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48 豆屋と小春
しおりを挟む「小豆を一合ください」
鉈は恐る恐る言ってみた。
「はいよ、一合ね。お嬢さん可愛いから少しおまけしておくよ」
河南の反応は鉈を喜ばせた。
「有り難う」
私、初めて。
女の子の姿。
可愛いって……ふふ……
顔が綻ぶ。豆屋の壁に凭れて横から見ていたカニの目にも、有頂天の様が見て取れる。
可愛いくてもやっぱり男だ。この豆屋、目が悪いのかぁ……
「しかし、こんな時間に出歩いてはいけないな。悪いやつに襲われる」
いずれ自分が襲う張本人になるとは知らず、脳天気な河南は心底心配した。
「大丈夫。豆屋さん、有り難う」
「こっちの方こそ。お嬢さん、気をつけて」
河南はすっかり騙された。土台、男を見ても何なら自分の女にしようかと思う奴だ。鉈も、子供の頃から女の子と間違われていた類いだ。
鉈はそれから度々豆屋に行った。
真昼の繁華街は死人の町だ。生き物は猫くらいしか見えない。太陽の光に曝されて恥部でも隠すかのように黙り混む。
人目を避けて傘を差していたのも、慣れたらお化粧した顔を晒して出歩くようになった。
「河南さんはお付き合いしている女の人はいないの」
「うん。どうしてわかるのかな」
「わかったんじゃないの。聞いてみただけ。ふふ」
河南は一合を量った後にひとつまみのおまけを入れる。鉈は巾着袋にお椀を持って来て、それに量ってもらう。そのひとつまみの指先をそっと止めて、首を振った。
「いいの、おまけは。私は河南さんとお話できればいいの」
「おまけくらいじゃあ店は潰れないから」
河南が笑う。鉈は満面の笑みを見せて「有り難う」と小躍りした。
来る度に少しの会話で喜ぶ鉈を、始終顔を合わせるうちに兄妹みたいな気持ちになった。
やがて「小春」「河南アザ」と呼ぶようになる。鉈は、河南から習ったフカギを作って持ってきた。
「昨日買った小豆で作ったの。後で食べてね」
私、お嫁さんになりたい。
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