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第一章 一日目 朝 転んだらダンジョン

★(2)転んだら異世界

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躓くミカン

 「痛いぃ。棒に当たる犬よりも宝くじ当たってラスベガスに行きたいよぉ」

「……」

「うん、酔っ払っちゃってさ。だーから~、溝の蓋に躓いて派手にずっこおおおんって。ぐすん、痛かったわぁ。ねぇ、溝の蓋だけどさ、せめてハイヒール挟まらないようなデザインでベンチャーしてっ。て言うかあたし盲目になったのかしら。何にも見えないの。勿論宮古島よ。イーザト付近。朝まで飲んでてぇ、朝日が眩しかったのに転んだ途端に真っ暗になってぇ、周りが岩みたいなのぉ。イーザトにこんな処あったっけ。あー、あるかぁ。おでん清水の近くにあるわぁ」

「……」

「あんたってばっ。飲んだくれだってお仕事だもん。いいじゃん。お酒好きだしぃ、お客もぉ可愛いねって飲め飲めコールするしぃ、ほらぁ、工事しなきゃならないじゃない。あたしまだ身体は男の子だからさぁ、あはは。二十歳になって業界に入ってまだ二週間足らずだから、あっ、キャデラックミカンちゃんって言うの、宜しくね。未完成のミカンよ。ところで、あなた何度も間違い電話してくるけどどちらさん」

「……」

  「あっ、何か光った。明かりが見える。丸い窓みたいな明かりよ。あぁ良かったぁ。真っ暗だから、目を痛めたのかと思って怖かったあぁ。うん、なぁに。あっ、電源切れたっ。デ・ン・ゲ・ン・切れたぁぁ」

  えっ、えっ、ええぇぇ。マジっ。繁華街で転けてからのぉぉぉ電源切れでえぇぇ。じょぉぉぉだんっ。

「何処だよ、ここはぁぁぁ」

  あっ、思いっきり男声出ちゃった。

「煩いぞ、人間。さっきからべちゃくちゃべちゃくちゃ喋りやがって。黙っててくれ」

  こわっ。暗闇でドラ声ぇ。思いっきり不機嫌そうな低い声。ハチキューサンかしら。

「ど、どちらさん……」

  声はすれども姿は見えずって、左の方かな。

「俺様か、俺様はドラゴルーンのブルー・タニアンだ。ここからお前の姿は丸見えだ、人間よ」

  ドラゴルーン。ドラゴンじゃなくて。あ、金色の丸窓。えっ、なぁに、縦線ギョロリってぇぇ動いたあっ。

「人間よって、あ、あなたは人間じゃないとでも」

  こんな暗闇で遭遇する人間の言葉を使う人間以外の生き物って。う、ち、うじん……ぎゃはは。宇宙人って、あ、もうダメ。完全に酔っちゃってるわ。

「ドラゴルーンだ。知らないのか」

「ドラゴンならわかるけど」

  目の上に手を翳して薄目で見ればいいんじゃなぁい。丸窓の近く、げっ、窓じゃない。瞬きしてる。

「ふむ、そうとも言う、かも」

「えっ。ええっってドラゴンっ」

「まあ、でっかいヤモリのクセにとか言う奴がおってなぁ、それで引きこもっているのだが。お、お前、何を言わせるのだっ倫解から降ってきた人間。キャデラック未完成ちゃんとか言ったな。俺様はすこぶる機嫌が悪い。それに」

  リンゲから降ってきたって、目が慣れてきたら暗闇の色の違いがわかる。うっわ、ドラゴンっ。目玉ぁぁ。青い鱗がぁぁ鱗が擦れる音ぉぉ……いやぁん、こんなに酔っぱらったこと未だにないけどぉ。幻よね、幻覚。酔っぱらいの幻覚っ。

「腹も空いた」

  ぎゃああああ。幻覚じゃないのっ。ひええ、お願いドラゴーン、おクチを閉じてぇぇぇ。これから一生ガンバって稼いでドラゴンにお酒のお城を建ててあげるっ。毎日子牛を一頭チキン唐揚げにしてあげるっ。お願いだからぁ。


  

* 倫解
霊界と現世の間に存在する磁界に似た亜空間。時空間移動の際に必ず通る。倫解の結界から外れると霊界に引き込まれて魔物に出会う可能性がある。或いは死ぬ。消滅する。


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