毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第4章 一緒に世界を変えよう

(21)シャンタン慌てる

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ツェルシュは可笑しくなった。いつもは横柄なシャンタン会長が悩める顔つきで「あれで良かったの」と訊いてくる。


「銃弾くらいなら愛嬌ですよ。代理人を立てて釈放されたのが雑魚だけなら、何が起きるかわからない状況です。警察はそこを狙っているかも」

「警察のことが何故わかるんだ」

「女がいますから」

「警察内部にか……恐れ入ったな。バカ女なのか」


シャンタンは頭を振った。いけない妄想が過ったからだ。


「相当な喰わせ者です。こちらを情報操作しようと企んでいるようですから」

「成る程。恐ろしい女だ。マフィアをコントロールだなんて」

「恐ろしいのは背後の者です。ゴヅィーラザウルスか……もっと上の警視総監アント……いえ、確定できないのです」


ツェルシュの脳裏に婦人警官とは思えないセクシーな美女の裸体が浮かぶ。


『モーダルはまだ勾留されているわ。セラ・カポネは警察を襲撃しかねない勢いで怒りまくっているそうよ。あなたがモーダル逮捕に力を貸したのでしょう。押収したキャデラックが穴だらけだったわ』


ベッドで楽しそうに笑う彼女の髪の毛を撫でながら、ふと、何かが起きる予感がした。その時の感覚が過る。


「会長。セラ・カポネは警視総監アントローサと取り引きする道具を欲しがるでしょうね。娘さんとか……」

「まさか。ここから目と鼻の先なのに」

「ええ、まさかこのガラシュリッヒ・シュロスの通りでドンパチするほどオツムが悪いとは思いたくありませんが、念のために、あの程度の銃弾贈るくらいは愛嬌ですよ。会長がスミス&ウエッソンをプレゼントしたのでしたら銃弾の補充も必要かと」

「プ、プレゼントって……」


奪われたとは言えない。カナンデラに取り上げられて、勝手に持ち帰られたのだ。


「しかし、スミス&ウエッソンは至近距離なら殺傷能力に問題ないですが、口径が小さいので、まあ、女子供でも使いやすいですよね。ザカリー探偵のようなハードボイルド系の男の持つ銃としては少し軟弱な気がしないでもないです。アメリカ軍のあの機関銃とか、似合うでしょうね」

「トミーガンと言うやつか、この前、異世界から輸入したやつ」

「そうです。トンプソン・マシンガンです」


何故、会長をけしかける
いや、ザカリー探偵は強力なサポーターだ
会長傘下の組の関わる事件を
既に幾つも解決してくれた
会長は指一本動かさず名を汚さず
手下の命も損なわなかった


「会長。あれはザカリー探偵も見たことない代物ですよ。アメリカは禁酒法騒ぎでマシンガン撃ち合っているらしいです。もし、セラ・カポネがマシンガンぶっ放したら探偵事務所は吹き飛びます」

「直ぐに出せるか」

「はい。隣の開かずの部屋です。持って来させましょうか」


やっぱり俺は会長をけしかけている
良いのか、危ない橋を渡らせても……
セラ・カポネを叩き潰す良い案があれば……


ツェルシュが受話器に手を伸ばすと同時にベルが鳴った。


「会長室だ。何……ザカリー探偵事務所が銃撃戦。わかった。応援に行け。ぁ、会長、応援行かしてもいいですよね」


ツェルシュはシャンタンに確認を取り、シャンタンは顔色を失って頷く。


「あ……あれを、ト、トミーを……」

「おい、機関銃を装備して行け。会長のシマで好き勝手をさせるな。但し、こっちに死人が出る前に相手を殺すんじゃねぇぞ」


受話器を置いたツェルシュは会長に微笑む。


「お坊ちゃん、大丈夫です。シマはきっちり守ります」


ガラシュリッヒ前会長に頼まれたのだ。


『息子を頼む。あの子は年いってから出来た子だ。可愛いひとり息子だ。可愛いが、軟弱で何を考えているのやら……お前なら色んな面であの子をサポートしてくれるだろう。守ってやってほしいんだ。頼まれてくれるな、色んな意味で……』


色んな面とか色んな意味とか……
まさか、ですよね
まさかのためにも
ザカリー探偵事務所を守らなければ
私にさかずきが回ってくるとか
私は男です
男だからこそ頼まれても
できないことはあります
女、いるんですよ
とんでもない喰わせ者ですが
女というだけマシでしょう
お坊ちゃんは
ザカリー探偵に頼みましょう
ザカリー探偵が死んだら……
まさか、まさか……
ううっ……


ツェルシュは微笑みを顔に張り付けたまま、気が遠くなる感覚に抵抗した。


私にはお坊っちゃんを
抱くことはできない
ううぅ……
カナンデラ・ザカリー探偵頼みだ
二人とも南の島にでも行って
早いとこ結婚してくれ


「ツェルシュ、カナンデラの事務所に行ってみよう。車を出して」

「行けません。警察が来たらヤバいです」

「ツェルシュゥゥ……」


会長ぉぉ……
涙目で女の子の顔つき
してますよぉぉぉ……
ああ
会長に良いお相手がいて良かったぁぁ……
絶対、守るぞザカリー探偵事務所を
何がなんでも絶対に死守する 
私も男だ
相手が婦人警官でも
お坊っちゃんより女の方が良い




窓ガラスが全壊した。部屋中に散乱したガラスで足の踏み場もない。縛り上げた男たちを廊下に出す。


「お前らには人質の価値は無いらしいな」


カナンデラの言葉に男たちが呆然となる。


「パパキノシタ時代は完全に終わったな。お前ら、シャンタンの部下になれ。その方が実入りが良さそうだぜ。あの若いボンボンは遣り手だ」


実は座っているだけのお飾りだ。執事みたいな側近ツェルシュが会計士になって業績が断トツにアップしたことが、シャンタンを守る盾になっているだけの話。


「ねぇ、カナン。あいつら、何時まで天井に穴を作り続けるのかな。覗いて見る」

「ラナンタータ、跳弾危ないから僕が見てみるよ」

「ラルポアは駄目。そこら辺の女が卒倒するから」


嘘だろう悪魔ちゃん
お前の都合じゃないのか……


カナンデラが苦笑いする。



























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