6 / 29
第6話 残された者達
しおりを挟む
ジョシュア・ハートフィリアは、かけがえの無い一人娘であるクロエの部屋で、独り立ち尽くしていた。
いつも笑顔で自分を迎えてくれた可愛い娘は、もうこの部屋にはいない。
「・・・何故居なくなってしまったんだ?」
クロエが居なくなった日から、毎日この部屋に来ては、娘が帰ってきていないか確認している自分がいた。
もしかしたら、出て行ってしまった日と同じ様に、ひょっこり帰って来ているんじゃないかと淡い期待をしてしまう。
しかし、何度部屋を訪れても、そこにクロエの姿は無い。
部屋はクロエが出て行った日から何一つ変えていない。
1番仲が良かった侍女のアンにも相談する事なく出て行ったらしく、アンもかなり悲しんでいた。
クロエがいつ帰って来ても良いようにと、アンが毎日部屋を掃除してくれているので、埃も無く、綺麗な状態を維持していた。
「お願いだから・・・帰ってきてくれ」
ジョシュアは、涙を流す。
早くに亡くした妻の忘れ形見であり、唯一の娘が居なくなってしまった。
まるで、胸に大きな穴が空いてしまったかの様な虚無感で、仕事も手につかない日々が続いている。
「私のせいなら、いくらでも謝る」
もしも、ロイドとの婚約を勝手に決めてしまった事が理由なら、婚約破棄だって、喜んでしてやるつもりだった。
自分の軽率な判断で娘を失ってしまったと考えるジョシュアは、後悔していた。
金に糸目を付けずに、冒険者ギルドや闇ギルドに捜索依頼を出しているのに、一向に娘の足取りが掴めない。
貴族の娘がそう簡単に遠くに行けるとは思えないし、逆に王都から離れて遠くに行ってしまえば、それだけ治安も悪くなる。
令嬢が1人で旅をしていれば、狙われるのは必然であり、無事だとは思えない。
もしかしたら、すでにクロエは死んでいるかも知れないし、奴隷商人に捕まっている可能性もある。
そう思うと、ジョシュアは夜も眠れずに悩み続けていた。
「あの日、何を話すつもりだったんだ?」
あの日、クロエの話を聞いてやれなかった自分が恨めしい。
ジョシュアは、ゆっくりと扉を閉めて、部屋を後にした。
その頃、クロイツェル家の屋敷ではロイドの怒声が響いていた。
「何故見つからない!?」
ロイドは、無能な部下にイラつきながら机を叩いた。
クロエが居なくなって1ヶ月が経過した。
本来なら、今頃はクロエと婚約式を行なっている時期だ。
クロエが姿を消した日から公爵家が保有する騎士団を最大限に動員してクロエの捜索を続けさせているのに、一向に見つかる気配が無い。
王都は隅々まで探したし、東西南北に検問を設置して人の出入りは把握しているから、遠くには逃げていないはずだ。
なのに見つからない。
「申し訳ございません!全力で捜査に当たってはいるのですが・・・痕跡すら見つからず」
騎士団長が頭を下げて、謝罪するが、ロイドの怒りは収まらない。
手に入ったと思った瞬間に、手の隙間から零れ落ちていってしまう様な感覚に、苛立ちが止まらない。
「探せ!この世の全てを探し尽くせ!」
ロイドは、決して諦めるつもりは無かった。
1ヶ月も経てば、クロエは死んでいるか、捕まっている可能性も高い。
いや、令嬢独りでここまで逃げ切れるとは考えにくい。
もしかしたら、協力者がいるのかも知れない。
「ジョシュア侯爵に怪しい素振りは無かった」
ジョシュア侯爵の反応を見る限り、彼の娘を失った精神的な動揺は本物だった。
彼が協力者で無いのなら、他に誰が居るのか?
「もしかしたら、他の男と駆け落ちを?」
クロエは、王国屈指の美少女であり、資産家の娘だ。
クロエと結婚したがる男は星の数ほどいるだろう。
もし、クロエが思いを寄せている男が他にいたら・・・?
