3 / 4
3
しおりを挟む3
いつもなにかとうるさいツルギより、さいきん新しく入ったブロッコ先生のほうがなにかとやさしい。手のかかるネシャすら甘やかしていつもかわいがっている。
イズーの話し相手にもなってくれる。そんなこんなでイズーにとっては心地のいい日々がながれていたが、あいかわらずイズーはほかの生徒とはしゃべらない。一方的に話しかけられることはあるがうなずいてみせたりするだけだ。すでにしゃべれないものだとほとんどの子供には思われていた。
この施設にきてからというもの毎日が幸福にみちていたが、イズーにはただひとつだけ気になっている点があった。
イナカハイムの生徒は敷地内で自由にあそぶだけでなく、たまに敷地の外へ職員とともにでかける『』というイベントがある。
みんな外に遠足にいったりするのに、イズーだけ施設の外にいくのを許してもらえないのである。
つまりひとり校長とともに施設にのこるのだ。しずかに本が読めてよかったものの、とても強く疑問はのこった。
なぜ? なぜほかの魔物の子どもは施設の外に出ていいのに自分は出られないの?
それを問いただしてみたりもした。ミイラもツルギも答えない。
(私の家族は?)
それも、ふたりとも教えてくれない。「出せない」「言えない」「そういう生徒もいる」とばかり。
ある遠足の日毎度おなじくイズーが施設にのこっている。たまたま校長が来客対応をしていて、ブロッコ先生も施設に残っていた。
このやさしい先生ならたのみこめば教えてくれるかもしれないと、イズーはかしこく考えた。もうここに来てから一年ちかく経とうとしており、知恵がついてきている。
「どうしてもしりたいの?」
困った笑顔で、あんのじょうブロッコ先生は秘密をうちあけてくれた。
「だって私だけ出られないなんて、変でしょ。なにか病気があるわけじゃない」
イズーの言葉におかしいところはなくブロッコは悩んでいたがやがて口をひらく。
「それを教える前には、あることを知らなくちゃいけない。なぜあなただけ施設の外に出せないのか」
彼女はまわりにだれもいないことを確認したあと、声をおさえて言う。
「大昔に人間と魔物の戦争があったのはしってる? もう何百年も何千年も前よ」
「うん本で読んだよ」
「人間のほうはもう魔物をそんなに敵視してないの。でもね、魔物のなかにはとても長寿といって、ふつうの人間の寿命が百歳なのに何千歳と生きる魔物もいるの。つまりそのなかには人間を何千年もうらんでる者もいる。そのなかでむかしもっとも恐れられ暴力と破壊のかぎりをつくした恐怖のがいるの。その名は……ワリック・タカフ」
「……タカフ」
「ええ。あなたのお父さんの兄にあたる人よ。つまりあなたのおじさんね」
さすがのイズーもこれにはショックをかくしきれなかった。言葉を受け止めようとすればするほどめまいがしてできなかった。
「その人はね。人間との平和協定に最後まで反対していて、人間のみならず、人間と仲のいい魔物もおおぜい殺したの。あなたのお父さんとお母さんもそう。人と仲良くしようとしたために、ワリックに殺されてしまった」
「そんな……」
「これは秘密だからね。なぜ先生がたがだまっていたのかこれでわかったでしょう。あまりにショッキングで、あなたほどのおさない子にはまだ受け止めきれないからなのよ。だけど私にはわかる。あなたはかしこい子。それに勇気もある。ほうってはおけなかった……」
そこにツルギが来る。それ以上の話はできそうになかった。
ツルギはふたりがなにを話していたのかまでは気づいていないようだった。しかしイズーが遠足からほかの生徒がもどってくるまでさみしい思いをしたかもしれないと、いちはやくもどりそばにいてやろうとした。
「なにはなしてたの?」
イズーを食堂へつれていく途中、ツルギはたずねる。
「え? ああ、外の世界がどんなものなのか教えてもらってたの。ツルギ先生はなにも教えてくれないから」
「それはさあ言えないんだって。お前、最初に会ったときよりずいぶんかしこくなったな」
すこしやっかいそうにツルギは言っていた。かしこくなった、という褒め言葉がなぜかやけにイズーの心には暗くのしかかった。自分でもわからなかったが魔物の軍勢をひきいたという親族の存在を感じさせるからである。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
飛べない狸の七つ芸
月澄狸
大衆娯楽
月澄狸の短編集です。短編集を作っておけば、気軽に短編を完成させていけるんじゃないかと期待して、練習&実験的に始めます。よろしくお願いします。
ゴキブリ短編集もよろしくお願いします。↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/206695515/438599283

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

『記憶の展望台』
小川敦人
現代文学
隆介と菜緒子は東京タワーの展望台に立ち、夜景を眺めながらそれぞれの人生を振り返る。隆介が小学生の頃、東京タワーを初めて訪れたときに見た灰色の空と工事の喧騒。その記憶は、現在の輝く都市の光景と対比される。時代と共に街は変わったが、タワーだけは変わらずそびえ立つ。二人は、人生の辛いことも嬉しいことも乗り越え、この瞬間を共有できる奇跡に感謝する。東京タワーの明かりが、彼らの新たな未来を優しく照らしていた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる