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7)吸血鬼はジジイの血でも生き延びる
しおりを挟む「会いに来たぞ……違った。血を吸いに来たぞ」
執事シアノの目が覚めた。夕べ一晩中悪夢に魘された。見知らぬ青白い男に、首筋に噛みつかれ目を回したような記憶がある。それも夢なのだろうか。
ふっと笑う。
こんなジジイの血など
吸血鬼ドラクロエが
欲しがるわけがない
ふふふ、わたしも耄碌したものだ
ああ、でもなんだか倦怠い
執事はふらつきながらベッドから出ようとして、隣に人が寝ていることに気づいた。
「はっ、あっ、あ……」
驚愕した執事の声に、振り向いた男は青白い顔でにっこり笑う。
「お早う。目が覚めたかい、ジジイ」
強い力で執事を押さえ込み首筋に口を付ける。
「あっ、お止めください。あなたはどちら様ですか」
執事は伯爵家の七男だ。目も舌も肥えたかなり良い育ちをしており、こんな緊急の場合にさえ言葉使いも振る舞いも慇懃美麗だ。
眩暈がした。
見知らぬ男に首筋を噛まれてちゅぷちゅぷされている。女のように抱き締められながらも血を吸われているとは知らない執事は眩暈を圧して抵抗したが、ちゅぷちゅぷで筋肉がだらけて力が入らない。
「旨い血だ。ご馳走様。ふふふ、お前はとても可愛い。夕べはかなり腹が空いていたものだからお前を噛んでしまったが、体調は心配無さそうだな」
「あああ、こんなジジイに何をしたのですか。あなたは一体何者なのですか」
気が遠くなる。
「私か、私は吸血マシャールだ。お前は私の恋人になった。毎夜、お前の血を吸いに来る」
「吸血鬼……こ、恋人……め、滅相もない……」
恋人って何のことだっけ
余りにも歳を取りすぎて意味がわからない
吸血鬼の恋人って血を吸われる餌のこと……
エサ……エサですか、私……
「ふふふ、可愛い。年寄りなのにお前の血は甘い。何を食って育ったのだ、ジジイ。その年で童貞か」
「あああ……め、眩暈が……」
グガッ……
大きな音がした。
ノエビアとシェルリナはその音に魂消た。
朝食のワゴンを押す小間使いを尾行して、ヴェルナールの部屋に入り込んだノエビアとシェルリナだ。
「今日のお昼には出立するので、もうお会いできる機会がありません。不躾でお恥ずかしいのですが……」
シェルリナがもじもじと恥ずかしそうに身を揉む。
悪霊が傍らで「その調子その調子」と励ます。
小間使いが部屋を出た後で、ノエビアはドアノブが動かないようにサイドテーブルに書籍を重ねて載せ、ドアノブの下に差し込んだ。
「流石だぞ、ノエビア」と悪霊が誉めた。
これでドアは開かない
さあ可愛い領主ヴェルナール
思う存分可愛いがってやろう
そう思って安心仕切ってヴェルナールのベッドに飛び込んだのだ。二人がかりでヴェルナールを襲って口づけの嵐をお見舞いして下の可愛いモノをしごきながら衣服を脱がせた。
悪霊はニタニタ笑いながら、ヴェルナールの身体を押さえつけた。
可愛い白いお尻がポロリと出る。シェルリナは跨がるつもりでドレスを脱いだ。もとから下着は穿いていない。緩めのコルセット姿になった。
ノエビアもズボンを下げてそそりたつ一物でヴェルナールのお尻を狙う。入りやすくするためにべっとりと油を塗って来た。
「今だ、ノエビア。シェルリナが下になってヴェルナールを抱き締め、動きを封じてくれているぞ。今ならバッチリ挿入できる。早くやれ」
悪霊はワクワクして舞い上がった。
その時だ。グガッ……とあり得ない大きな音がドアの方向から聞こえ、ドアノブの下に挟まっているサイドテーブルが動いた。ドアから離れて室内に進んで来る。
「あっ。あれを見ろ。う、動いているぞ」
お尻に突き入れる瞬間だったが、音に驚いたノエビアが、ドアを指差した。
ヴェルナールの口を吸っていたシェルリナの顔が離れる。
「た、助けてっ。誰かっ、誰か、爺や、爺や、助けてっ」
ヴェルナールが叫ぶ。
ドアが開いた。剣が見える。鬼の形相の若い男が剣を手にして突進してくる。
ノエビアは、ひっくり返った。
「な、何者っ……」
その問いを無視して剣はノエビアの顔前にひと振りされた。
ヒュッ……
空を鋭く切り裂く音。
「ぎえああああ」
ノエビアの片方の睫毛が飛んだ。ノエビアはどこかを斬られたと思って顔を押さえたが、血は出ていない。
あああ、そう言えば思い出した
ザカリー領の兵士は余りにも暇だから
蠅や藪蚊を切って遊んでいると
あ、遊びでそんなものを振り回すな
こ、こっちは遊びじゃないんだ
一生がかかっている
あああ、もう終わりだ
甘い人生が崩れていく
シェルリナに絡まれて暴れていたヴェルナールは、剣に驚いたシェルリナの手を離れてお尻を露にベッドから落ちかけている。
シェルリナの鼻面に切っ先が向かう。殺気そのものがシェルリナの眉を準る。痛みも痒みもなく、すっと片方の眉がなくなった。
「いやああああ、こっ殺さないでええ」
「殺しはしない。我が主から離れろっ」
「あ、主……」
シェルリナはヴェルナールの手を離した。ヴェルナールがお尻を丸出しで転げ落ちる。
従者の殺気に圧されて、ノエビアとシェルリナは先を争いながらベッドから転がり出た。脱ぎ捨てた衣服を拾う二人に剣を向けて、従者はヴェルナールを守る。
「わ私たちは挨拶をしていただけですから……」
真っ青になったシェルリナは、片方の眉のない道化のような顔を歪めて、衣服を抱えて裸のまま走り去った。
ノエビアは腰を抜かしてその場にへたりこみ、首根っこを摘ままれて部屋の外に放り出された挙げ句、ズボンや下着を顔に投げられた。
「ダネイロォ。た、助けてくれて有り難う。本当に……嬉しい……有り難う……」
泣き声のヴェルナールが従者にすがり付くのが見えた。
「ああ、旦那様。危ない処でしたがもう、大丈夫です。このダネイロがいる限り、もう二度とあの様な真似はさせませんから」
従者の胸に抱かれてヴェルナールはそっとノエビアとシェルリナを見た。
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