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第7章 投獄されたお姫様 

(22)妖魔・龍花

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  リヒターはソファーを勧める前にローランのコートを剥いだ。キスしながらソファーの背から倒れこみ、急いて上着をはだけた処でふたり青ざめた。


「リヒター、あんたソドミーだったのか」


  西太后のように美しく着飾った妖魔・龍花が、ソファーの背から覗き込んでいる。


「私と別れてからソドミーに走ったのか。それとも私のことは騙していたのか」


  若い西太后が目を吊り上げて笑っていた。横にいるのはカナンデラ・ザカリーだ。


「おおっと、目の毒だぜ、色っぽいお二人さん。勃起しそう」


  こんな場面でもアホなことを言うのが本編の副主人公、単細胞カナンデラだ。

  しかしリヒターは驚愕の眼差しでカナンデラを見つめ、ローランを抱き締めた。カナンデラのセリフがソドミーの琴線に触れたらしい。

  龍花の目が更に吊り上がる。


「別れた男でも目の前で男を選ばれたら呆れるし、怒るヨ。騙されたヨ。悔しい。悔しい。溝に落ちてウンコ踏んだくらい悔しいネ。お前ら二人豚に食わすヨ」


  これにはカナンデラもたじろいだ。


「カナンテラ、あんたは私に恩義があるネ。二人をこのまま結わえつけて。ほら、二人のネクタイヨ」

「縛るつもりか。止めてくれ龍花。アレをされたら私は」


面白そうな過去がありそうだな
縛られて何をされたと言うのだ
リヒター
俺様、興味ないけどな
興味はないけど
面白そうだな


  ローランを抱き締めたまま懇願する。手を離せば大金を放すことになる。リヒターは必死だ。

  ローランは頬を染めて「ああ……」などと甘い声を漏らす。


僕のこと其処まで好きなの
リヒター所長ぉ……


  カナンデラはそのローランの顔を見ながら、ネクタイで二人の首を繋ぎ、足を縛った。


「手は自由か、カナンテラ。あんたのことウマシカって呼ぶヨ」


  自国民だけではなく中華民国人にも思い切りバカにされて、カナンデラは辺りを見回して何も見当たらず、リヒターの服を剥いだ。そのシャツの袖で四つの手を縛る。カナンデラは龍花の犬に成り下がっている。


「シャツの使い方上手いネ。元警察官たと新聞て読んたことあるネ。カナンテラ、あんた、犯罪者並みたネ」


  ブルンチャスによく言われていた同じ言葉を此処で聞くとは、カナンデラも単細胞冥利に尽きるが、やらせているのは龍花だ。通風口の中から、ラルポアが吹き出しそうになった。


「はは、どうだ、動けないだろう。あのな龍花、俺様は犯罪者ではなくて、元警察官だから悪党を縛るのは得意なんだ。おい、こら、ローラン。お前、ラナンタータを拐ったな」


  カナンデラの手がローランの下腹部に伸びた。リヒターが慌てる。構わずカナンデラはにぎにぎと握り、おほっと笑った。ローランが顔を赤くして悶えるのをリヒターは目を剥いて「止めろ、ゲス野郎。ローランに手を出すな」と喚く。


「じゃあ、ラナンタータの居場所を教えろ」

「ラナンタータ、誰だ、其れは。私は知らない」

「リヒター、私が相手ヨ。観念するネ」


  龍花は艶やかな絹のストッキングを脱いだ。白い肉の中に流れる赤い血がそう見せるのか、龍花の足はえもいわれぬ色香そのもの。

  しかし、纒足テンソクではない。カナンデラも、ほおと感心した。


「纒足じゃないんだな」

「私は漢民族の客家ハッカだから、足を小さくくるんたりしないヨ。それよりは男を縛るネ。ははは」


  いきなりリヒターの頬を、足裏を擦るようにして撫で上げ「あんた、これ好きヨ。マソだから」とせせら笑う。足は顔面を隈無く擦る。リヒターが「ああ……」と嗚咽を漏らし、ローランもまたカナンデラの手に弄ばれて「ううっ」と喘ぐ。


  リヒターが龍花の足の指を舐め始めた。


「ほら、サトマソ好きネ、あんた。ラナンタータは何処」

「ううっ……言えない」

「あそ、教えてくれないネ。やぱり豚に食わすヨ。あんた、違法行為に及んたのたから」


  Wikipediaに依ると、ドイツでは1871年に「男性間の姦婬」を規制する法律が制定されているとある。だからと言って豚に食わせても良い訳ではない。

  龍花が何をしたのか、恐らく口の中で指を動かしたのだろう、リヒターは悶絶して「龍花、龍花、ああ、素敵だ」と言った。その横でローランも「カナンデラさん……」と涙目で喘ぐ。リヒター・ツアイスとローラン・タワンセブの関係は終わった。


「俺様、ローランを奪っちゃうよ」

「ああ、龍花……もっと……ローラン、済まない。ラナンタータの居場所は……やっぱり教えられない」

「何ヨ、もっとって。教えないならやらないヨ」


  龍花は涎でベトベトになった足をリヒターの口から引き抜くと、リヒターの股間に擦り、指の間を二人の衣服で拭き始めた。リヒターは下着の中もベトベトになっている。


「教えられないんだ……」

「足が汚れたネ。リヒター、ラナンタータの居場所を教えないならあんたもこの研究所も終わりヨ。あんたがナチスの幹部ならナチスも終わり。あんたの足フェチのことてはないヨ。あんたの心、許せないネ。豚を三十匹くらい連れて来るヨ」


  わはははとカナンデラの高笑いが響く。ローランも「カナンデラさん」と訴える。カナンデラは途中で止めて、手をローランのシャツに拭った。


「どうせお前は何も知らんのだろう」


  通風口の網戸が開いて、呆れた顔でラルポアとルパンが出てきた。


「カナンデラ、諦めるのか」


  ラルポアがいきなりリヒターの腰からベルトを引き抜いた。


「お、お前、まさか」

「まさかだよ。最後まで諦めない」

「お前も男に興味が……」

「まさかっ」


  最後まで聞かずに振り上げたベルトの鞭がしなる。カナンデラのアホな誤解に思わず余計な力が入って、リヒターの腰に当たった。


「ううっ……」

「貸して。鞭はこう使うネ」


  龍花がベルトを受け取ってリヒターの下腹部を打った。


「あうう……」


  ピシッピシッとベルトが鳴り響く。その度にリヒターの身体が蝦のように跳ねる。


「ラナンタータは何処だ」

「言わないと、この姿を客に見せるヨ。豚より人間が怖いネ」


  龍花の鞭が男の象徴に炸裂した。リヒターは泡を吹いて笑顔のまま白目を剥いた。龍花は妖艶な顔をローランに向ける。


「坊や、次はあんたヨ。覚悟するネ」





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