呪われた令嬢の辺境スローライフ

文字の大きさ
上 下
1 / 29

第1話 最高の婚約者

しおりを挟む
 シエロ王国は、自然に恵まれた豊かな国だ。
 中でも様々な武器や魔導具の素材として使われる魔鉱石の産出量は世界一の資源国だった。
 シエロ王国の侯爵家であるハートフィリア家は、世界最大の鉱山を所有しており、最も資産を有する有力貴族の一つだ。

 そのハートフィリア家の長女であるクロエ・ハートフィリアは、生まれた時から全てを持っていた。
 金、名誉、権力、美しさ、そして、最高の婚約者も手に入れた。

 狐色の髪の毛に、エメラルドグリーンの瞳を持つ王国屈指の美少女だったクロエは、16歳になると、王国唯一の公爵家であるクロイツェル家の長男であり、クロエの幼馴染でもあるロイド・クロイツェルから婚約を申し込まれた。



 ロイドは、黒髪にアイスブルーの瞳を持つクロエより一つ上の美青年であり、若干17歳でソードマスターになった剣の天才だった。



 シエロ王国で最も結婚したい相手に選ばれる2人が婚約したと言う知らせは瞬く間に王国中に伝わり、王家だけでなく、民衆も2人を祝福して歌や劇が創られた。

「王国中がお嬢様の話題でもちきりですよ!」

 侍女であるアンが新聞をクロエに見せて嬉しそうに笑顔を作る。
 その笑みは心の底からクロエを祝福しており、偽りは無い。

「ハァー、そうね」

 しかし、当の本人であるクロエは、深いため息を吐いて浮かない顔をしていた。

「どうして、そんな浮かない顔をしているんですか?王国随一のイケメンで王家の次に貴い血筋を持つソードマスターのロイド様と婚約できるなんて、世の女性全員の憧れですよ!?」

 アンの熱弁に、クロエは再び溜息を吐いた。
 アンの言うように、ロイド・クロイツェルは、婚約者としては、申し分ないどころか最高と言っても過言では無い存在だ。
 イケメンで武力も権力も持っており、クロエの幼馴染と言う事もあり、ロイドの優しくて真面目な性格も知っていた。
 政略結婚とは言え、ロイドがクロエに惚れていた事はかなり前から分かっていた。
 だから、ロイドがいつか婚約を申し込んでくる事も予想できた。

 それ故に、クロエにはある不満があった。

「・・・刺激が足りないのよね」

 クロエは、退屈そうにぼんやりと窓の外を眺めて呟いた。
 確かにロイドは、世の女性達が憧れる様な理想の男性かも知れない。
 優しくて、紳士で、イケメンで、金持ちで、身分が高くて、権力があって、ソードマスターで・・・ロイドが持って無いものなど無いのではないかと思えるくらい最高の男性だ。
 しかも、クロエに惚れているので、愛もあるし、クロエの言う事なら何でも聞いてくれるだろう。
 政略結婚が当たり前の貴族社会では、恋愛結婚をする事自体が贅沢みたいなものだ。

「刺激、ですか?」

 アンはいまいちピンと来ないのか、首を傾げて頭にハテナマークが浮いている。
 
「そう、ロイドって、真面目だし、紳士だし、私に甘いから・・・つまんないのよね」

 とは言え、公爵家であるクロイツェル家から正式に婚約の申出をされてしまえば、侯爵家であるハートフィリア家には断る権利は無い。
 なので、クロイツェル家から婚約の申込状を受け取ったクロエの父親であり、ハートフィリア家の当主であるジョシュア・ハートフィリアは、クロエに相談もする事なく、勝手に婚約を了承してしまった。
 
 互いの親同士、幼馴染であるクロエとロイドが将来的に結婚する事は予想していた事であり、願っていた事でもあったので、反対する理由が無かった。

「つまらないですか・・・そんな贅沢を言えるのはお嬢様くらいですね」

 アンは、苦笑いでクロエの考えには全く同意出来ないと首を横に振った。
 
「贅沢か・・・私の我儘なのかなぁ?」

 マリッジブルーとでも言うのだろうか?
 クロエは、どこかいつもと違って覇気が無くため息ばかり吐いている。

「じゃあ、クロエお嬢様の理想なタイプとは、どんな殿方なんですか?」

 アンは興味深々に瞳を輝かせて質問してきた。
 世の女性達が憧れるロイド様より結婚したい相手とは、一体どんな男性なのか?

「私の理想かぁ・・・そうね、もっと野生的で・・・」
「野生的!?」
「そう、オスって感じでオラオラしていて」
「オラオラ!?」
「私の想像を超えて、強引に無理矢理奪ってくる様な男かな?」

 クロエは、退屈でつまらない恋じゃなく、嵐の様な激しい恋に憧れていた。

「そんな男性は絶対にダメです!」

 王国屈指の美少女であるクロエを、そんな獣物の様な男に嫁に出すなんてあり得ないとアンは激しく否定した。

「そんなにダメかなぁ?」

 大体、クロエの理想の恋愛観を話すと、令嬢達から猛反対されてきたので、アンの反応には慣れていたが、誰からも理解されないのは、少し寂しい。

「・・・メチャクチャになるくらい激しい恋をしてみたいものね」

 最後のクロエの呟きをアンは聞かなかった事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不死の果実は誰のために!

印象に残る名前
ファンタジー
『その果実を口にしたものは、永遠の命を手に入れる』 そんな言い伝えを、誰もが知っている世界。 人より魔力が多いことだけが自慢である少年のサクヤは、ある日、『祝福者』と呼ばれる特別な力を持つ少女と出会う。 たった一人で戦場を蹂躙することさえできるその少女の口から語られるのは、自身の持つ力ついての秘密、言い伝えの裏側。 そして、少女は告げる。「あなたには私の傍にいてほしいの。私が一生面倒を見てあげるっ!」 これは、少年と少女が果たした運命の出会いから始まる、不死の果実を巡る戦いの物語。 ※なろうでも公開しています。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...