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第8章 泣き虫な王子様
(10)マニス登場
しおりを挟む玉虫色のドレスを着た女がキセルを手にして立っている。濃紺のドレープの垂れるホテルのラウンジで、藤椅子に腰かけた老人を睨み付けた。
「ジェレメールが何処にもいないって、あんたの責任よ。言っておくけど、ハリナエルが殺された今、ジェレメールの命も……」
「お名前を出すな」
老人は暗い八丈縞に芥子色の帯を絞めて真っ白な毛皮をもふもふと着ている。日本人のようには見えない顔だが、手にした扇は日本の紅梅が描かれていた。
「え……」
その紅梅の扇を広げて口元を隠す。
「確かに今はお前さんの息子に当たるかもしれぬが、殿下はいずれ皇帝になられる。図々しくも殿下のお名前を呼び捨てにするな、ナハンネ」
言った後でパタパタと音を鳴らし扇ぐ。外は雪が降っている。ラウンジの中央の暖炉から広がる熱気も、扇ぐほどの暑さではない。
「ふ、ふん。そうね……だったら早く探してよ。此処で座っていても……」
その場に相応しくない声がした。
「あなた自身は探さないの」
十才くらいの子供の姿だが、大人びたものの言い方をして女の背後から現れた。ターナー症候群に見られる低身長、性的未発達の症状を呈したこの女の子は三十路を越える。
「マニス様……」
「あなたも殿下を探してよ。今すぐ、心当たりに当たって。ハリナエルみたいに殺されないうちに見つけ出すのよ」
老人と玉虫色のナハンネは、マニスに傅く。マニスは高貴な生まれらしく顎をあげて見下ろすような目付きで言った。
「もし、殿下に何かあったら……」
言葉を切って、首の前に水平一直線を指先で描く。
ナハンネは老人と顔を見合わせた。
「首……ですか……」
ナハンネが聞く。マニスは地団駄を踏んで怒った。
「鈍いわね。あんたたちもハナリエルみたいにしてやるってば」と、言ってから何かに気づいて「私が殺したのではありませんけどね、ハナリエルのことは」と付け加えて、更に「命令もしてないし」と言った。
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