カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
上 下
144 / 169
王総御前試合編

67

しおりを挟む


 前にもきた、センリの部屋に案内される。よくみるとカードゲームにちょうどよさそうな卓(たく)があって、その上にセンリはたくさんカードをひろげていく。
 俺は卓の前にすわって、カードたちに目をむける。

「へえ。本当にめずらしいカードも持ってるんだな。これはなかなか……」

 さすがは名家。もってるカードもどれも珍しい、しかもレアなだけじゃなく実戦でも使える強カードが目白押しという感じだった。

「エイト、僕もうガマンできないや……!」

 俺がカードをなめまわすように手にとって眺めていると、センリはそう言っていきなり俺の手をつかんだ。

「うわっ!? なんだよいきなり!」

「ウワサになってるよ。すごいプレイヤーがいるって。それって君だよね?」

 俺をみるセンリの目の色が変わったかのようだった。これはまさしくカードゲームをやろうという意思表示にほかならない。

「いや……人違いじゃないか。俺はそろそろ……」

 センリの手をふりほどいて部屋をでていこうとすると、

「待ってよ。逃げるの?」

 だがセンリは挑発するように言う。

「……一回だけだからな」

 カードバカだな、俺も。

 やや強引に、カードゲームをやることになった。センリは楽しそうに笑っているが、こっちは呪いのカードをまえにして、さすがにカードを楽しんでいられる余裕はない。そもそも向こうにはこの御前試合もただのアマチュアのタイトルに過ぎないのかもしれないが、こちらからすれば重大問題だ。
 
 なんでこんなことに……

 そう思いつつも、カードを展開していく。
 ボードルールではカンタンに負けるわけにはいかない。
 遊びのつもりではなく、俺は真剣に局面をみて、次にとるべき選択をかんがえこむ。

「長考(ちょうこう)かい?」と、センリの声がした。

 こいつ……本当に強い。
 とにかく使ってるデッキが強い。どれもこれも超高価なレアカードばかりだ。まず基本的に値段が高いってことはだいたいそれだけ人気で、人気だってことは強いとかたしかな理由がある。このセンリのデッキはとにかく1枚1枚のカード力、パワーがすさまじい。単純な火力ではなくカードゲームにおける有効度での話だ。
 けっしてカードの値段がイコールつよさではないが、一つの指標であることにはかわりない。センリのデッキは、どのカードもほとんど隙がないというほどに洗練されていた。コンボ、相性、効率、すべてが。これだけのカードたちをあつめ、このデッキをつくりあげるのにいったいどれほどの資金がかかっているのだろう。
 かつセンリ自身のウデもたしかだ。こりゃ決勝はわからないぞ。

「僕たち、いい友達になれそうだよね」

 気づくと、センリは俺のうしろにまわりこんで、恋人をやさしく抱きしめるかのように腕をまわして密着してきた。
 俺はとっさに手札を伏せる。試合中に、なにしてるんだこいつは。

「あんまり近づくな。手札盗み見か?」

「手札も気になるけどね~……」

 本当になんのつもりだよ。試合前に、俺を動揺させようとか考えてるのか。
 あいていたドアに、コンコンとだれかがノックする。

「試合前に一勝負なんて、おバカの極みじゃありませんこと?」

 あらわれたお嬢さまは、ノコウ・ワードハープか。たしか向こうのチームのクイーンをやっていた、異名は『破壊の天使』だとか。

「なにをしてらっしゃるかと思ったら……セン様、決勝の相手をまねきいれることはないでしょう? しかもカードゲームとは……妹ながらあきれましたわ」

「いや、でもこのひとは……」

「スオウザカエイト。敵のチームでしょう? しかもあのキゼを破った一回戦のコマンド……私の目はごまかせませんわよ。失礼ながら、あいさつは省略させたいただきますわ。あら……?」

 お嬢さまは腕をくんで、俺を汚物をみるような目でみてくる。卓上になにか気になるものがあったのか、彼女は視線をそちらに向け近寄ってくる。

「オーホッホ。そんな貧(まず)しいカードしかありませんの?」

 彼女は盛大に噴き出し、高らかに笑い出す。
 卓の上にあった俺のカードを何枚か手に取り、ざっと目を通すノコウ。彼女は『氷の魔女』をふくむカードすべてをうしろの床にほうり投げた。

