小説ネタ集(１話完結モノ)

愚鈍とクマの出会い

愚か者に会うよりも、子を失った母熊に出会えと、聖書は言う。


ところで、多分あれは熊だ。


子を失った母熊かどうかはわからないが、こっちに来る。


僕はリックから、うまか棒を出して投げた。


熊は前世があるのか。
いや、ないはずだ。


では、あれは異世界転移した犬か。
うまか棒を加えて走ってくる。


僕はりんごを投げてみた。


すると、異世界転移する前は草野球でもしていたのか、フォームも軽々と投げ返してきた。


暫くキャッチボールしてみたが、そろそろ帰りたくなって手を振ってみた。


すると熊も手を振る。


言葉は理解できなくても、意思は通じるものだ。


意気揚々と引き上げると、熊はこっそりついてくる。


僕は恐怖に駆られて、セオリー通りにリックを投げ捨てた。


財布も免許証も入っている。


すると熊は大笑いして、リックを肩に担いで引き返す。


元人間か、人間に慣れた熊らしい。


愚か者に会うよりも熊に出会え、という教えには納得できないが命は助かった。


山を降りて交番に届けたが、キャッシング詐欺被害にあっていることに気づいた。


いろいろ借りていたので上限が近かったから、被害額は大きくはなかったが、疑問は大きい。


あの熊に投げ寄越したリックに身元を保証する物が入っていたのを、僕が山を降りる前に誰かが悪用したらしい。


そんな時間があったか？


いや、僕は急いでいたが、熊が撃ち殺されたとしても銃弾の音は聞こえるはずだ。


では、熊は直ぐにリュックを捨てたのか。食べ物が入っていたのに。いや、違う。


何故、僕を追いかけてこなかったのだ。


まさか……まさかとは思うが……
リックが目的か……

うわあ……
恐ろしい……


邪悪な熊とただの愚か者が出会ったのか……


僕は鏡を見た。熊とキャッチボールする愚か者に出会った気がする。