかの様に腕を組み、眠るふりをした。
「っ!?」
しかし、その瞬間、クロエの耳に微かだが矢が放たれる音が聴こえた。
石像に呪われてから、クロエの五感は獣並みに鋭くなっており、微かな風切音を拾ったり、遥か遠くの臭いまで嗅ぎ分けられる様になっていた。
次の瞬間、ヒヒィーンと馬の叫び声がして、馬車が揺れた。
「ぐわぁっ!?」
御者のお爺さんの胸や顔に無数の矢が突き刺さり、椅子から転げ落ちる。
「敵襲!?」
クロエ達が座っている荷台にも、矢の雨が降り注いだ。
布を張っただけの荷台の屋根は、瞬く間に突き破られて、クロエ達に襲いかかる。
「きゃあああ!?」
少女を庇った母親の背中には、大量の矢が突き刺さって死んでいた。
「伏せて!」
クロエは、少女に母親の骸の下から動かない様に指示した。
当然、クロエにも無数の矢が降り注ぐが、風の魔力を持つクロエは、風の衣を纏い、全ての矢を弾き飛ばした。
「・・・盗賊ね」
馬車を取り囲む様に現れたのは、20人近い武装した男達だった。
使い終わった弓矢やボウガンを地面に落とした男達は、剣や斧を抜き、生き残りがいないか警戒している。
荷台を引く馬と御者は射殺されてしまったので、もう乗合馬車は使えない。
少女は、母親が殺されたにも関わらず、声を殺して、静かに涙を流していた。
「・・・強い子ね」
クロエは、自分の母が死んだ日を思い出した。
泣きじゃくっていた自分とは違い、必死に唇を噛み締めて泣くのを耐えていた父親の姿と少女を重ねて、胸が押し潰されそうになる。
「少しだけ待っててね」
クロエは、荷台から飛び降りて、盗賊達を眺めた。
「生き残りがいるぞ!」
「1人なら楽勝だろ?」
「さっさと殺して、積荷を奪え!」
盗賊達は、仮面を付けたフード姿のクロエを見て、明らかに油断していた。
クロエの周囲には、矢で射られた死体が転がっており、血の臭いが充満していた。
良い匂い。
血の匂いで、クロエの中にある殺人衝動は既に限界まで達していた。
目の前にいる人間達を引き裂いて、骨を噛み砕いて、血を啜り、内臓を掻きむしりたい。
そんな欲求で頭の中が染まっていき、残っていた僅かな理性が無くなっていく。
「盗賊なら・・・殺しても良いよね?」
その瞬間、クロエの欲求が爆発した。
人間の域を超えた脚力で、地面を蹴ったクロエは、一瞬にして、盗賊達との距離を詰めると、右手で盗賊の心臓を貫いた。
鋭く伸びたクロエの爪は、鋼の様に硬く、人間の皮膚を豆腐の様に切り裂ける。
「・・・美味しそう」
クロエは、爪に付いた血を見つめて、恍惚とした表情を浮かべた。
「ば、化物だ!」
「こいつ危険だぞ!」
「囲んで袋にしろ!」
慌てた盗賊達は、武器を振るう。
しかし、その全てがクロエには、スローモーションの様に遅く見えていた。
「そんな攻撃、当たらないよ?」
クロエが爪を振るえば、盗賊達の柔らかい肉が裂け、血飛沫が舞う。
全能感とも言える感覚に麻痺したクロエの頭は、考える事をやめていた。
「アハハハ!楽しい!」
まるで、初めて狩の喜びを知った狼の子供の様にクロエは、返り血に染まりながら、盗賊達を玩具にした。
「こ、コイツ、人間じゃねぇ!」
圧倒的人外の力を有したクロエを前にして、盗賊達は自分達が狩られる側である事を悟った。
王都を出てから2ヶ月以上が経過しており、イステリアへの道程も8割近くまで到達した。
かなり辺境の土地なので、乗合馬車を利用する人間はかなり少ない。
今乗っているのも、8歳の少女を連れた親子だけだ。
「お姉ちゃんはどこまで行くの?」
銀髪の少女がクロエに質問した。
一月前に少女と会話してからクロエは妙に懐かれてしまった。
この様にちょいちょい話しかけられており、クロエもそれを許容していた。
この2ヶ月、ずっと馬車で旅をしているので、クロエも孤独を感じていた。
だから、少女との会話は少しだけ嬉しかった。
「・・・イステリアよ」
クロエが答えると、少女はルビー色の瞳を大きく開き、輝かせた。
「私達と一緒だね!」
少女の目的地がクロエと同じと聞いて、クロエは仮面の下で目を見開いて驚いた。
呪われた姿を見せるわけにいかないクロエは、イステリアに着いてからも人目を避けて隠れて過ごす必要がある。
だから、余り親しい人間を作る事は避けたかった。
何より、自分の中の殺人衝動を抑えるため、人間との関わりは最低限にする必要がある。
この少女とも深く関わるべきでは無かった。
「・・・そうなんだ」
クロエは、素っ気なく返事をして、これ以上話をするつもりは無いと意思表示するかの様に腕を組み、眠るふりをした。
「っ!?」
しかし、その瞬間、クロエの耳に微かだが矢が放たれる音が聴こえた。
石像に呪われてから、クロエの五感は獣並みに鋭くなっており、微かな風切音を拾ったり、遥か遠くの臭いまで嗅ぎ分けられる様になっていた。
次の瞬間、ヒヒィーンと馬の叫び声がして、馬車が揺れた。
「ぐわぁっ!?」
御者のお爺さんの胸や顔に無数の矢が突き刺さり、椅子から転げ落ちる。
「敵襲!?」
クロエ達が座っている荷台にも、矢の雨が降り注いだ。
布を張っただけの荷台の屋根は、瞬く間に突き破られて、クロエ達に襲いかかる。
「きゃあああ!?」
少女を庇った母親の背中には、大量の矢が突き刺さって死んでいた。
「伏せて!」
クロエは、少女に母親の骸の下から動かない様に指示した。
当然、クロエにも無数の矢が降り注ぐが、風の魔力を持つクロエは、風の衣を纏い、全ての矢を弾き飛ばした。
「・・・盗賊ね」
馬車を取り囲む様に現れたのは、20人近い武装した男達だった。
使い終わった弓矢やボウガンを地面に落とした男達は、剣や斧を抜き、生き残りがいないか警戒している。
荷台を引く馬と御者は射殺されてしまったので、もう乗合馬車は使えない。
少女は、母親が殺されたにも関わらず、声を殺して、静かに涙を流していた。
「・・・強い子ね」
クロエは、自分の母が死んだ日を思い出した。
泣きじゃくっていた自分とは違い、必死に唇を噛み締めて泣くのを耐えていた父親の姿と少女を重ねて、胸が押し潰されそうになる。
「少しだけ待っててね」
クロエは、荷台から飛び降りて、盗賊達を眺めた。
「生き残りがいるぞ!」
「1人なら楽勝だろ?」
「さっさと殺して、積荷を奪え!」
盗賊達は、仮面を付けたフード姿のクロエを見て、明らかに油断していた。
クロエの周囲には、矢で射られた死体が転がっており、血の臭いが充満していた。
良い匂い。
血の匂いで、クロエの中にある殺人衝動は既に限界まで達していた。
目の前にいる人間達を引き裂いて、骨を噛み砕いて、血を啜り、内臓を掻きむしりたい。
そんな欲求で頭の中が染まっていき、残っていた僅かな理性が無くなっていく。
「盗賊なら・・・殺しても良いよね?」
その瞬間、クロエの欲求が爆発した。
人間の域を超えた脚力で、地面を蹴ったクロエは、一瞬にして、盗賊達との距離を詰めると、右手で盗賊の心臓を貫いた。
鋭く伸びたクロエの爪は、鋼の様に硬く、人間の皮膚を豆腐の様に切り裂ける。
「・・・美味しそう」
クロエは、爪に付いた血を見つめて、恍惚とした表情を浮かべた。
「ば、化物だ!」
「こいつ危険だぞ!」
「囲んで袋にしろ!」
慌てた盗賊達は、武器を振るう。
しかし、その全てがクロエには、スローモーションの様に遅く見えていた。
「そんな攻撃、当たらないよ?」
クロエが爪を振るえば、盗賊達の柔らかい肉が裂け、血飛沫が舞う。
全能感とも言える感覚に麻痺したクロエの頭は、考える事をやめていた。
「アハハハ!楽しい!」
まるで、初めて狩の喜びを知った狼の子供の様にクロエは、返り血に染まりながら、盗賊達を玩具にした。
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