23 / 30
第二章 一日目午前中 おネエ、まさかの赤い糸
(5)野望
しおりを挟む
城下の村人が空を見上げて天気を占うように、明日のことを判ずることができるのであれば如何なる阿保であろうともパン屋の娘には靡くまい。
今は王妃だが、あの王扇を手放した途端に転落だ。
「これがダンジョン修道院への近道かぁ」
黒マントの従者がため息をつく。開けた道は小さな崖の上で行き止まりを装い、曲がりくねった長い坂が逆手の木々の間に垣間見える。
馬を降りた婢呼眼は、従者を横目で見た。
「怖じ気づいたか。この通路は、ドラゴンダンジョンへも続いている」
「もう3ヶ月も経ったんだよね。閉じ込められたドラゴルーン、生きているかな。死んだんじゃない。婢呼眼って意地悪だよね。ドラゴルーンに何の恨みもないのにさ」
「タコ。人前で口を開くんじゃないぞ。お前のそのバカっぽさがお前の滅びにならないように」
「解ってるよぉ。黙っている方が賢く見えるんでしょう。それくらいできるさ」
滅びか……パン屋の娘め、私はそうはならない。
私はドラゴルーンの目玉がほしい。異世界が見えると云うドラゴルーンの目玉が。
私はドラゴルーンの金鱗がほしい。大いなる生命力を生み出すドラゴルーンの金鱗が。
私はドラゴルーンの爪がほしい。立ち塞がる全てを薙ぎ倒すドラゴルーンの爪が。
そして、ドラゴルーンの牙……
其の昔『俺TUEEE兵卒サザンダーレ』が、ドラゴルーンの死体を見つけた。そのドラゴルーンの牙をネックレスにしてドラゴルーンと戦い、この国をドラゴルーン支配から解放したとか……
『俺TUEEEサザンダーレ王』となった彼は、倒したドラゴルーンの身体を八つ裂きにして目玉と金鱗と爪と牙を取り、『魔器四宝』として宝物庫に入れたと云われるのだが、王がみまかると共にそれら全てが石になったのだと……
ふん……いいさ、私は自力でドラゴルーンを倒して『魔器四宝』を手に入れる。パン屋の娘の王妃様ごっこは終わりだ。
ああ、その日を思うと身体が震える……
「ぎゃあはあはあはあああぁ私は女帝だあぁ。今に見やがれぇぇ。ぎゃあはあはあはあはあ……」
婢呼眼は黒マントをコウモリのように羽ばたかせて笑った。
「婢呼眼ぇ、その笑い方は怖いよぅ。壊れてるよぅ」
「タコ。黙っておれと言ったではないか」
高笑いで息を切らせた婢呼眼の片目に、キラリと薄銀の閃光が走る。
「黙っているよぅ。それくらいできるさ」
蛇はカエルを食うが、カエルは蛇を食うのだろうか、従者は竦み上がって考えた。
黒マントを翻して足早に通路に入る婢呼眼の後を、遅れながら転がるようについて行く。
その姿が消えた通路の茂みで、ピンクのモヒカンが呟いた。
「女帝・婢呼眼……ふうん、実現できるかな」
此処はどこぉ……誰もいないのぉ。ベッドが4つある。ひとつは使用された痕跡が……本棚のついた机と椅子が各々4つ。タンスは……ん、ない。棚のようなものもない。
あら……あたしのバッグは何処。ス、スマホはぁぁ、お財布ぅ。ああぁ……偏頭痛ぅ。二日酔いぃ……偏頭痛ぅ……
あたし、どうしたのかしらぁ……水……お水ぅ……何処かに水道があれば……あそこにドアが……誰か……
ぁ……話し声が……
「婢呼眼がそのように……ではライザックは」
「ライザックは婢呼眼の手下。容易な者では……」
「困った……何としても王族殲滅を阻止しなければならないと云うのに」
「あの二人は……」
ん、声が途絶えた……おうわっ、ぎゃひっ。ひぃえぇぇぇ驚いたぁぁ。いきなりドアを開けるなんてぇぇ。
「あら、みかんさん、お目覚め……」
ひぃえぇぇぇ修道女笑顔ぉぉ何であたしの名前を……
「こっ、此処は何処ですかぁ。私はどうしたのぉぉ」
どうしたのかしら本当に。二人とも顔を見合わせて、あら、三人なのね……
「みかんさん、覚えていないのですか。此処はダンジョン修道院です。ドラゴンダンジョンと呼ばれる地下迷路にあります。あなたはドラゴルーンの岩屋から草刈りに」
「待って待って待って待って……何、その地下迷路とかドラゴンとかぁぁ、あはは……シスターの冗談って難しいぃ。草刈りなんてしないわよぉ、あたし」
じゃなくて、冗談笑っている場合じゃない。
「此処は何処なんですか。あたしはどうして此処に」
またしても顔を見合わせてる。
