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動機とDVD
しおりを挟む「あなたは右藻田さんとお付き合いしていたのですね」
連れの刑事が口を開いた。五十に手の届く年輪の刻まれたショボい目付きが、意外に鋭い。
「お付き合い……」
「署まで来てもらえますか。詳しく聞かせてもらいたいので」
「嫌です忙しいんです。右藻田が死のうが殺されようが万々歳と叫んでお仕事に励まなくては生活できないのですから。天の誰かさんに感謝ですよ」
「では、此処でお聞きしますが、別れた理由は何なのですか」
「奥さんにバレたからでしょう」
本当は、私を集団ストーカーとして調教できなかったからだ。
「不倫が、ですか」
「まあ、そういうことです」
「その時はどんな気持ちでしたか」
「元々、あんなゲスには首に縄を付けておけと言いたかったので、内心喜びましたよ」
「ほう。望んでお付き合いされていたのではないと」
「当たりです」
「それはまた、どうして」
「言わなくても良いこともあるわよね。あなたたちが知る必要のないことですから」
こんな調子で苛々させるのが手口だとは聞いている。
「ここで黙秘ですか」
「何かまずいかしら」
「動機があるかもしれませんね。あなたと右藻田さんの関係に。過去に他人に知られたくない何かしら」
「それで、付き合うことにしたの。わかってくれたかしら」
「その付き合うことにした理由が殺人動機だと考えられますよね」
「困ります。不愉快です。何ですか、さっきから」
刑事のスマホにも遺留品の画像が入っていた。それを見せながら若い刑事が探るように見つめてくる。
「これは、被害者右藻田さんの部屋にあったものなのですが、この壊れたアクセサリー類に見覚えはありませんか。奥さんのものではないと仰るのですよ」
多少ムカついても当然だと思うような口調だ。言外に『あんたのモノだろう』と言わんばかりの表情で、こちらの感情変化を読み取ろうとする。
「私のでもないです。他の女性のものでは。昔から千人斬りに挑戦していたらしいので。仲間の女にも手を出したとか、みんなで輪姦したとか、輪姦したい女としか付き合わないとか、はっきり言って輪姦し目的ですよね、付き合っていれば疑われないとか、豚はいろいろほざいていましたから……豚と別れた理由はそれです」
品物は本当に見覚えがない。
右藻田の顔かちらつく。鉄の棒で腹を突き刺されて死んだと聞いているが、暫くは意識があったかもしれない。即死でなかったと思えば、右藻田の被害にあった者としての溜飲も少しは下がる。
刑事は、他に当たるところがあることに気づいたのか、同行を強要する態度を改めた。
「警察があなたを犯人に仕立てようとしているのではないことは信じてください。話したくないこともお聞きしなければならないのが我々の仕事です。あなたの無実を証明するためにもですよ」
「そうね。痛くない腹を探られるのは気分悪いものだから、さっさと証明してくださいね。豚のせいで目覚めが悪くなるわ。そうそう、古いDVDで、白黴が生えているけど、右藻田と付き合っていた女が三人、映っているはずよ」
当時はまだ二十代初めか、まだ十代のようにも見えたが、真正面から何かを語っているが音声は聞こえない。
右藻田には根深い恨みがあったので、保険のために当時出回り始めたDVDにダビングしておいたのだ。
黴が問題かも
でも、あの三人も
右藻田と肉体関係が
あったのよね
私たちに動機があるとしたら
右藻田のグループが……
「このDVDから女性関係を遡って、私の無実を証明してください」
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