毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

文字の大きさ
93 / 165
第5章 婚前交渉ヤバ過ぎる

(17)ほっといてくれ

しおりを挟む

「殿下って……どういう」


ラナンタータがラルポアを見上げる。


「そ、れは……意味はないよ」

「おそらく」


と、先に席に着いたカナンデラが割って答えた。


「美形男子殿下とかモテ男殿下とか、あ、女殺し殿下だったっけ、ラルポア殿下。キヒヒヒ」

「ほ、ほっといてくれ。誤解だ」


ラルポアはラナンタータの為に椅子を引いてやり、自分も隣に腰掛けた。

カウンターの女性がラルポアに視線を送る。金髪に薔薇色のドレス、ナイスバディ。ラルポアはにっこり微笑み返してから、ラナンタータに見つめられていることに気づいて、アーメンと言いかけた。


そういえば僕はフリーではなかったかも。
フェイドアウトしかけてはいるが
彼女がいたはずだ。
名前を忘れそうだ。ヤバい。
ラナンタータが最低だと叫ぶ。
最近は危ない橋を渡って
冷やひやもので
デートの時間もなかったから
浮気しそうだ。


素知らぬ顔でメニューを広げてソフトドリンクと桜餅のブルスケッタを選ぶ。ラナンタータはラルポアの顔から視線をメニューに落として悩み始めた。


「ねえ、私はこの店にまた来れるかな」

「連れてくるよ」 

「じゃあ、今夜はホットゼンザイとチーズお餅と三種のベリーのチーズクリーム煎餅カナッペと……ラルポア」

「え……僕もメニューに載ってるの」

「バカ。何処見てるの。あの女の人ね、薔薇色のドレスの」

「あ、あぁ。誰かに似ているんだ」


薔薇色のドレスの金髪女がラルポアに人差し指でカモンと合図する。彼女はカウンターから離れて化粧室の通路へ向かった。


「ごめん、ちょっとトイレ」


ラナンタータは背後を通るラルポアを、首を巡らせて見送った。


「僕も、トイレ」


シャンタンがラナンタータにウインクする。ラナンタータはきょとんと小首を傾げたが、カナンデラが「任せておけ」と笑う。


「何を任せるの」

「ラナンタータさん、心配なんでしょ。ラルポアさんのこと」

「え、何を心配するの、私……」


シャンタンはカナンデラと顔を見合わせた。


トイレの通路でラルポアは女と絡み合っていた。壁ドンで小鳥のようなキスから女の腕が首に回り、ラルポアは両手で女の腰から脇の下までゆっくり撫で上げる。股の間に片足を差し込んで女の身体を乗せて仰け反らせ、軽く屈み込んでキスした。

脇腹を撫でて抱き締めた。熱烈なキスが途中で離れる。


「やっぱりね」

「え……」

「いいのよ。情熱的なふりなんかしなくても。あなたはやっぱりラナンタータのお守り役が似合っているわ、ラルポア殿下」

「え……」

「もしかして……もしかしてだけど、まさか私のことを忘れたとか」


誰だっけ……


「ヨネンマエ」

「そんな昔のこと」


ラルポアの頬に女の平手打ちが飛んだ。ラルポアの前髪が乱れる。


「このタラシっ」


いや、君の方から……


「節操がないわねっ」


だから、君の方から……
あれ……
まさか……でも、誰だっけ……


「ジュエリア・ロイチャスよ」
 
「「あっ」」


驚く声が、曲がり角のシャンタンとハモる。ラルポアは、シャンタンに目撃されたことを知った。


「あら、シャンタン会長。ふふ、お久しぶりです」


ジュエリア・ロイチャスはラルポアからついと離れてシャンタンの方へ歩き「後程、ご挨拶に参ります。カポネと待ち合わせなんです」と会釈して去った。


ヤバい。
ジュエリア・ロイチャスだ。
マフィアの娘だ。
女は化ける。
四年経てば別人だ。
痩せて大人になったが
マフィアの娘に変わりはない。


シャンタン傘下組で最大勢力を誇るパパ・キノシタ組を、セラ・カポネが跡目相続出来たのは若頭不在の時だったからだ。

7人組の残り6人の預かりにすれば良かったのだが、崩れたパワーバランスが明確になり、セラ・カポネは期に乗るに敏だった。


シャンタンは震えた。


其の問題児とロイチャスの娘が会う……

それよりラルポアさん
ラナンタータさんを裏切って
浮気して最低……


沸々と煮えたぎる。


「今の、どういうことなんですか、ラルポアさん」

「さあ……全くわからない」

「キスしていたのに」

「いや、あれは挨拶みたいな……」

「最低ですね。あんな過激な挨拶って。ラナンタータさんという永遠の伴侶がいながら退廃的な冗談という名前の酒場で色気ムンムンの女とトイレの通路でタンゴ紛いのキスなんて、やりたい放題じゃないですか」

「え……永遠……」

「そうでしょ。ラナンタータさんには黙っておきますけど、約束してください。二度と浮気はしないと……できるでしょ」

「ほっといてくれ」

「約束して。二度と浮気しないって……」


異様な動揺を感じて二人が通路の入り口を見た。其処にタワンセブの息子が顔色を変えて立っている。


「あ、あ……失礼……」


タワンセブの息子は慌てた様子で踵を返す。


「ま、待って、ローラン。違うの。待って……」


ローランは振り替えって「イントネーションが」と呟く。完全に女性的な喋り方になっていたことに気づいたシャンタンは青ざめた。


「あ……ち、違う。こ、これは……今のは……」

「大丈夫です。誰にも言いませんから。噂が本当だなんて」


ローランは走り去った。

シャンタンはラルポアを振り替えって泣きそうな顔つきになった。


「タラシ殿下っ」


そんな……
ほっといてくれ……



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...