「みかんさん、此処はサンダーレ王国の死火山の地下にある修道院です。みかんさんは道に迷って、お友達と一緒に保護されました。えっと、三時間ほど前に……」
真面目な表情ね。本当に死火山の地下の修道院……夕べ飲みすぎてぶっ倒れたかな……
それにしても何で修道院……
あたし、身体はまだ男の子なのに修道院におネエがいてもいいのかしら。此れは夢よね。
「みかんさん、ラーポのことも忘れたのっ」
えっ、あんた誰っ。どう見ても子供じゃない……仁王立ちって何様ぁぁ……ウサギ耳の赤眼鏡ぇぇ……
「ライザックってイケメンも忘れたのっ」
イケメンって……イケメン……きゃあぁぁぁ……忘れた……
ええっ……イケメン忘れるなんて……ガタブル……信じられない、このあたしが……って……イケメンいたのっ……何処にっ……偏頭痛ぅ……
「ドラゴンのお宝も忘れたのっ、草刈りはっ、ドラゴルーンは黄色い草を食べない、剣山だらけの原っぱ、赤い糸切ってくれたピンクモヒカン、ライザックとベロニカさんや院長さんや死にかけたことも忘れたのっ」
何それぇぇ……全然思い出せないぃ……お宝気になるけどぉ、イケメンも気になるけどぉ、まぁったく思い出せないぃ。どうして地下にぃ。ぁぁ……お宝ほしい……
今は王妃だが、あの王扇を手放した途端に転落だ。
「これがダンジョン修道院への近道かぁ」
黒マントの従者がため息をつく。開けた道は小さな崖の上で行き止まりを装い、曲がりくねった長い坂が逆手の木々の間に垣間見える。
馬を降りた婢呼眼は、従者を横目で見た。
「怖じ気づいたか。この通路は、ドラゴンダンジョンへも続いている」
「もう3ヶ月も経ったんだよね。閉じ込められたドラゴルーン、生きているかな。死んだんじゃない。婢呼眼って意地悪だよね。ドラゴルーンに何の恨みもないのにさ」
「タコ。人前で口を開くんじゃないぞ。お前のそのバカっぽさがお前の滅びにならないように」
「解ってるよぉ。黙っている方が賢く見えるんでしょう。それくらいできるさ」
滅びか……パン屋の娘め、私はそうはならない。
私はドラゴルーンの目玉がほしい。異世界が見えると云うドラゴルーンの目玉が。
私はドラゴルーンの金鱗がほしい。大いなる生命力を生み出すドラゴルーンの金鱗が。
私はドラゴルーンの爪がほしい。立ち塞がる全てを薙ぎ倒すドラゴルーンの爪が。
そして、ドラゴルーンの牙……
其の昔『俺TUEEE兵卒サザンダーレ』が、ドラゴルーンの死体を見つけた。そのドラゴルーンの牙をネックレスにしてドラゴルーンと戦い、この国をドラゴルーン支配から解放したとか……
『俺TUEEEサザンダーレ王』となった彼は、倒したドラゴルーンの身体を八つ裂きにして目玉と金鱗と爪と牙を取り、『魔器四宝』として宝物庫に入れたと云われるのだが、王がみまかると共にそれら全てが石になったのだと……
ふん……いいさ、私は自力でドラゴルーンを倒して『魔器四宝』を手に入れる。パン屋の娘の王妃様ごっこは終わりだ。
ああ、その日を思うと身体が震える……
「ぎゃあはあはあはあああぁ私は女帝だあぁ。今に見やがれぇぇ。ぎゃあはあはあはあはあ……」
婢呼眼は黒マントをコウモリのように羽ばたかせて笑った。
「婢呼眼ぇ、その笑い方は怖いよぅ。壊れてるよぅ」
「タコ。黙っておれと言ったではないか」
高笑いで息を切らせた婢呼眼の片目に、キラリと薄銀の閃光が走る。
「黙っているよぅ。それくらいできるさ」
蛇はカエルを食うが、カエルは蛇を食うのだろうか、従者は竦み上がって考えた。
黒マントを翻して足早に通路に入る婢呼眼の後を、遅れながら転がるようについて行く。
その姿が消えた通路の茂みで、ピンクのモヒカンが呟いた。
「女帝・婢呼眼……ふうん、実現できるかな」
此処はどこぉ……誰もいないのぉ。ベッドが4つある。ひとつは使用された痕跡が……本棚のついた机と椅子が各々4つ。タンスは……ん、ない。棚のようなものもない。
あら……あたしのバッグは何処。ス、スマホはぁぁ、お財布ぅ。ああぁ……偏頭痛ぅ。二日酔いぃ……偏頭痛ぅ……
あたし、どうしたのかしらぁ……水……お水ぅ……何処かに水道があれば……あそこにドアが……誰か……
ぁ……話し声が……
「婢呼眼がそのように……ではライザックは」
「ライザックは婢呼眼の手下。容易な者では……」
「困った……何としても王族殲滅を阻止しなければならないと云うのに」
「あの二人は……」
ん、声が途絶えた……おうわっ、ぎゃひっ。ひぃえぇぇぇ驚いたぁぁ。いきなりドアを開けるなんてぇぇ。
「あら、みかんさん、お目覚め……」
ひぃえぇぇぇ修道女笑顔ぉぉ何であたしの名前を……
「こっ、此処は何処ですかぁ。私はどうしたのぉぉ」
どうしたのかしら本当に。二人とも顔を見合わせて、あら、三人なのね……
「みかんさん、覚えていないのですか。此処はダンジョン修道院です。ドラゴンダンジョンと呼ばれる地下迷路にあります。あなたはドラゴルーンの岩屋から草刈りに」
「待って待って待って待って……何、その地下迷路とかドラゴンとかぁぁ、あはは……シスターの冗談って難しいぃ。草刈りなんてしないわよぉ、あたし」
じゃなくて、冗談笑っている場合じゃない。
「此処は何処なんですか。あたしはどうして此処に」
またしても顔を見合わせてる。
「みかんさん、此処はサンダーレ王国の死火山の地下にある修道院です。みかんさんは道に迷って、お友達と一緒に保護されました。えっと、三時間ほど前に……」
真面目な表情ね。本当に死火山の地下の修道院……夕べ飲みすぎてぶっ倒れたかな……
それにしても何で修道院……
あたし、身体はまだ男の子なのに修道院におネエがいてもいいのかしら。此れは夢よね。
「みかんさん、ラーポのことも忘れたのっ」
えっ、あんた誰っ。どう見ても子供じゃない……仁王立ちって何様ぁぁ……ウサギ耳の赤眼鏡ぇぇ……
「ライザックってイケメンも忘れたのっ」
イケメンって……イケメン……きゃあぁぁぁ……忘れた……
ええっ……イケメン忘れるなんて……ガタブル……信じられない、このあたしが……って……イケメンいたのっ……何処にっ……偏頭痛ぅ……
「ドラゴンのお宝も忘れたのっ、草刈りはっ、ドラゴルーンは黄色い草を食べない、剣山だらけの原っぱ、赤い糸切ってくれたピンクモヒカン、ライザックとベロニカさんや院長さんや死にかけたことも忘れたのっ」
何それぇぇ……全然思い出せないぃ……お宝気になるけどぉ、イケメンも気になるけどぉ、まぁったく思い出せないぃ。どうして地下にぃ。ぁぁ……お宝ほしい……
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
嘘つきレイラ
織部
ファンタジー
1文800文字程度。通勤、通学のお供にどうぞ。
双子のように、育った幼馴染の俺、リドリーとレイラ王女。彼女は、6歳になり異世界転生者だといい、9歳になり、彼女の母親の死と共に、俺を遠ざけた。
「この風景見たことが無い?」
王国の継承順位が事件とともに上がっていく彼女の先にあるものとは……
※カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しております。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
恥ずかしい 変身ヒロインになりました、なぜならゼンタイを着ただけのようにしか見えないから!
ジャン・幸田
ファンタジー
ヒーローは、 憧れ かもしれない しかし実際になったのは恥ずかしい格好であった!
もしかすると 悪役にしか見えない?
私、越智美佳はゼットダンのメンバーに適性があるという理由で選ばれてしまった。でも、恰好といえばゼンタイ(全身タイツ)を着ているだけにしかみえないわ! 友人の長谷部恵に言わせると「ボディラインが露わだしいやらしいわ! それにゼンタイってボディスーツだけど下着よね。法律違反ではないの?」
そんなこと言われるから誰にも言えないわ! でも、街にいれば出動要請があれば変身しなくてはならないわ! 恥ずかしい!
烙印騎士と四十四番目の神・Ⅲ 封じられし災い編
赤星 治
ファンタジー
バルブラインの異変、突如として魔力壁が消えたゼルドリアス、未知の脅威。
様々な問題がひしめく中、ジェイクはガーディアンとして戦えるように成長していく。そして、さらなる世界の謎が立ちはだかる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる