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第1話 最高の婚約者
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シエロ王国は、自然に恵まれた豊かな国だ。
中でも様々な武器や魔導具の素材として使われる魔鉱石の産出量は世界一の資源国だった。
シエロ王国の侯爵家であるハートフィリア家は、世界最大の鉱山を所有しており、最も資産を有する有力貴族の一つだ。
そのハートフィリア家の長女であるクロエ・ハートフィリアは、生まれた時から全てを持っていた。
金、名誉、権力、美しさ、そして、最高の婚約者も手に入れた。
狐色の髪の毛に、エメラルドグリーンの瞳を持つ王国屈指の美少女だったクロエは、16歳になると、王国唯一の公爵家であるクロイツェル家の長男であり、クロエの幼馴染でもあるロイド・クロイツェルから婚約を申し込まれた。
ロイドは、黒髪にアイスブルーの瞳を持つクロエより一つ上の美青年であり、若干17歳でソードマスターになった剣の天才だった。
シエロ王国で最も結婚したい相手に選ばれる2人が婚約したと言う知らせは瞬く間に王国中に伝わり、王家だけでなく、民衆も2人を祝福して歌や劇が創られた。
「王国中がお嬢様の話題でもちきりですよ!」
侍女であるアンが新聞をクロエに見せて嬉しそうに笑顔を作る。
その笑みは心の底からクロエを祝福しており、偽りは無い。
「ハァー、そうね」
しかし、当の本人であるクロエは、深いため息を吐いて浮かない顔をしていた。
「どうして、そんな浮かない顔をしているんですか?王国随一のイケメンで王家の次に貴い血筋を持つソードマスターのロイド様と婚約できるなんて、世の女性全員の憧れですよ!?」
アンの熱弁に、クロエは再び溜息を吐いた。
アンの言うように、ロイド・クロイツェルは、婚約者としては、申し分ないどころか最高と言っても過言では無い存在だ。
イケメンで武力も権力も持っており、クロエの幼馴染と言う事もあり、ロイドの優しくて真面目な性格も知っていた。
政略結婚とは言え、ロイドがクロエに惚れていた事はかなり前から分かっていた。
だから、ロイドがいつか婚約を申し込んでくる事も予想できた。
それ故に、クロエにはある不満があった。
「・・・刺激が足りないのよね」
クロエは、退屈そうにぼんやりと窓の外を眺めて呟いた。
確かにロイドは、世の女性達が憧れる様な理想の男性かも知れない。
優しくて、紳士で、イケメンで、金持ちで、身分が高くて、権力があって、ソードマスターで・・・ロイドが持って無いものなど無いのではないかと思えるくらい最高の男性だ。
しかも、クロエに惚れているので、愛もあるし、クロエの言う事なら何でも聞いてくれるだろう。
政略結婚が当たり前の貴族社会では、恋愛結婚をする事自体が贅沢みたいなものだ。
「刺激、ですか?」
アンはいまいちピンと来ないのか、首を傾げて頭にハテナマークが浮いている。
「そう、ロイドって、真面目だし、紳士だし、私に甘いから・・・つまんないのよね」
とは言え、公爵家であるクロイツェル家から正式に婚約の申出をされてしまえば、侯爵家であるハートフィリア家には断る権利は無い。
なので、クロイツェル家から婚約の申込状を受け取ったクロエの父親であり、ハートフィリア家の当主であるジョシュア・ハートフィリアは、クロエに相談もする事なく、勝手に婚約を了承してしまった。
互いの親同士、幼馴染であるクロエとロイドが将来的に結婚する事は予想していた事であり、願っていた事でもあったので、反対する理由が無かった。
「つまらないですか・・・そんな贅沢を言えるのはお嬢様くらいですね」
アンは、苦笑いでクロエの考えには全く同意出来ないと首を横に振った。
「贅沢か・・・私の我儘なのかなぁ?」
マリッジブルーとでも言うのだろうか?
クロエは、どこかいつもと違って覇気が無くため息ばかり吐いている。
「じゃあ、クロエお嬢様の理想なタイプとは、どんな殿方なんですか?」
アンは興味深々に瞳を輝かせて質問してきた。
世の女性達が憧れるロイド様より結婚したい相手とは、一体どんな男性なのか?
