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第8章 泣き虫な王子様
(17)殺される
しおりを挟む「ああ、クソっ。シャンタンに会いたいなぁ」
にっこり微笑む可愛い顔が浮かぶ。
その小一時間前に、カナンデラは頭を抱えていた。
対外環境整備局って何をする処なんだ
捕らえた男はキンギョクを潰される恐怖で白状したが、大日本帝国の対外環境整備局が関係していると言って、その全貌は知らないらしい。
日本の対外環境整備局と言うのは国会で承認されていない闇の組織だ。そして、正確な名称でもない。
内閣の何処の省庁が関わっているのかも定かではなく、それは明治維新以前から、つまりは江戸幕府のあった時代から忍者として海外派遣されていたスパイ組織の隠れ蓑的な名称だ。
勿論、歴代の内閣総理大臣も官房長官も大日本帝国軍の元帥直隷の大臣も全てその組織の存在を知っており、国民の目を掠めて税金で株取引して儲けた金を投入してスパイ活動から有益な情報を得ている。
カナンデラは遠い日本に淡く抱いていた憧れが、その小国の闇に触れてこそはかとない恐れを感じた。
サムライ日本、神国日本、忍者と芸者とフジヤマ、チョンマゲ、謎の薬売り、戦国武士、ああ彼の町角には蝶々の舞う夢のカゲマヂャヤがあると云ふペカペカ金ペカの国……
日本では昭和二年の1927年。どこに戦国武士がいるのかわからないがサムライもチョンマゲも既に死滅している。しかし、日本のイメージとしては良い方だろう。酷いものになると『猿が似合わない洋服に身を包み、背伸びして人間の仲間入りを果たそうとしている』系の風刺画が流行り、新聞等で和服の日本人を『布巻いて二足歩行する猿』だと笑い者にしていた。
ラナンタータがものも言わずに部屋を出たので、一応は収まった形のLGBT問題だったが、ローランはジェレメールを離そうとしない。
三人で見つめあって不穏な空気に戻った。
「ローラン、俺はジェレメールに聞きたいことがあるだけだ。ラルポアの部屋に侵入した賊から聞いた話が本当なら、ジェレメールは奴等の中に見知った顔がいる可能性もあるんだ」
ローランはジェレメールを必死に抱き締めた。
「もし、知っている人物がいたら」
「思い出すかもしれないだろう」
ローランの顔色が変わる。
思い出させてはならない。ジェレメールをモノにするまでは、いや、ジェレメールの国に乗り込んでジェレメールに王位を継承させる。その黒幕に僕がなれるかどうかの瀬戸際だ。僕はまだジェレメールをコマシテいない。それなのに思い出されたら……殺される……もう何度もキスしたし、恋人だと嘘を吐いた。殺されるのは間違いない。
馬鹿は何処の世界にもいる。
「待って、カナンデラさん。暫く時間をくれないか」
カナンデラはニヤリと笑った。
「あのな、タワンセブのボンよ。お前、俺様を舐めてるな。お前の考えが見抜けないとでも思うのか。お前、こいつとやる気だろう、エロいことを。しかしな、今更コマそうったって問屋が下ろさない。俺様がそうはさせない」
ジェレメールが潤んだ目でカナンデラを見つめている。心なしかハート型の光が浮いているような瞳だ。
カナンデラはシャンタンを思い出した。
勃起しそう……ヤバい。
しかし、浮気はしない主義なんだ。
それで冒頭の
「ああ、糞っ。シャンタンに会いたい」
と溢したセリフに繋がる。
カナンデラはジェレメールを引き剥がす為にローランと格闘めいた争いになり、暴力を振るうつもりもなかったのにしつこくしがみつくローランと身体が縺れて唇が重なった。
「「「……」」」
うおおおおおおお、シャンタァァァァァンンンン……
浮気じゃないぞおおお
……馬鹿は何処の世界にもいる。
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