「<カス>ですわね」

 こいつ……人をイラつかせる天才か。
 ノコウは俺がにらむのもおかまいなしにせせら笑い、

「あのキゼを倒したからどんなものかと期待してみれば。こんなカードしかもってらっしゃらないとは。お気の毒ですが、勝負はもう見えましたわね」

「……」

 どこが天使だよ。さすがにもう黙ってられないぞ。

「勝負が見えた? あんたに見えてるのはだれかが決めたカードの値段だけだろ。本当のカードの価値は……自分で決めるものだ」

 俺は立ち上がって言ったが、彼女はまったくひるまない。

「お言いなさる。そこまでおっしゃるのならぜひみせてほしいものですわね……<逆に>。それらでどこまでやれるのかを。大事な試合に、勝つことができるのどうかを……。そうあなたの腕に、少なからず期待させていただきますわ」

 フンと鼻で笑って、彼女は顔の前で手をひらりと揺らす。

「ではごめんあそばせ」

 なんだよあいつ。いくら次の対戦相手だからって限度があるだろ。
 センリはあわてて、床のカードをあつめて拾ってくれた。彼は申し訳なさそうに眉をさげて、

「ごめんねエイト、あの子対戦相手には容赦なくて……! あとで叱(しか)っておくから、気を悪くしないで」

「いや、俺もつい……」

 やれやれ。まあセンリがむしろちょっと変わってて、試合前のカードゲーマー同士が仲良くするほうがおかしいんだけどな。ノコウのほうがふつうの反応だ。

「試合は持ち越しだな」

「だね」

 俺はカードをまとめて、帰る仕度をする。もう先にフォッシャがいるかもしれない。はやく戻ろう。

「あ、そうだ、センリ……」

「センでいいって」

「セン……その……」

 どうする、言うべきか、言わないべきか。

「いや、やっぱりなんでもない」

 あることを言おうとしたが、やはりやめたほうがいいかもしれないと思い、言い直す。

「どうしたの? なんでも言ってよ。僕たちもうカード友だちじゃないか」

 そう言うセンは本当に純粋な目をむけてくる。ノコウとはちがう俺を心配してくれている目だ。
 彼のことをよく知っているわけじゃない。だが言わないよりは言っておいたほうがいいか。

「……俺、巫女の仕事を受けてるって言ったよな。実はまだ、王都に呪いのカードが残ってる可能性があるんだ」

「えっ」

「そのカードは巫女の占いによれば……大会中にでてくるらしい。まだ確定じゃない。でも、たぶん……」

「そんな……ことが。でも……そうだよね、なにかおかしいもんね、さいきん」

 センはかなり動揺しているようだったが、それでも受け入れようという努力はしてくれていた。
 俺は彼に提案をする。

「どういう風に災厄が関わってくるのかはわからない。せめて試合前に、おたがいデッキに呪いのカードがまぎれていないかチェックしないか。中までは見なくていい。呪いのカードを探す方法がある。ただ試合前、合流さえしてくれれば」

 センはすこし考えていた。いきなりこんなことを言われたらだれでもそうなるだろう。だが思っていたより彼の回答ははやかった。

「……わかった。わかった。協力する。僕はエイトを信じるよ。僕は、わだかまりのない勝負がしたいんだ。できることはやるよ」

「ああ。試合はふつうにやってくれればいい。だけどなにか異変に気づいたら……そのときは、試合よりも呪いのカードをこわすことを優先してほしい。頼めるか?」

 そう答えてくれて安心した。センはいいやつだ。と思いたい。

「うん。呪いのカードか……もし本当にそんなことになったら、力をあわせてがんばろうね」

「ありがとう」

 決勝の相手が話の通じるやつでよかった。いや、センと仲良くなれてよかったというほうが正しいか。ノコウとかチェイスとかあのふたりは聞く耳もたない可能性が高いからな。

「でも、試合は試合だよ。なにも起きなかったら、正々堂々勝負。どっちが勝っても恨みっこなし……だよ?」

「約束する」

 俺は力強くこたえ、おたがい手をがっちりとつかみ合う。
 これで100%試合に集中できるとまではいかないが、いくらか気持ちは楽になった。あとは試合に勝って、もし呪いのカードがでてきたらどうにかして破ればいい。
 だが、その[あとは]こそが至難の課題だ。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...