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第3話 犬の石像

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 結局、ジョシュア・ハートフィリアが屋敷に帰ってきたのは、3日後の昼になってからだった。

 鉱山で発見されたダンジョンは予想以上に深く、強力だった。
 先行して潜ったBランク冒険者パーティーは全滅してしまった為、ジョシュアは仕方なく大金を叩いて、Aランク冒険者パーティーである紅の剣を雇った。
 
 ダンジョンは、邪神エキドナの力が関与していたらしく、上位種のウェアウルフやヘルハウンドなどの非常に強力な魔犬が多く生息していた為、紅の剣も苦戦を強いられた。
 だが、ダンジョンが強いという事は、それだけ強大な魔力を有している証拠であり、発掘される宝や魔導具も強力な物が多かった。

 なんとか、ダンジョンの破壊に成功したジョシュアは、娘に知らせる為に、寝る間も惜しんで急いで屋敷に帰ってきた。

「お土産は喜んでくれるだろうか?」

 ジョシュアが手にしているのは、犬の形をした石像だった。
 ダンジョンの最奥の部屋に置かれていた物らしいが、何故か持ち帰りたくなり、クロエへのお土産に持って帰ってきた。
 何か文字が刻まれているが、古代語なので読めないが、特段、魔力は込められていないらしいので、害は無いだろうとの事だった。

「確か、クロエは古代語も勉強していたから、興味があると良いんだが」

 屋敷のドアが開くと、愛しい娘のクロエが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、お父様」

 可愛らしい娘の笑顔を見た瞬間、ジョシュアの溜まっていた疲れが吹き飛んだ。
 
「ああ、ただいま」
「ダンジョンの問題は無事に解決した様ですね」

 クロエは、安堵した表情で頬を掻きながら、ジョシュアを見つめていた。
 
「ああ、私がいない間に何か問題は無かったかい?」

 既に執事に確認しているので、特に問題がない事は分かっていたが、ジョシュアは敢えてクロエに聞いた。
 クロエが、頬を掻く時は、何か大事な話がある時だからだ。
 恐らく、ロイドとの婚約に関する話だろうとは予想が付いていた。

「実は、お話したい事が有りますので、夕食の時に宜しいですか?」
 
 クロエの真剣な瞳を見て、ジョシュアは唾を飲んだ。
 どうやら、予想以上に本気の様だと察したジョシュアは、覚悟が必要だと腹を括った。

「分かった、あっ、それとコレはお土産だ」

 ジョシュアに手渡された犬の石像を見て、クロエは、首を傾げる。

「何ですかコレは?」

「ダンジョンで発見した物だ、古代語で何か書かれているみたいだから、クロエなら読めるかと思ってな」
「ダンジョンの!?」

 ダンジョンで取れた物だと聞いたクロエは、エメラルドグリーンの瞳を輝かせて犬の石像を見つめた。
 ダンジョンはまだまだ未知な部分が多く、魔導具などの製造方法なども不明な点が多い。
 刺激を求めているクロエには、最高のお土産だった。

「ありがとうございます!」

 クロエは、急いで石像を抱えて自分の部屋に戻って行った。

「やれやれ、16歳とは言え、まだ子供だな」
 
 ジョシュアは、クロエの後ろ姿を見送り、微笑むと、自室に戻り、仮眠を取る事にした。

 クロエは、自室に戻ると直ぐに石像に書かれた古代語の解読に集中した。
 古代語は、神々の時代に使われた文字であり、今では殆ど読む事ができない失われた文字だ。
 クロエは、魔術の勉強の一環で古代語を勉強していたので、簡単な文字なら読めるようになっていた。

「この石像を・・し者は、・・・の呪いを受ける、汝・・を愛する様になり・・・の・・になるだろう?」

 大事な部分は殆ど読めないが、あまり良い意味では無い事が分かる。
 
「何よコレ、呪いのアイテムじゃないよね?」

 楽しみにしていたダンジョンのアイテムが呪いのアイテムだと知ったクロエは、ガッカリして、犬の石像をポイっとクローゼットに投げ入れた。

 バキッ!
 
 犬の石像が他の物に当たり、亀裂が生じた。

「あっ、壊しちゃった」

 少しだけ勿体無いが、たいした物でも無いので、クロエは、割れた石像を拾い上げると、念の為、中身を確認しようと、亀裂を剥がしてみる。

「もしかしたら、中に何か面白い物が入って、いる・・・かも?」

 その瞬間、中から黒い霧の様な物が噴き出した。

「いや、何!?」

 黒い霧に包まれたクロエは、激しい眩暈と脱力感に襲われて、ベッドに倒れ込んだ。
 全身が燃えるように熱くなり、汗が噴き出る。
 一瞬、毒かと思ったが、直ぐに意識が遠のき、闇の中に沈んでいった。
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