ロイドは、自分の魅力を自覚していたし、世の中の女性からの評価も把握していた。
しかし、何故かクロエからは、他の令嬢達から受ける様な熱い視線を感じる事は一度も無かった。
それどころか、冷めた視線に作った笑顔しか見たことが無い。
幼馴染だから、男として見られていない可能性は考えていたが、それも婚約して意識する様になれば、変わってくると楽観視していた。
しかし、その理由が、他に好きな男が居るからだとしたら、話は変わってくる。
ロイドは、激しく頭を掻きむしる。
「クロエが僕以外の男と結ばれるなんて、絶対に許さないよ?」
ロイドは、壁に掛けてある魔剣クラウソラスを手にした。
ソードマスターだけが使えるオーラを纏い、ロイドのアイスブルーの瞳が怪しく光った。
いつも笑顔で自分を迎えてくれた可愛い娘は、もうこの部屋にはいない。
「・・・何故居なくなってしまったんだ?」
クロエが居なくなった日から、毎日この部屋に来ては、娘が帰ってきていないか確認している自分がいた。
もしかしたら、出て行ってしまった日と同じ様に、ひょっこり帰って来ているんじゃないかと淡い期待をしてしまう。
しかし、何度部屋を訪れても、そこにクロエの姿は無い。
部屋はクロエが出て行った日から何一つ変えていない。
1番仲が良かった侍女のアンにも相談する事なく出て行ったらしく、アンもかなり悲しんでいた。
クロエがいつ帰って来ても良いようにと、アンが毎日部屋を掃除してくれているので、埃も無く、綺麗な状態を維持していた。
「お願いだから・・・帰ってきてくれ」
ジョシュアは、涙を流す。
早くに亡くした妻の忘れ形見であり、唯一の娘が居なくなってしまった。
まるで、胸に大きな穴が空いてしまったかの様な虚無感で、仕事も手につかない日々が続いている。
「私のせいなら、いくらでも謝る」
もしも、ロイドとの婚約を勝手に決めてしまった事が理由なら、婚約破棄だって、喜んでしてやるつもりだった。
自分の軽率な判断で娘を失ってしまったと考えるジョシュアは、後悔していた。
金に糸目を付けずに、冒険者ギルドや闇ギルドに捜索依頼を出しているのに、一向に娘の足取りが掴めない。
貴族の娘がそう簡単に遠くに行けるとは思えないし、逆に王都から離れて遠くに行ってしまえば、それだけ治安も悪くなる。
令嬢が1人で旅をしていれば、狙われるのは必然であり、無事だとは思えない。
もしかしたら、すでにクロエは死んでいるかも知れないし、奴隷商人に捕まっている可能性もある。
そう思うと、ジョシュアは夜も眠れずに悩み続けていた。
「あの日、何を話すつもりだったんだ?」
あの日、クロエの話を聞いてやれなかった自分が恨めしい。
ジョシュアは、ゆっくりと扉を閉めて、部屋を後にした。
その頃、クロイツェル家の屋敷ではロイドの怒声が響いていた。
「何故見つからない!?」
ロイドは、無能な部下にイラつきながら机を叩いた。
クロエが居なくなって1ヶ月が経過した。
本来なら、今頃はクロエと婚約式を行なっている時期だ。
クロエが姿を消した日から公爵家が保有する騎士団を最大限に動員してクロエの捜索を続けさせているのに、一向に見つかる気配が無い。
王都は隅々まで探したし、東西南北に検問を設置して人の出入りは把握しているから、遠くには逃げていないはずだ。
なのに見つからない。
「申し訳ございません!全力で捜査に当たってはいるのですが・・・痕跡すら見つからず」
騎士団長が頭を下げて、謝罪するが、ロイドの怒りは収まらない。
手に入ったと思った瞬間に、手の隙間から零れ落ちていってしまう様な感覚に、苛立ちが止まらない。
「探せ!この世の全てを探し尽くせ!」
ロイドは、決して諦めるつもりは無かった。
1ヶ月も経てば、クロエは死んでいるか、捕まっている可能性も高い。
いや、令嬢独りでここまで逃げ切れるとは考えにくい。
もしかしたら、協力者がいるのかも知れない。
「ジョシュア侯爵に怪しい素振りは無かった」
ジョシュア侯爵の反応を見る限り、彼の娘を失った精神的な動揺は本物だった。
彼が協力者で無いのなら、他に誰が居るのか?
「もしかしたら、他の男と駆け落ちを?」
クロエは、王国屈指の美少女であり、資産家の娘だ。
クロエと結婚したがる男は星の数ほどいるだろう。
もし、クロエが思いを寄せている男が他にいたら・・・?
ロイドは、自分の魅力を自覚していたし、世の中の女性からの評価も把握していた。
しかし、何故かクロエからは、他の令嬢達から受ける様な熱い視線を感じる事は一度も無かった。
それどころか、冷めた視線に作った笑顔しか見たことが無い。
幼馴染だから、男として見られていない可能性は考えていたが、それも婚約して意識する様になれば、変わってくると楽観視していた。
しかし、その理由が、他に好きな男が居るからだとしたら、話は変わってくる。
ロイドは、激しく頭を掻きむしる。
「クロエが僕以外の男と結ばれるなんて、絶対に許さないよ?」
ロイドは、壁に掛けてある魔剣クラウソラスを手にした。
ソードマスターだけが使えるオーラを纏い、ロイドのアイスブルーの瞳が怪しく光った。
10
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
魔拳のデイドリーマー
osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。
主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる