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49 雨上がり
しおりを挟む雨は豊穣をもたらす。
草木の緑と街を洗い、萌出て芽吹く命を謳い、海に流れるまでの田畑を潤し人を新たにする。
一方で、暴風が重なった島は畑でキビが倒れ、茅葺きだと屋根が飛ばされ屋内から空が見えることになる。
梅雨の時期にこの暴風は一時と言えど凄まじく、鉈が十六夜に帰ったのは夜のとっくに営業時間になってからだった。
河南の着物を借りた。奥身をたっぷり取っただぶだぶの太い格子柄に兵児帯を絞めて、大人の着物を着た子供のようにうまく歩けない。
カニが出迎えた。
「鉈坊っちゃん、迎えに行くところでしたよ」
「大丈夫だ。着物が濡れたので借りた。後で返しに行くから」
「今夜のうちにですか」
「何かあるのか」
「さっき、首吊り騒ぎがあって」
驚いて足が止まる。鉈はカニを見上げて、眉をひそめた。
「誰が」
「チルーが相手をした蒲団屋の旦那が、さっき。いえ、別状はありませんでしたよ。ただ、死ぬ前に此処で遊びたかったらしくて、今は寝ています」
雨戸の開いた廊下から、露に光る葉擦れの清らかな風が入る。洗われた空気を吸い込んで、唇を噛み締めてからほっと息をつく。
「案内して。私が話す」
思わず女言葉になっていたのをカニは慌てたが、鉈は気にも止めずに「早く」と促す。
河南は、鉈を十六夜の前まで送ってから帰路に着いた。馬も無事だったし、台風にならなかっただけでも良かった。
豆屋は湿気を嫌う。雨の上がった家屋に鉈の湿った着物がある。土間の竿に干した袖を摘まんでみたが、まだまだ乾きそうもない。ふふっと笑って裏座に消えた。
メガンサは、造り酒屋の経営者の心得を語る父親から、ライラを引き離そうと試みたが、ライラはメガンサの手を自分の膝においた。
「お前たちの代になってもお前たちの子供の代になっても、客が人間だということには変わりはないが、それでも初物は神に捧げる」
「わかっています」
爽やかに笑う。
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