上 下
10 / 40

10)縁の炭化した穴から見える夜空

しおりを挟む

    嫌あああ
    頑張って璃人さああん
    よ、妖怪っ、なにすんのよっ
    私の璃人さんにっ

「え、いつからあなたの璃人……」

  琥珀の目が点になる。冬菜の激怒がウプンマガの腕を強く伸ばす。璃人の着物の袖を掴まえた。

「あっ、あぁぁぁ……」

  璃人に衝撃が走る。冬菜にも何かが沸き上がる。璃人の光はみなぎってパワー倍増した。赤い熱が押し返されている。

「うおぉぉぉ」

  雄叫びを上げた璃人の目が金色に光りはじめ、薄紫に青みの加わった光の触手が、緋芙美の首を狙う。ウプンマガの目も金色に光っている。

「ぬおぉ、やりおるな、小僧っ。可愛いぞ」

  緋芙美は真っ赤な光で璃人を呑み込んでぐっと近づく。冬菜の位置からも璃人に緋芙美の身体がくっつくのが見えた。

    嫌ああああああああああああ
    緋ぃ芙ぅ美ぃぃぃぃぃぃ

  いきなり真っ暗になった。赤い光もその熱も琥珀のカプセルも消失して、ぐわらんぐわらんとまるで伽藍に響く割れ鐘の音源かとも思うほどの激音に、緋芙美は撥ね飛ばされた。
  微かな赤い光が大音響と共に廊下に迸り、屋敷全体が時空の歪みを通過するように揺れる。

    ぎゃああ、なにっ
    地震っ……じゃないっ

  騒ぎに駆けつけた男女が闇のなかで赤い光にたじろぐ。緋芙美は廊下の窓を破壊して飛び去った。辺りの赤い残像が鼓動して消える。
  璃人の身体からも光は消えていた。璃人は憔悴して、片手を床につけ片膝を立てて蹲っている。その白かった着物は血の染みた色に似た焦げ跡がついている。
  古びた木製の雨戸と格子を含む壁一面に、大きく焼き抜かれた穴がぽっかり開いて、黒く炭化したその穴から、庭の黒い樹木の向こうに夜空が見えた。
  白装束の男たちに混じって年齢の異なる女性たちが口々に尋ねる。

「あ、あの者は一体何者なのですか」
「あのような力は、見たことがありません」
「あの者が123番……なのですか」
 璃人も立ち上がりながら尋ねる。
「ウプンマガ、お身体は……」
「ふひゃひゃ、大丈夫だよ、璃人。私を座らせておくれ」

 ウプンマガは冬菜の声を使った。

「はい」

  璃人がウプンマガに屈み、背を支える。ウプンマガを気遣う優しい表情を、冬菜は近くに感じた。

    きゃああ、萌えるわ
    このシチュエーションっ
    璃人さん、カッコいいっ……
    好きかも……かもじゃないかも……
    薄紫の光を纏う姿は天使みたいだった
    カッコいい……
    キスしたくなる距離っ
    きゃあああ
    まだ未経験なのにっ

「璃人、皆の者も……緋芙美は私より前に聞こえ大君の体系の後継者として選別されていた123番目の巫女ユタだった。神憑かみがかりの私が宮古島から此処に移される前まではな。ふひゃひゃ」

    聞こえ大君の体系って何……

「この隠れ里で聞こえ大君の後継者を選別するための修行を続けているが、まだ後継者は顕れていない」

    聞こえ大君って何者……
    後継者……
    霊能者ってことぉ……
    予言の力の……

「ウプンマガは聞こえ大君から124番目の修行者なのよ」 

  琥珀が説明する。

    ウプンマガが修行者なら
    璃人さんも……なのかな
    巫女さんたちとか
    男の人たちも修行者ってことか

「緋芙美も修行者だったけど東京に逃亡して、帝国復興トライアングルに属して2000年ミレニアムに東京大地震を計画したの。ウプンマガは120番目の先輩ユタと共に緋芙美と戦って、ミレニアム作戦を阻止できたのよ」

    阻止……

「だから、この世がこの形で続いているの。それにしても今回、疑似ハルマゲドンの事前に緋芙美が襲撃に来たからには、ウプンマガの御祓みそぎの準備を急がなければならないわね。冬菜さん、力を貸してね」
  冬菜は力一杯頷く。ウプンマガの頭がこくりと動いた。

    帝国復興トライアングルって
    あの頭のおかしな軍師グループ
    ミレニアム東京大地震って……
    待って、それよりもぉぉ
    御祓ってなあに……
    裸になるのぉ……
    か、神様ぁぁ

  冬菜は、緋芙美の逃げた黒く炭化した穴から見える夜空に向かって叫びたい気分になった。

    裸になるのが自分じゃなくても嫌ぁぁ
    は、恥ずかしいっ
    シワシワって恥ずかしいっ
  隣で琥珀が溜め息を吐く。
    冬菜さん……
    ウプンマガ本人の脳内でディスるの……

  琥珀も、ウプンマガの霊力で僅かながら脳内通信が出来る。聞くだけだが、そのことは冬菜も気づいている筈なのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...