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22)サファイヤの煌めき
しおりを挟むオッドアイの長い睫毛の眼を細めるアディウィズは、クルダッタゲの魔力で重力を感じない。腕から先がサーベルになったように軽々と振り回し、四方八方から襲いかかる呪詛文言の紐を縦横無尽に切り捌いて汗のひとつもかかずに薄く嗤う。
「祈りの宇憤魔我とやら、そなたの霊力はこの程度か」
璃人の目に異様な光が燃え上がる。璃人は立て膝になってウプンマガの合掌に手を重ねた。
重なった手から、一条の青い光線が高い天井目掛けて鋭く迸り、ぱああぁと広がって海底を思わせる青が降りた。その光は緋芙美の赤い光と重なって、祈祷所を赤紫に染めていく。
アディウィズのサーベルの霊風と緋芙美の髪の毛が消えた。青い光は次第に強くなって部屋が青紫へと変わる。
修行者たちの着物から上がっていた煙が消えた。肌を刺す痛みも和らいで、唱える文言に力がこもる。
あれ……何で紫……
何で青い光になるの
変だな
二人が繋がったら
黒い光になるんじゃなかったの
緋芙美が恐れていたじゃん
待って待って
夕べは
緋芙美とウプンマガと璃人さんと
琥珀さんが加わったとして
あれ……
光は混ざれば混ざるほど
相殺し合って白くなる……
そうだよね
絵の具の三原色が黒になるんだよね
だったら
あの黒い光は
緋芙美一人の力なの……
腹黒百年妖怪め
黒い光は隠し玉か
璃人さんの能力に見せかけるなんて
腹黒暗黒真っ暗闇ってかい
気をつけて
ウプンマガ、璃人さんっ
妖怪は全力を出しきってはいないよ
その声は璃人に届いた。璃人が立ち上がるのと同時にウプンマガが崩れる。
璃人
ふゆちゃん
後は頼むよ
緋芙美が顔を背けるほどの青い光にアディウィズも思わず眼を瞑る。霊視スクリーンのウプンマガがふいに消えて、緋芙美の赤い光を青く輝く膨らみが呑み込む。
夏の空に似た眩しいスクリーンに青白い影が立ち上がった。
アディウィズが細目を開ける。
「何者だ。名を名乗れ」
サーベルを突き出すアディウィズに、青白い影ながらもくっきりと現れた見目麗しい若者の唇が答える。
「ウプンマガの修行者・璃人。お前たちの悪行を止めに来た」
アディウィズは眼を瞠った。
「悪行だと」
「ほおっほ、そなたはあのこわっぱではないか。アディウィズ殿、こやつは若輩の癖に侮れない力を持つものぞ。緋芙美様がその霊剣でぶった斬ってみせよう。試し切りじゃ」
緋芙美がアディウィズのサーベルを掴むよりも早く璃人の右手が緋芙美に伸びる。
「ぶはっ……」
緋芙美が仰け反って倒れた。
璃人の付き出した手から緋芙美の顔面に直撃した光速の青い波動は、サファイヤのような煌めきを発して砕け散る。
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