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第7章 投獄されたお姫様 

(21)オシッコしたい

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  ラナンタータは朦朧とした目を動かした。氷の上に寝かされているような冷たさ。身体は動かない。再び目を閉じた。眠い。

  ルパンは、手と膝をついて通風口の中を進む。衣服は軽装だが、微かな擦過音が響くのを恐れて肌着だけになっている。

  ラルポアは床の手触りを不思議に思った。

この研究所は
通風口まで清掃しているのか
隅を擦ればわかる
おっと、分厚い埃が取れた
ルパンはこの通風口を何度か
おそらく日常的に使っているのだろう
この男、何者だ

  一階に部屋は七つ。ルパンはその七つの部屋の確認をスルーして二階に上がる梯子段を登った。

「何故、梯子があるのだ」

「しっ、私はフランス人だ」

  成る程と頷く。

フランス諜報員か……
ドイツの各研究施設に
配属されていてもおかしくはない
物理学最先端国ドイツが
敗戦して何を考えるか、何を企むか
戦勝国は危惧したって訳か
怖いな、世の中は
僕もまさか強盗みたいに
他人の敷地内で
こそこそ嗅ぎ回るようになるとは
ラナンタータ……君が

  椅子を立ったラナンタータに『着いてこないで』と手で制された時、ラルポアは迷った。『悪魔ちゃんは独りで泣きたいのだろう』カナンデラのセリフが突き刺さる。

ラナンタータが独りで泣く……
泣く時はいつも僕の処に来た
そのラナンタータが独りで泣く
理由は僕のことだ
あの時、迷わずに
ラナンタータを警護するべきだった

『仕事か。アントローサの犬は』

仕事だ
こんな処を強盗宜しく
這いずり回るのも僕の仕事だ
ラナンタータは自ら店を出た
少しの間、外の空気を吸って
気分転換したかっただけなのだろう
けど、まさか外に出るとは
ラナンタータを独りにした僕の責任だ

  梯子段はずっと上まで続く。その途中に横穴があり、二階への通風口になっている。ラナンタータが地下牢にいるとも知らず、ルパンとラルポアは二階の一部屋に辿り着いた。

  研究員のひとりがインターホンで喋っている。

「そうだね、あの娘、可愛いアルビノだよ。所長が連れてきたんだ。今、宇宙船に……あ、下りたのか。じゃあ此処に来るかな。何せ東西随一の電子頭脳だからね。見せたいだろうよ。とっても可愛い子だからさ。所長の女癖ったら治らないね……あっ、所長」
 
  研究員の声が強張った。インターホンを切ったらしい研究員の慌てた様子が、手に取るように伝わる。ルパンはその様子を通風口の網戸を通して見た後、身体を伸ばして横臥した。その空いたスペースを指さす。ラルポアも並んで臥した。室内の様子がはっきり見える。

「私の女癖だと。私は女などには興味はない。ローラン、こいつは変な誤解をしているらしい。迷惑な話だ」

  リヒターの横にローラン・タワンセブの姿を見て、ラルポアは何が起きたのかを察知した。

あの馬車はローランだったのか
だからラナンタータは乗ったのだ
良かった
ヴァルラケラピスに
拐われたのではなかった
いや
誰がヴァルラケラピスに
通じているかわからない
しかもローランは
ツアイス所長の手先だ
リヒター・ツアイス……
ラナンタータは何処だ
勝手に連れ回すな

「で、ラナンタータは何処なんですか、所長。同国人としては放っておけないものだから」

「あの子は心配ない。ローラン、先ずは私の部屋に行こう」

  リヒターがローランの肩を押しながら研究員を振り返った。

「引き続き、頼むよ」

「あの、私ももう帰る時間ですが……」

「そうだったね。悪かった。此処はそのままで良い。後から客を案内する。そうだ、ルパンに頼もう。何でもできるやつだからな。君は帰りたまえ。ご苦労だった」

  暗い通風口の中で、じっと息を潜めて聞き耳を立てる。リヒターとローランが所長室に行くことがわかっただけで、ラナンタータの居場所はわからない。

  ラルポアとルパンは後退りして一階に下りた。


  ラナンタータが目覚めた。寒い。寒くて、トイレに行きたい。オシッコしたい。ぶるぶる震えているのが自分でもわかる。ラナンタータは通風口に手を当てた。暖かい。

通風口カバー、外れるかな
此処から逃げても捕まるな
でも、暖かい











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