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26)アディウィズの自負

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エクストラ聖書は、誰でも無料で始められる小説サイトのアルファポリスに、未遂作品として放置されている。その一万文字に満たないストーリーは、放置されて暫く経つのにも関わらず、未だに驚く桁のポイントが日々付与されて続けている。

アディウィズも更新を待つ一人だ。スマホを起動させては、再読する度に溜め息を漏らしていた。自粛騒ぎで講義も数えるほどになった大学の、伽藍とした講堂で、胸の奥にくすぶっていたこの世に対する不満。その行先が示されている。



「平和で美しい世界を創る。それこそ余の望み、それこそ余の道。エクストラ聖書の予言は成就されなければならぬ。それなのに何故、余の邪魔立てをするのだ、璃人。必ずや此の手で聖エクストラの御意志を実践し、平和で美しい世界を創る。人間は守られねばならぬ。それこそ万人の望みではないか。エクストラ聖書の予言は成就されなければ……璃人……」
 

想いはアディウィズの脳内で強力にループする。自分の尻尾を追って木の周りをぐるぐる回った虎は溶けてバターになってしまう、そんな童話に似ている。一種の自己催眠だが、アディウィズもエクストラ聖書の言葉に心を溶かされて脳内で昇天する。

気づくと、背中に白い翼が生えて中天に浮かんでいる。羽ばたいているのではないが微動だにせず浮かぶ力強さに、アディウィズは高揚した。右手に握る霊剣が雷光を迸らせる。


余の道は神の御心と共にありて
世を正すことに邁進するのみ
エクストラ聖書を胸に刻んで


ふと眼下に璃人の姿が見える。


あやつは……
あぁ、惚れ惚れする

あの霊視画面の幻像の璃人を
余は斬った筈なのに……

相手に不足はないが
死なせるに惜しい

奴とて神の御心のままに在るべきだ
魔界の繋ぎ人・宇憤魔我などとは
手を切らせねば……

そして強き帝国復興主義による
洗脳を果たした璃人を
皇帝となる余の小姓こしょうとする

待っておれ、璃人……


ふと目覚めて、大学の講堂でも天空でもない、古い洋館の一室にいることに気づく。


夢か……
小姓……


今しがた心に決めたことを思い返して紅潮する。背中の翼も中天の爽やかさも消えたが、璃人を小姓にする決意は強く残っている。


足元でコロコロと紐団子ひもだんごになって転がっている緋芙美を救い出した。呪詛文言の紐の呪縛から解き放たれた緋芙美は、打ち掛けにへばりついた単語を忌々し気に払い落とす。打ち掛けは鋭い文言の呪詛力でずだぼろに切れていた。


「ほおっほ。暇潰しはこれまでじゃ。令和になったと言うに、日本国民はまだ年号の意味に気づいていないようじゃの。平成でも、年号の暗示にかかった国民は、昭和とは明らかに違う犯罪の若年化高齢化多様性にさえ、平静に平成を保とうとしたのじゃからの」

「いきなり何の語りだ」

「ほおっほっほ、我は大人しく縛られていたのではないのじゃ。アディウィズよ、日本国民よ、見ているが良いぞ、この令和を。令和の令は命令の令じゃ。国民の意識を軍を用いずして戒厳する。しかも、国民はこれに和を持って従うのじゃ。明日はハルマゲドンじゃからの。令和の心を持ってこの緋芙美に従うのじゃぞ」

「何をほざくか、緋芙美。総帥は余である。余は皇帝アディウィズだ」


閉ざされた室内、クーラーを使う季節ではない。それなのに出所の不明な風が吹いて、仁王立ちになったアディウィズの青い髪が靡く。



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