「私の理想かぁ・・・そうね、もっと野生的で・・・」
「野生的!?」
「そう、オスって感じでオラオラしていて」
「オラオラ!?」
「私の想像を超えて、強引に無理矢理奪ってくる様な男かな?」
クロエは、退屈でつまらない恋じゃなく、嵐の様な激しい恋に憧れていた。
「そんな男性は絶対にダメです!」
王国屈指の美少女であるクロエを、そんな獣物の様な男に嫁に出すなんてあり得ないとアンは激しく否定した。
「そんなにダメかなぁ?」
大体、クロエの理想の恋愛観を話すと、令嬢達から猛反対されてきたので、アンの反応には慣れていたが、誰からも理解されないのは、少し寂しい。
「・・・メチャクチャになるくらい激しい恋をしてみたいものね」
最後のクロエの呟きをアンは聞かなかった事にした。
中でも様々な武器や魔導具の素材として使われる魔鉱石の産出量は世界一の資源国だった。
シエロ王国の侯爵家であるハートフィリア家は、世界最大の鉱山を所有しており、最も資産を有する有力貴族の一つだ。
そのハートフィリア家の長女であるクロエ・ハートフィリアは、生まれた時から全てを持っていた。
金、名誉、権力、美しさ、そして、最高の婚約者も手に入れた。
狐色の髪の毛に、エメラルドグリーンの瞳を持つ王国屈指の美少女だったクロエは、16歳になると、王国唯一の公爵家であるクロイツェル家の長男であり、クロエの幼馴染でもあるロイド・クロイツェルから婚約を申し込まれた。
ロイドは、黒髪にアイスブルーの瞳を持つクロエより一つ上の美青年であり、若干17歳でソードマスターになった剣の天才だった。
シエロ王国で最も結婚したい相手に選ばれる2人が婚約したと言う知らせは瞬く間に王国中に伝わり、王家だけでなく、民衆も2人を祝福して歌や劇が創られた。
「王国中がお嬢様の話題でもちきりですよ!」
侍女であるアンが新聞をクロエに見せて嬉しそうに笑顔を作る。
その笑みは心の底からクロエを祝福しており、偽りは無い。
「ハァー、そうね」
しかし、当の本人であるクロエは、深いため息を吐いて浮かない顔をしていた。
「どうして、そんな浮かない顔をしているんですか?王国随一のイケメンで王家の次に貴い血筋を持つソードマスターのロイド様と婚約できるなんて、世の女性全員の憧れですよ!?」
アンの熱弁に、クロエは再び溜息を吐いた。
アンの言うように、ロイド・クロイツェルは、婚約者としては、申し分ないどころか最高と言っても過言では無い存在だ。
イケメンで武力も権力も持っており、クロエの幼馴染と言う事もあり、ロイドの優しくて真面目な性格も知っていた。
政略結婚とは言え、ロイドがクロエに惚れていた事はかなり前から分かっていた。
だから、ロイドがいつか婚約を申し込んでくる事も予想できた。
それ故に、クロエにはある不満があった。
「・・・刺激が足りないのよね」
クロエは、退屈そうにぼんやりと窓の外を眺めて呟いた。
確かにロイドは、世の女性達が憧れる様な理想の男性かも知れない。
優しくて、紳士で、イケメンで、金持ちで、身分が高くて、権力があって、ソードマスターで・・・ロイドが持って無いものなど無いのではないかと思えるくらい最高の男性だ。
しかも、クロエに惚れているので、愛もあるし、クロエの言う事なら何でも聞いてくれるだろう。
政略結婚が当たり前の貴族社会では、恋愛結婚をする事自体が贅沢みたいなものだ。
「刺激、ですか?」
アンはいまいちピンと来ないのか、首を傾げて頭にハテナマークが浮いている。
「そう、ロイドって、真面目だし、紳士だし、私に甘いから・・・つまんないのよね」
とは言え、公爵家であるクロイツェル家から正式に婚約の申出をされてしまえば、侯爵家であるハートフィリア家には断る権利は無い。
なので、クロイツェル家から婚約の申込状を受け取ったクロエの父親であり、ハートフィリア家の当主であるジョシュア・ハートフィリアは、クロエに相談もする事なく、勝手に婚約を了承してしまった。
互いの親同士、幼馴染であるクロエとロイドが将来的に結婚する事は予想していた事であり、願っていた事でもあったので、反対する理由が無かった。
「つまらないですか・・・そんな贅沢を言えるのはお嬢様くらいですね」
アンは、苦笑いでクロエの考えには全く同意出来ないと首を横に振った。
「贅沢か・・・私の我儘なのかなぁ?」
マリッジブルーとでも言うのだろうか?
クロエは、どこかいつもと違って覇気が無くため息ばかり吐いている。
「じゃあ、クロエお嬢様の理想なタイプとは、どんな殿方なんですか?」
アンは興味深々に瞳を輝かせて質問してきた。
世の女性達が憧れるロイド様より結婚したい相手とは、一体どんな男性なのか?
「私の理想かぁ・・・そうね、もっと野生的で・・・」
「野生的!?」
「そう、オスって感じでオラオラしていて」
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「私の想像を超えて、強引に無理矢理奪ってくる様な男かな?」
クロエは、退屈でつまらない恋じゃなく、嵐の様な激しい恋に憧れていた。
「そんな男性は絶対にダメです!」
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「そんなにダメかなぁ?」
大体、クロエの理想の恋愛観を話すと、令嬢達から猛反対されてきたので、アンの反応には慣れていたが、誰からも理解されないのは、少し寂しい。
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