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10)縁の炭化した穴から見える夜空
しおりを挟む嫌あああ
頑張って璃人さああん
よ、妖怪っ、なにすんのよっ
私の璃人さんにっ
「え、いつからあなたの璃人……」
琥珀の目が点になる。冬菜の激怒がウプンマガの腕を強く伸ばす。璃人の着物の袖を掴まえた。
「あっ、あぁぁぁ……」
璃人に衝撃が走る。冬菜にも何かが沸き上がる。璃人の光は漲ってパワー倍増した。赤い熱が押し返されている。
「うおぉぉぉ」
雄叫びを上げた璃人の目が金色に光りはじめ、薄紫に青みの加わった光の触手が、緋芙美の首を狙う。ウプンマガの目も金色に光っている。
「ぬおぉ、やりおるな、小僧っ。可愛いぞ」
緋芙美は真っ赤な光で璃人を呑み込んでぐっと近づく。冬菜の位置からも璃人に緋芙美の身体がくっつくのが見えた。
嫌ああああああああああああ
緋ぃ芙ぅ美ぃぃぃぃぃぃ
いきなり真っ暗になった。赤い光もその熱も琥珀のカプセルも消失して、ぐわらんぐわらんとまるで伽藍に響く割れ鐘の音源かとも思うほどの激音に、緋芙美は撥ね飛ばされた。
微かな赤い光が大音響と共に廊下に迸り、屋敷全体が時空の歪みを通過するように揺れる。
ぎゃああ、なにっ
地震っ……じゃないっ
騒ぎに駆けつけた男女が闇のなかで赤い光にたじろぐ。緋芙美は廊下の窓を破壊して飛び去った。辺りの赤い残像が鼓動して消える。
璃人の身体からも光は消えていた。璃人は憔悴して、片手を床につけ片膝を立てて蹲っている。その白かった着物は血の染みた色に似た焦げ跡がついている。
古びた木製の雨戸と格子を含む壁一面に、大きく焼き抜かれた穴がぽっかり開いて、黒く炭化したその穴から、庭の黒い樹木の向こうに夜空が見えた。
白装束の男たちに混じって年齢の異なる女性たちが口々に尋ねる。
「あ、あの者は一体何者なのですか」
「あのような力は、見たことがありません」
「あの者が123番……なのですか」
璃人も立ち上がりながら尋ねる。
「ウプンマガ、お身体は……」
「ふひゃひゃ、大丈夫だよ、璃人。私を座らせておくれ」
ウプンマガは冬菜の声を使った。
「はい」
璃人がウプンマガに屈み、背を支える。ウプンマガを気遣う優しい表情を、冬菜は近くに感じた。
きゃああ、萌えるわ
このシチュエーションっ
璃人さん、カッコいいっ……
好きかも……かもじゃないかも……
薄紫の光を纏う姿は天使みたいだった
カッコいい……
キスしたくなる距離っ
きゃあああ
まだ未経験なのにっ
「璃人、皆の者も……緋芙美は私より前に聞こえ大君の体系の後継者として選別されていた123番目の巫女だった。神憑りの私が宮古島から此処に移される前まではな。ふひゃひゃ」
聞こえ大君の体系って何……
「この隠れ里で聞こえ大君の後継者を選別するための修行を続けているが、まだ後継者は顕れていない」
聞こえ大君って何者……
後継者……
霊能者ってことぉ……
予言の力の……
「ウプンマガは聞こえ大君から124番目の修行者なのよ」
琥珀が説明する。
ウプンマガが修行者なら
璃人さんも……なのかな
巫女さんたちとか
男の人たちも修行者ってことか
「緋芙美も修行者だったけど東京に逃亡して、帝国復興トライアングルに属して2000年ミレニアムに東京大地震を計画したの。ウプンマガは120番目の先輩ユタと共に緋芙美と戦って、ミレニアム作戦を阻止できたのよ」
阻止……
「だから、この世がこの形で続いているの。それにしても今回、疑似ハルマゲドンの事前に緋芙美が襲撃に来たからには、ウプンマガの御祓の準備を急がなければならないわね。冬菜さん、力を貸してね」
冬菜は力一杯頷く。ウプンマガの頭がこくりと動いた。
帝国復興トライアングルって
あの頭のおかしな軍師グループ
ミレニアム東京大地震って……
待って、それよりもぉぉ
御祓ってなあに……
裸になるのぉ……
か、神様ぁぁ
冬菜は、緋芙美の逃げた黒く炭化した穴から見える夜空に向かって叫びたい気分になった。
裸になるのが自分じゃなくても嫌ぁぁ
は、恥ずかしいっ
シワシワって恥ずかしいっ
隣で琥珀が溜め息を吐く。
冬菜さん……
ウプンマガ本人の脳内でディスるの……
琥珀も、ウプンマガの霊力で僅かながら脳内通信が出来る。聞くだけだが、そのことは冬菜も気づいている筈なのだ。
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