毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第8章 泣き虫な王子様 

(19)監視役

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マニスの部屋は突き当たりの大きな部屋で25メートルの室内プールもある。別のコーナーにはバーカウンターがあり、ホテルのバーテンを呼ぶこともできた。書斎にはパソコンがおかれ、世界中の辞典があり、狭辞苑もプリタニキ百科事典もある。


「ジェレメール、何処に行ったの。生きているの……早く戻って来て」


マニスは消え入りそうな面持ちで窓辺に近づく。

至れり尽くせりの部屋は、リビングを挟んでマニスとジェレメールの寝室の向かいに執事の部屋もあった。

執事はジェレメールの行方不明に責任を感じて自決の為の遺書をしたためた。それを胸ポケットに忍ばせて耐えている。


もう、そろそろ朝になる
今日も戻られないのだろうか
もし、お命に何かが起きたのであれば、私も……


悲しげな顔つきが硝子窓に映る。

外の景色は紫色の朝焼けが黄色い光に馴染んで美しいグラデーションを奏でていた。

その同じ風景をマニスも独りで眺めている。


ジェレメールが生きていますように……


ナハンネは、ハナリエラと同室だった。ナハンネの部屋はマニスの部屋への廊下を挟んで左右をナハンネとハナリエラ、もう一方をクサカリとエリスが使っている。最上階はこの三室だけだ。

ナハンネは同室のハナリエラが殺されて不快な夜を過ごすことになった。警察にはあらぬ疑いをかけられて、濡れ衣を着せられる処だった。


「私が犯人の訳ないじゃない。第一、妊娠もしていないのに、何故ジェレメールを狙わなきゃあならないの」


確かに、子宮に子種の入っていないナハンネには一文の得もない。

ドイツの振興政策に寄与するために来独したことが今となっては忌々しい。元々、ジェレメールだけが参加予定だったのに、祖父の故郷だということでナハンネも同行することになった。

クサカリもエリスとハナリエラも賑やかしだ。護衛は別として、その賑やかしのメンバーに含まれるのも忌々しい。


「あ、ハナリエラはもしかしたら撮影しているかもしれないわ。犯人がジェレメールの側をうろついていたら、写真に写っている可能性がある」


ナハンネはマニスに告げようと思った。

その前にまずはナハンネと写真機を確認しなければならない。最新式の巻き上げ式フィルムだ。


クサカリにも知らせるべきかしら。

あいつは何を考えているのかわからないのよね。

でも、クサカリの口からエリスに伝わるんじゃじゃないの。

それはいただけないわ。

エリスは監視役だから王様に筒抜けだもの。

それに、ハナリエラの胸に刺さっていた短刀は、私が預かっていたものだから、エリスは私を疑っているはずだし……














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