28 / 31
刑事がやってきた
しおりを挟む「あなたがこの男と知り合ったのはいつ頃のことでしたか」
喜伊津という若い刑事に、いきなり右藻田の写真を見せられた。思わず「え……」と呟いて私はこんな男知りませんがと言うところだった。
「これ、もしかしたら右藻田……」
「そうですが」
「老けすぎてて……うぅん、イメージ残ってるけどねぇ、直ぐにはわからないものねぇ」
女は四十代始めの年齢にしては若作りの、水商売の匂いがプンプンする年増だ。喜伊津に上から下まで観察された。
「最近、会ったことはないと」
「はい。事故のニュースは知ってますよ。何か怖いことになって」
「あのトラック運転手の方とは」
「いえいえ、全く存じませんが」
「知り合いでは」
「全然、全然。お客だったかもしれないけど……わかりません」
「右藻田に関してあなたとの間に特に変わったことは」
「存じているのではないのですか。私は警察に何度も電話しましたよ。集団ストーカーについて」
「ずっと以前のことですね」
「まだストーカーという言葉もなかった時代にね」
飲み屋で働き始めたばかりの頃だ。警察は動いてくれなかった。
「実は、あなたと同じことを言う人がいましてね」
「そうでしょう。私をターゲットにする前に、何人かいたらしいですから、ターゲットは。『懲らしめの対象』と言うのかな。男も女も複数人で一人を……」
自分の女房さえ『懲らしめ犯罪の対象』にしようとしていた男だ。
右藻田は『自分が旅行に行っている間に、女房が友達と寝た。寂しかったと言って』と、どこか訴えるように呟いた。
生まれたばかりのまだ足の萎えている赤ん坊を車の中で立たせようとしながら、暗い波の見える場所で、女はそんな話を聞いた。
神の教えに対して寝惚けているような女だった。よく調べもせずに聖書を胡散臭いと嗤い、知能の低さを露呈してさかしらぶっていた。
あんたの友達って
男友達だよね
浮気したってことか
似合いの夫婦だね
思い込みかな
聞いたことを
鵜呑みにしてる
男だとは限らないのに
海は暗くて何を言えば気がすむのかわからないと黙っていたら「酷いと思わないのか」と右藻田は女から言葉を引きずり出そうとする。
油断のならない男だ
私が何を思おうが
あんたには関係ない
第一、私に
あんたの女房に対する
悪意はない
何かの後押しがほしいのか
黙っていよう
女は漠然と正しい方向が見えていたのかもしれないが、まだ寝惚けているのと同じ、暗い波の間際にいた。
友達と寝た
寂しかったから
女友達かも
しれないよね
その時、右藻田は何かを期待していたようだったが女は黙っていた。
何も言わなくて良かった
言質を取られるところだった
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる