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王総御前試合編

真理追求カード10

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 数年ぶりほどか、恩師のもとを訪れる。
 彼女の家は広く、さすがは護衛部隊の元隊長なだけはあった。ご家族の何人かがあたたかく出迎えてくれ、夕食まで提案してくれたが試合前なので丁重にことわった。
 ラジトバウムを発ってからも、やることが多くがあった。そのせいでここにくるのが遅れた。
 しかしそれは言い訳なのだろう。

「ひさしぶりね」

 彼女の声は現場をはなれた今もよく通っていて、身が引き締まる思いがする。
 この人がいれば今抱えている事件ももっと早期に解決できただろうに。
 オドの加護がすくなくなった今もふだんは元気だそうだが、今日はたまたま体調がわるかったそうで彼女はベッドの上で座ったままでいる。彼女の家族の話では、例の流行病にかかってしまったそうで、薬を

「ご無沙汰しています。お体のほうはいかがですか」

「病み上がりなのよ。はやり病があったでしょう? 完治はしたけど、まだ体力はもどってなくてね」

「オドの加護がもっとあれば……」

「いやあただ単に、病気してからもやすまないで運動してたらこじらせちゃったのよ。10代のつもりで……ね」

 そう言って彼女は、むかしと変わらず明るく笑う。まあたしかに彼女の場合へたに人より体力があるから、本当の話なのだろう。
 いろいろなことをしゃべっていても、彼女の話し方はゆったりとしていて、会話がうまいというのだろうか心地がよい。

「かわらずでなによりです。今日はそのことと関連してお話が」

「そう。にしたって、王都にはもうずいぶん前に来てたそうじゃない。御前試合に出場とはね……あなたのことだから、なにかワケがあるんだろうけど」

「ええ。仕事のようなものです」

「それにしても遅い。どうせまだ悩んでて、あいにきづらかったんでしょ」

 隊長にはお見通しか。

「ラジトバウムにいるのは、同僚の故郷を守るためなのでしょう? 彼女の……」

「はい」

「まじめすぎるわね」と、隊長はきっぱり言った。

「ですがあの娘は私をかばい……戦士としてはやっていけなくなった。あなたも……。私は今じぶんがすべきだと思ったことをやっている、それだけです」

「その調子じゃあ、婚約者はいなさそうね」

「えっ!? いやそれは別に……関係ないじゃないですか」

「でも、いい目をしている。今はまた、守りたいものができたのね」

 守りたいもの、か。もう私は護衛部隊の一員ではなくなった。だけどラトリー、ハイロ、そしてエイト彼女たちを傷つけさせまいと思う。そのためにまたカードと共にあるのだと、そう信じている。

「隊長、すこしおはなしが」

 私は一連の事件のことをきりだし、あらましを伝えた。
 この王都にせまっている危機、つまり私たち部隊を壊滅させた呪いのカードの話をである。

「呪いのカードが……」

 やはり思うところはあるようで、険しい表情になる。彼女の性格までかんがえると、自分がなんとかすると言い出しかねないほど感情が揺れ動いているのがみてわかる。

「本当にほかの災厄まで引き寄せるのだとすると……かなり困難な任務になるわね」

 声には重苦しい、ハイロたちとの愉快な日々の記憶がかき消されそうなほどの脅威を思い起こさせる気配がある。

「はい」

 隊長はしばらく考え込んだあと、手元に何枚かカードを呼び出した。そのうちの1枚をえらんで、私のほうに差し出す。

「持っていくといい」と言って彼女はほほ笑む。

 受け取るのを迷う理由はなかった。こんななにげないやりとりでも、彼女は必ずなにか考えている。事件のことを受けて切り札を与えてくれたではないかと思った。
 私はそのカードを受け取ってまじまじと眺める。見たことがないカードだった。

「これは?」

「むかしの人はよくお守り代わりにカードを渡したと聞いたことがある。……好きにつかいなさい」

 私の問いに、彼女はそう答えた。やさしい表情だったが、その目はどこか現役のときと同じ、強い意志が感じられた。
 彼女はカードを持つ私の手をにぎって、

「あなたならきっとできる」

 そうして、私はカードをたくされた。決して軽くはないカードを。
 もう一度よくそれを見つめてみる。しかしそこに映っているのは、自分自身のようにさえ思えた。
 やり遂げなくてはならない。もうあんなことは起こさせない。
 そんな強い感情が、心の底から沸きあがるのをかんじた。


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