上 下
158 / 169
王総御前試合編

80 カードの魂

しおりを挟む

 センはオフィールのカードを高々とかまえた。くるのか、あれが。

「オドは満ちた。もうこの天空要塞のどこにも逃げ場はない、次の一撃で終わる」

 大天使の加護で強化されたあの技からはたしかにほとんど隠れ場はないだろうな。ちょっとやそっとの防御や回避も意味はないだろう。

「なら……逆にちかづきます!」

 ハイロはカードたちを率いて、一斉につっこんでいく。
 いいアイデアだ。そして練習してきた通りでもある。やはり接近戦こそルプリアの活きる道。

「考えましたわね。味方のいるところなら安全……と思ったのでしょうが。ちかづいたところで力の差は見えていますわ!」

 ハイロは分身したルプリアと氷の魔女計3体を突撃させ、敵の狙いを分散させる。このままいけばシャンバラとゼラフィムの魔法の射程距離圏内のため、ただの無謀な突撃だ。

「……あきらめません。私の引いたカードは……【クロス・カウンター】」

 クロスカウンター。接近戦にかぎり、防御か回避成功で確定反撃のわざだ。
 だが今スピードの増した天使軍団が相手では……

「いまさらそんなカードでなにができる! なにか狙いがあっても無駄だ。スキル【賢者たちの沈黙】!」

 そう、ブラフだ。
 センがクロスカウンターを封じた、そう思えるタイミングで俺はカードを手にかまえる。

「と、みせかけて……TRPG解除。[目]の良さが逆効果になったな、セン。ハイロのカードをよくみてみろ」

 変装の魔法を解いたのと同時に、ハイロが持っていた本当のカードの姿があらわになる。
 ハイロがかまえていたのは、『氷の魔女』のカード。
 TRPGでセンにはトリックカードクロスカウンターにたしかに見えていたんだろうが、それは大間違いだ。
 カードとハイロのまわりに、冷気が集中していく。

「氷の魔女のカード……!? 氷魔法か! いや、オフィールの光の刃のほうが威力は上!」

 たしかに今のオフィールの力なら、氷の魔法を相殺することなど他愛もないだろう。ただし、

「発動できればな」

「なっ……!?」

 ここで使ったのは【ソードダンス・エアリアル】だ。と言ってもはちゃめちゃにブンまわしたわけじゃないし、そもそも俺の剣は遥か下の地面にある。
 だからただ[呼び寄せた]だけだ。ハイロがクロスカウンター、もとい氷の魔女のレコードを発動したと同時にただ剣をセンのほうに向かわせた。
 隙だらけのセンの背後に魔法の剣が横回転で飛んでくる。センはウォリアーじゃなく人間、あれをくらえばただじゃすまない。
 コマンドの自分かオフィールか。選択があるように見えて、結局どちらが欠けても軸を失うことになる。
 避けようが、呪文封じで剣を止めようが、ゼラフィムで自分を守ろうが、なにをしてももう氷の魔法は発動している。あの剣はただ一瞬でもセンの気を散らすための仕掛けだ。

 勝負はついた。ゼロ距離で氷魔法をあてられ全身凍りついたオフィール。これを失った向こうにもう勝ち目はない。
 サインオブウィンターで敵全体を弱体化し、ついに殲滅して試合は終わった。
 勝ったのは俺たちだ。


 霧が晴れ、テーブルにもどってくる。
 だんだんと歓声がきこえてきて、やがてそれは耳がこわれそうなほどの爆音に変わった。

 奇声。悲鳴。怒声。勝利の音楽。拍手喝采。なにがなんだかわからないほど会場に響き渡っていた。

「や、やった……」

 気づけば顔中汗まみれだった。試合がおわってはじめてわかった。
 呼吸がみだれて、今ようやくひと息つけたような感覚がした。

「勝ったの?」

 おどろいている様子のローグに、ハイロも目を丸くしてあわてている。

「や、や、やっちゃ……か、か、勝っちゃいま…………」

「負け……た? そんな……」

 チェイスだかセンだかわからないが、そんな声もした。
 
 ――雨?
 ふと顔のうえになにかが落ちてきた。だが雨にしてはなにか変だ。 

「なんなんだ、これ……」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

華の剣士

小夜時雨
ファンタジー
遥か昔、燐の国の王は神の加護を得て、獣を意のままに操る血族となった。その燐で生まれたハヨンは、幼き頃にある少年に助けられる。その少年の手がかりは、剣の柄に描かれていた紋章から、王族であるということのみ。昔の恩返しのために、ハヨンは史上初の女剣士を目指す。 しかし城内では派閥により大混乱で…。

精霊のジレンマ

さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。 そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。 自分の存在とは何なんだ? 主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。 小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

処理中です...