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第四話 其々の関門
しおりを挟む足が止まる。男は言い捨てて大股に進んでいくが、こっちを気にする素振りはない。
そうだ
僕は間隅 李阿羅のクラスだった
間隅兄妹は
生まれながらの加害者タイプだ
奴らの親が偉いからといって
みんなが従っていた
間隅兄妹は
苛めを指示しておきながら
処罰を受けてはいない
間隅李阿羅の友人の独りA美は「全てのことに時と裁きがある」という紙切れを読んだ。
「どういう意味」とB美に聞く。
「人間の邪悪さは、その人自身を裁きから逃れさせはしないという意味だったはず」
B美は溜め息を吐いた。
前を行く間隅李阿羅が顔色を変えた。
「そんな下らないことをくっちゃべっていないで謎解きの準備をしてよ」
その背中に疑問を感じて、A美は彼方の空を眺める。火に舐められて黒煙を吐きだされた空は、だんだん重く黒ずんでいく。
間隅李阿羅の飛行機は
墜落したか空中分解か
乗客全員行方不明って
何で一緒にいるの
これは私の見ている
悪夢なのかな
私は……
私は……
「ねえ、私たちどうしてこんな処にいるの。私、学校帰りのバスで……」
B美が「あっ」と驚く。
「事故ったっ。私たち二人はバスで横転して、あんたは頭を打って……」
「そうだった……じゃあ私たちは死んだの。ここは何処よ。これからどうなるの」
A美が腕を掴む。
「待って。確か、謎を解けば元の世界か理想の世界に行けるって言ったよね。死んではいないんじゃないの、私たち。強いて言えば、死と近い状態……」
「そうね。病院に運ばれて意識不明……目覚めろっ、私っ。生きるのよっ。負けるなっ」
A美の叫びに立ち止まったB美が踵を返す。
「私、戻るからっ」
「はぁあ」
間隅李阿羅も振り返って睨む。
「私、あんたたちとは行けないっ」
B美は来た方向に走り出す。
あの顔は……
あの骨女の顔は……
『全てのことに時と裁きがある』
先ずは確かめてからよ
時と裁きは……
バー神住のママと小柄な男が受け取った紙切れには「人が人を支配してこれに悪を行った」とある。
ママは「あんた、誰を支配したのよ」と暗く吐き捨てた。
「ママだろ。女の子たちを支配していたじゃないか」
「支配って言わないわよ。悪も行わないし。何なのよ、失礼よね」
本気で怒っていたのに、台詞の最後にはふふっと笑う。
男は常連客の一人で、クラブ神住の裏手に住んでいた。何故ここにいるのか全く記憶にない。
「ママ。ここにはどうやって来たの」
「招かれざる客が来たのよ」
「頭を割られたんだね」
「あら、放っておいて。思い出したくもない。元の世界に戻ったら復讐してやるわよ」
流し目で男を見た。
「ふうん。相手の顔は見たんだね」
立ち止まったママは、ふと顔を曇らせて「見たのかもしれないし……」言いよどむ。
「テレビで言ってたけど、後ろからやられたのかい」
「さぁ……気になるわよね」
「僕が犯人だったらどうするかなぁと思って聞いてるんだけどさ」
「それはないわ。あんたは病気で入院中だったじゃないの。あんた、死んだの」
「そうかも。ママの傷を見たら、とても生きた心地はしないからね」
「どんな傷よ」
「バックリ割れてる」
「嫌だわぁ、痛そう。死んだのかしら。でも、謎解きをしたら元の世界に戻してくれるとか、希望はあるわよね」
「どんな謎なのかな」
「もしかしたら、その支配がどうとかってことかしら。私たち二人、支配について考えなくてはならないのかも。面倒よねぇ」
面妖だよ……と男は心のなかで呟く。一度は地獄まで一緒にとプロポーズまでした相手だが、まさかこんな天国だか地獄だか分からないようなところで一緒になるとはと、頭をふる。
間隅李阿羅に紙切れが張り付く。
「自分がされたいことを人にもしなさい」
顔色が変わった。
何これ……
私がやってきたことは
されたくないことばかりだったわ
A美が覗いて「そうかぁ……」と頷く。
「何よ。あんたもでしょ」
「そうかなぁ。私が掴んだのは時と裁きって言葉だよ」
「じゃあ、時と裁きはあんただけで、私はこれってことっ」
怖い顔でA美を睨み付けて「今まであんたに良い思いさせてきたのは誰だと思っているのよ 」と迫る。
「今更、関係無いでしょ。こんなところに来たのは李阿羅のせいもあるかもしれないのに。しかも、私は時と裁きで、あんたはされたいことをやれって言われただけじゃないの。そうよ、やれば、私に。あんたのされたいことを。そしてあんたも『されたかったんだね』って思われてやられたらいいのよ」
間隅李阿羅の拳が上がったが、キキキ……第一関門突破……キキキ……という不快な音声に驚いて腕を下げた。
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