1 / 14
永遠のキス
しおりを挟む夫餃子が若い新入り餃子を付きっきりで面倒見ているうちに、その新入りを「可愛い」と思い始めた。
その気持ちは妻餃子にも伝わる。
「仕事だから仕方ないんだよ」と、笑顔で答える夫は、出社するときもウキウキと態度に出るようになった。
怪しいと思い始めたときに、事件は起きた。
夫が、仕事帰りの道端で、顔を削ぎ落とされた状態で見つかった。その顔は犯人によって持ち去られたと見るのが妥当だろう。
妻は戦いて嘆いた。
死体は解剖されて他に外傷なし、顔面は頭頂から喉と首の境目辺りまでをすっぱりと切り落とされていることから、顔だけが目的だったらしい。凶器は判明せず。
棺桶には顔なしの遺体が納められて、その前で妻は泣き崩れていた。
「誰がこんなことを……酷すぎるっ」
犯人にも同じ結果が訪れれば良いと思った。
その時だ。
コトリ……と音がして妻以外には人影のない部屋に、白いだけの影がにょ~っと入ってきた。餃子にしては長すぎる白いローブに、にょるにょると背の高くて男女の判別がつかないにゅにゅり顔。
「こんばんわ」
ひんやりする声だ。
「あ……ど、どうも」
悲しみにくれていながらも、つい普段通りに、いらっしゃいませと出るところだった、と胸を撫でた。
「あなたは、旦那さんの浮気をご存知でしたか」
白いローブは彼女の前で立ち止まり、にょ~っと上から見下ろす。
「えっ」
身を屈めて顔を覗き込もうとする。
「ご存知でしたね。旦那さんはその罰を受けたのです」
思わず顔を反らす。白いローブの裾が赤い。その赤い染みが血液だと気づくのに時間はかからない。
その染みが目の前に広がって、赤黒く闇の色に似てくる。何を言われたのかしばらくはわからなかった。
「ば、罰ですって。それは殺したってことですかっ、あなたがっ」
やっと聞き返してにっこりと微笑みで返された。
「何故っ、何故なんですかっ」
「ですから、浮気ですよ。あなたの旦那さん、浮気者ですねぇ。会社で若い女性とキスしたんですよぉ。汚らわしいぃ」
「そんなっ……そんなことで殺されなければならないのっ」
「あははは。それ聞くの。あなたにとってとれは『そんなこと』で済まされるものなのですかぁ」
「あなたは私の夫とどんな関係ですか。なんの権利があって」
「あのぉ、関係や権利とかって何でしょう。何の意味があるのですか。あなたは何に納得したいのですか。私に何らかの関係や権利があれば、旦那さんが殺されてもあなたは納得できるのですかぁ。何らかの関係や権利があれば、誰がやっても良いのですかぁ。それとも、旦那さんの死や浮気よりも私に関心があるのですかぁ。あなた方、ギョーザの考えは陳腐ですね」
「ど、動機を教えてよっ」
「私の質問の意味がわからなければわからないで、答えなくても良いんですよ。私には他にも用事があるので失礼します」
にょ~っと部屋を出ていく白いローブのその手に何か赤黒いモノがぶら下がっている。
廊下を曲がる際に見えたのは、夫餃子の横顔だった。顔を持っていたのだ。
白いローブは、若い女性餃子の部屋に移動した。
「あなたは誰っ」
「これ、プレゼント。受け取ってくれるね」
切り落とした男餃子の顔をにょにょ~んと突き出す。
「あなた、この男、好きなんだよね。他人の旦那だと知りながらも」
にゅにょり顔を近づけた。
「キャーッ。なっ、何故こんな……ぎゃあっ。あーっ。ぎゃーっ。やめてーっ。ぎゃーっ」
恐怖の叫びが断続的に響く。
「ほら、キスしたらぁ」
煩く喚く桃色の口に男の顔をくっつけた。
「あなた、これ、好きなんだよね。キス……だからさ、持ってきてあげたんだよ。ねえ、余計なお世話だったかい」
女餃子は悶絶して答えない。
「ずっとキスしていたいのかな、ギョーザぁ。それなら君の顔も切り落としてあげようかぁ。そしてギョーザ同士ぃ包んであげようかぁ……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる