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17 ダンジョンへ
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一週間がたち、ダンジョン探索の決行が翌日に決まる。
今日は駅前の広場のステージで行われるダンス大会とやらを観に来ていた。萌音のチームも参加するということで、観客席にてノパと綿乃と俺の三人で萌音の出番を待つ。まだ綿乃とぎくしゃくしたままで、目を合わせづらい。
そしていよいよ萌音のチームの出番がやってきた。ダンスというと体をつかって音楽のリズムに合わせて踊るというイメージしかなかったが、実際に見てみるとまたちがう。ダンサーはマジメな顔になったり、泣きそうな顔になったり、笑顔を振りまいたり、いろいろな表情、表現がある。
チームとともに全力をつくしてなにかを作り出そうとする彼女たちの姿は、一種のスポーツのようであり、そして一種のパフォーマンスでもあった。さわやかな夏の空のような気持ちのいい曲にあわせて、こちらも酔いしれる。
他の演者たちのパフォーマンスも素晴らしかったが、萌音たちも負けていなかった。俺は勝手がわからずずっと拍手していたが、綿乃とノパはダンジョンのことを忘れたかのように、楽しそうに光る棒を振り回して観客席で飛び跳ねていた。
音楽の終わりに、萌音はポーズをとり観客席のほうに手を伸ばす。汗だくだがとても輝いている笑顔だった。
盛大な拍手が送られる。ここのところずっと気をはりつめていたから、なんだかリラックスできてよかった。
ダンスの大会であるので、優秀賞などが発表されるらしい。
萌音のチームは準優勝だった。優勝には届かなかったが、立派な結果だ。
その後萌音と合流し、思ったことをそのまま伝え、ほめたたえた。
だが彼女は別のことを考えているようだった。ペットボトルの水を飲んだあと、
「楽しかった……けど、やらなきゃいけないことを考えちゃって、ちょっと集中しきれなかったや」
そう言って、失敗したと言う風に眉を下げて笑う。
俺は申し訳なくなり、言葉を失う。綿乃も同じようだった。俺たちがしっかりしていればそうはならなかったはずだ。「だからさ」と萌音は続ける。
「ダンジョンは絶対攻略! だよ! 部のみんなのためにも、さ」
悔しい結果だったはずなのに、萌音は満面の笑顔で言った。そしておそらくその言葉に偽(いつわ)りはないのだろう。
あの時、引き返してよかった。彼女が無事でいてくれてよかった。
素直にそんな感情を自分が抱いているのに気づいた。
なんだろうこの気持ちは。ただ安心した、というだけじゃない。なにかが俺のなかで変わってきている。
萌音や綿乃たちと過ごし、彼女たちの心にふれて、なにかが……
どこからか甲高い笑い声がして、広場のすこし離れたところにある公園のほうを見る。
休日なので、小学生くらいの小さな子供たちが遊具であったり鬼ごっこをしたりして遊んでいた。
その姿がヨサラと重なって見える。
彼女はまだ幼いのに、遊びたい年頃のはずであるのに、ダンジョン攻略のために必死にがんばっている。高校生の俺たちと変わらないトレーニングに耐えていた。
萌音たちもそうだ。彼女たちはふつうの女子高生で、命をかけるような危ないことをしたくはないはず。今みたいに談笑したり、自分の好きなことに取り組んだりしていたいはずだ。
あるいはそれは、アルスの力という最後の希望があるゆえできることなのかもしれない。アルスという最後の保険が切り札であるからこそ挑める、少なくとも俺のなかにはそういう考えはやはりある。
だがそういう風にアルスが彼女たちの切り札として担保になっていたとしても、人々の恐怖の対象であるブラムとまっすぐな瞳で戦おうと思える彼女たちには、すごい、と敬意に近い感情を抱かずにはいられない。
尊敬できる仲間である彼女たちのためにも、絶対に明日ナズウェンのダンジョンを攻略したいと、そう思う。
その日もチェロの家をおとずれ、地道な特訓をした。
トレーニングメニューをこなしたあと、また山のなかで石を探しつつチェロの奇襲から逃げる特訓を行う。だが最初のときとは違い、体力がついてきたからかそれとも気合が入っているせいか、石を手に入れつつかつすでにチェロから逃げるのも困難ではなくなっていた。
それでもやがてペアであるヨサラの歩くペースが遅くなり、いよいよ立ち止まってしまう。
見ると、汗だくで膝に手をついている。かなり体力を消耗しているはずだ。無理もない。まだ小学生ほどの幼い子供に俺たちと同じ訓練はきつすぎる。
「ヨサラ、平気か? 無理するなよ」
「いえ、平気です。むしろまだ全然やる気ですから」
彼女は汗を袖でぬぐうが、姿勢はまだかがんだままである。しかしその目にはまだ力強さがあふれている。
「私……学校ではいつも浮いてました」
唐突にヨサラが息を切らしながら言った。
「歴史の授業で……アルス様のことをふれるんです。私はアルスのことを悪く言う教師にも、他の生徒にも歯向かって……頭のおかしなやつだという扱いでした」
アルスに対して強い気持ちのある子だと思っていたが、それほどとはな。
「だから……見返したいです。アルスデュラントはすごいんだって……私ががんばれば、証明することに近づくから」
どう見ても疲れているはずなのに彼女にまだ気力がみなぎっているのはそのせいか。
「アルスのせいで苦労させて、すまない」
気をつかって言う。
ヨサラは黙ったまま息を落ち着け、こちらに視線をやった。
「……謝るより、実現すると約束してください。ダンジョンを攻略するって」
ヨサラは顔を汗でぬぐって、強い眼差しでそう言う。
「私はまだあなたがアルスだと認めたわけじゃありません。……頼りないし、いつも女の人とイチャついてるし……」
いや前のは合ってるが、女の人とイチャついてはないだろ?
「なので、絶対いつかは認めさせてくださいね」
にらんだまま、彼女は不敵に微笑む。「綿乃さんも、みんな……頼りにしてますから」そうつけたして、ふたたび顔をあげた。
ヨサラがこれだけがんばっているんだ。俺も負けてられないな。
「……ああ。がんばろう」
今日は駅前の広場のステージで行われるダンス大会とやらを観に来ていた。萌音のチームも参加するということで、観客席にてノパと綿乃と俺の三人で萌音の出番を待つ。まだ綿乃とぎくしゃくしたままで、目を合わせづらい。
そしていよいよ萌音のチームの出番がやってきた。ダンスというと体をつかって音楽のリズムに合わせて踊るというイメージしかなかったが、実際に見てみるとまたちがう。ダンサーはマジメな顔になったり、泣きそうな顔になったり、笑顔を振りまいたり、いろいろな表情、表現がある。
チームとともに全力をつくしてなにかを作り出そうとする彼女たちの姿は、一種のスポーツのようであり、そして一種のパフォーマンスでもあった。さわやかな夏の空のような気持ちのいい曲にあわせて、こちらも酔いしれる。
他の演者たちのパフォーマンスも素晴らしかったが、萌音たちも負けていなかった。俺は勝手がわからずずっと拍手していたが、綿乃とノパはダンジョンのことを忘れたかのように、楽しそうに光る棒を振り回して観客席で飛び跳ねていた。
音楽の終わりに、萌音はポーズをとり観客席のほうに手を伸ばす。汗だくだがとても輝いている笑顔だった。
盛大な拍手が送られる。ここのところずっと気をはりつめていたから、なんだかリラックスできてよかった。
ダンスの大会であるので、優秀賞などが発表されるらしい。
萌音のチームは準優勝だった。優勝には届かなかったが、立派な結果だ。
その後萌音と合流し、思ったことをそのまま伝え、ほめたたえた。
だが彼女は別のことを考えているようだった。ペットボトルの水を飲んだあと、
「楽しかった……けど、やらなきゃいけないことを考えちゃって、ちょっと集中しきれなかったや」
そう言って、失敗したと言う風に眉を下げて笑う。
俺は申し訳なくなり、言葉を失う。綿乃も同じようだった。俺たちがしっかりしていればそうはならなかったはずだ。「だからさ」と萌音は続ける。
「ダンジョンは絶対攻略! だよ! 部のみんなのためにも、さ」
悔しい結果だったはずなのに、萌音は満面の笑顔で言った。そしておそらくその言葉に偽(いつわ)りはないのだろう。
あの時、引き返してよかった。彼女が無事でいてくれてよかった。
素直にそんな感情を自分が抱いているのに気づいた。
なんだろうこの気持ちは。ただ安心した、というだけじゃない。なにかが俺のなかで変わってきている。
萌音や綿乃たちと過ごし、彼女たちの心にふれて、なにかが……
どこからか甲高い笑い声がして、広場のすこし離れたところにある公園のほうを見る。
休日なので、小学生くらいの小さな子供たちが遊具であったり鬼ごっこをしたりして遊んでいた。
その姿がヨサラと重なって見える。
彼女はまだ幼いのに、遊びたい年頃のはずであるのに、ダンジョン攻略のために必死にがんばっている。高校生の俺たちと変わらないトレーニングに耐えていた。
萌音たちもそうだ。彼女たちはふつうの女子高生で、命をかけるような危ないことをしたくはないはず。今みたいに談笑したり、自分の好きなことに取り組んだりしていたいはずだ。
あるいはそれは、アルスの力という最後の希望があるゆえできることなのかもしれない。アルスという最後の保険が切り札であるからこそ挑める、少なくとも俺のなかにはそういう考えはやはりある。
だがそういう風にアルスが彼女たちの切り札として担保になっていたとしても、人々の恐怖の対象であるブラムとまっすぐな瞳で戦おうと思える彼女たちには、すごい、と敬意に近い感情を抱かずにはいられない。
尊敬できる仲間である彼女たちのためにも、絶対に明日ナズウェンのダンジョンを攻略したいと、そう思う。
その日もチェロの家をおとずれ、地道な特訓をした。
トレーニングメニューをこなしたあと、また山のなかで石を探しつつチェロの奇襲から逃げる特訓を行う。だが最初のときとは違い、体力がついてきたからかそれとも気合が入っているせいか、石を手に入れつつかつすでにチェロから逃げるのも困難ではなくなっていた。
それでもやがてペアであるヨサラの歩くペースが遅くなり、いよいよ立ち止まってしまう。
見ると、汗だくで膝に手をついている。かなり体力を消耗しているはずだ。無理もない。まだ小学生ほどの幼い子供に俺たちと同じ訓練はきつすぎる。
「ヨサラ、平気か? 無理するなよ」
「いえ、平気です。むしろまだ全然やる気ですから」
彼女は汗を袖でぬぐうが、姿勢はまだかがんだままである。しかしその目にはまだ力強さがあふれている。
「私……学校ではいつも浮いてました」
唐突にヨサラが息を切らしながら言った。
「歴史の授業で……アルス様のことをふれるんです。私はアルスのことを悪く言う教師にも、他の生徒にも歯向かって……頭のおかしなやつだという扱いでした」
アルスに対して強い気持ちのある子だと思っていたが、それほどとはな。
「だから……見返したいです。アルスデュラントはすごいんだって……私ががんばれば、証明することに近づくから」
どう見ても疲れているはずなのに彼女にまだ気力がみなぎっているのはそのせいか。
「アルスのせいで苦労させて、すまない」
気をつかって言う。
ヨサラは黙ったまま息を落ち着け、こちらに視線をやった。
「……謝るより、実現すると約束してください。ダンジョンを攻略するって」
ヨサラは顔を汗でぬぐって、強い眼差しでそう言う。
「私はまだあなたがアルスだと認めたわけじゃありません。……頼りないし、いつも女の人とイチャついてるし……」
いや前のは合ってるが、女の人とイチャついてはないだろ?
「なので、絶対いつかは認めさせてくださいね」
にらんだまま、彼女は不敵に微笑む。「綿乃さんも、みんな……頼りにしてますから」そうつけたして、ふたたび顔をあげた。
ヨサラがこれだけがんばっているんだ。俺も負けてられないな。
「……ああ。がんばろう」
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