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★事件の輪郭
しおりを挟む長い捜査の努力の甲斐あって、いよいよ証言する人物が現れた。
しかし、その証言者は殺されて『傲慢グリフィン』の語句の紙切れが残り、それが関係する人物は、捜査員たちには炙り出せなかった。ホシだと目された被害者は徳が高い言われる僧侶だったからだ。
五人目も出るかもしれないという暗い予感が捜査陣を押し包む。
僧侶の評判には何一つ問題視されるような点はない。ただ、これを瑕疵だと視れば全ての事件を見直さなければならないある小さな違和感はあった。
僧侶には子種がなく、一度嫁を迎えたが離婚している。そして、僧侶ではない若い男と暮らしていた。
「私は下男です。旦那様の身の回りのことは私が」
やらされていたと言う。僧侶は、身寄りのない子供たちの施設を支援しており、そのなかから少し知能の遅れたこの男に仕事を与えたものと見られた。
違和感というのは、その下男がひ弱な体つきをしており、捜査員の一人を潤んだ目で見つめたことから、その捜査員に薄く刷りまれたものだ。その下男は、僧侶の人生の汚点かもしれないと思えたのだ。
「今の世の中でLGBTQを問題視する者はいない。特に僧侶の世界ではありそうな話しではないか。そこら辺の週刊誌でもあるまいし、死人の……いや、俺たちは死人の人生をほじくり返すのが仕事だ。調べてみろ」
つまりは『違和感』というアンテナに引っ張られて、捜査員たちは知的障害者とセックスの問題を探り始めた。僧侶に殺意を抱く人間がいるはずだった。
自販機串刺し事故の右藻田からは、レズ女性の強姦事件が幾つか浮上した。
『強欲マモン』ビール瓶で頭を割られた浮浪者男性は、集団ストーカーのターゲット宅にこっそり侵入することができた。
第三者に、ターゲットが受け入れていると思い込ませて集団ストーカーであることを伏せ、仲間作りに励んでいた。ただでセックスができると思ったグズは引っ掛かる。
特に、ターゲットへの誹謗中傷を信じ込んだ者たちは『懲らしめのためだ』と言われれば喜んで夜這いでも盗みでも働く。そんな欲まみれのグズばかりを集めていた。
警察内部では『性欲』に該当するのではないかという意見があったものの、調べていくうちに『強欲』で見解が一致した。
浮浪者は、毎月そのグズどもに顔を見せて薄い口止め料を貰っていた。大金を請求すれば『本当にバレたのか』と調べられる恐れがあるからだ。
『犯罪の共犯者』という意識を持たせておけば、何も言わずとも暗黙の了解的に進んで金品を出す。共犯意識を持つ参加者は多いから、薄利多売的に生活は潤う。
月いちでも、それを頻繁な顔出しだと感じる相手には嫌がられる。『ターゲットにバレて慰謝料請求されたから、少し負担してくれないか』等とうそぶいて少額の金品を巻き上げていたらしい。
その事がわかったのは、浮浪者の仲間に食い詰めた若い男がいたからだ。栄養失調らしく、ふらつく足取りで自ら警察に出向いき、刑務所暮らしを選んだ男に「カツ丼でも奢ってやる」と、取り調べ室で聞き取りに当たった年季の入った刑事が財布を出した。こんな時代もののドラマのようなセリフは警察人生で初めてだった。孫を見るような目で証言者を眺めた。
★★★
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