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王総御前試合編
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しおりを挟む前にもきた、センリの部屋に案内される。よくみるとカードゲームにちょうどよさそうな卓(たく)があって、その上にセンリはたくさんカードをひろげていく。
俺は卓の前にすわって、カードたちに目をむける。
「へえ。本当にめずらしいカードも持ってるんだな。これはなかなか……」
さすがは名家。もってるカードもどれも珍しい、しかもレアなだけじゃなく実戦でも使える強カードが目白押しという感じだった。
「エイト、僕もうガマンできないや……!」
俺がカードをなめまわすように手にとって眺めていると、センリはそう言っていきなり俺の手をつかんだ。
「うわっ!? なんだよいきなり!」
「ウワサになってるよ。すごいプレイヤーがいるって。それって君だよね?」
俺をみるセンリの目の色が変わったかのようだった。これはまさしくカードゲームをやろうという意思表示にほかならない。
「いや……人違いじゃないか。俺はそろそろ……」
センリの手をふりほどいて部屋をでていこうとすると、
「待ってよ。逃げるの?」
だがセンリは挑発するように言う。
「……一回だけだからな」
カードバカだな、俺も。
やや強引に、カードゲームをやることになった。センリは楽しそうに笑っているが、こっちは呪いのカードをまえにして、さすがにカードを楽しんでいられる余裕はない。そもそも向こうにはこの御前試合もただのアマチュアのタイトルに過ぎないのかもしれないが、こちらからすれば重大問題だ。
なんでこんなことに……
そう思いつつも、カードを展開していく。
ボードルールではカンタンに負けるわけにはいかない。
遊びのつもりではなく、俺は真剣に局面をみて、次にとるべき選択をかんがえこむ。
「長考(ちょうこう)かい?」と、センリの声がした。
こいつ……本当に強い。
とにかく使ってるデッキが強い。どれもこれも超高価なレアカードばかりだ。まず基本的に値段が高いってことはだいたいそれだけ人気で、人気だってことは強いとかたしかな理由がある。このセンリのデッキはとにかく1枚1枚のカード力、パワーがすさまじい。単純な火力ではなくカードゲームにおける有効度での話だ。
けっしてカードの値段がイコールつよさではないが、一つの指標であることにはかわりない。センリのデッキは、どのカードもほとんど隙がないというほどに洗練されていた。コンボ、相性、効率、すべてが。これだけのカードたちをあつめ、このデッキをつくりあげるのにいったいどれほどの資金がかかっているのだろう。
かつセンリ自身のウデもたしかだ。こりゃ決勝はわからないぞ。
「僕たち、いい友達になれそうだよね」
気づくと、センリは俺のうしろにまわりこんで、恋人をやさしく抱きしめるかのように腕をまわして密着してきた。
俺はとっさに手札を伏せる。試合中に、なにしてるんだこいつは。
「あんまり近づくな。手札盗み見か?」
「手札も気になるけどね~……」
本当になんのつもりだよ。試合前に、俺を動揺させようとか考えてるのか。
あいていたドアに、コンコンとだれかがノックする。
「試合前に一勝負なんて、おバカの極みじゃありませんこと?」
あらわれたお嬢さまは、ノコウ・ワードハープか。たしか向こうのチームのクイーンをやっていた、異名は『破壊の天使』だとか。
「なにをしてらっしゃるかと思ったら……セン様、決勝の相手をまねきいれることはないでしょう? しかもカードゲームとは……妹ながらあきれましたわ」
「いや、でもこのひとは……」
「スオウザカエイト。敵のチームでしょう? しかもあのキゼを破った一回戦のコマンド……私の目はごまかせませんわよ。失礼ながら、あいさつは省略させたいただきますわ。あら……?」
お嬢さまは腕をくんで、俺を汚物をみるような目でみてくる。卓上になにか気になるものがあったのか、彼女は視線をそちらに向け近寄ってくる。
「オーホッホ。そんな貧(まず)しいカードしかありませんの?」
彼女は盛大に噴き出し、高らかに笑い出す。
卓の上にあった俺のカードを何枚か手に取り、ざっと目を通すノコウ。彼女は『氷の魔女』をふくむカードすべてをうしろの床にほうり投げた。
「<カス>ですわね」
こいつ……人をイラつかせる天才か。
ノコウは俺がにらむのもおかまいなしにせせら笑い、
「あのキゼを倒したからどんなものかと期待してみれば。こんなカードしかもってらっしゃらないとは。お気の毒ですが、勝負はもう見えましたわね」
「……」
どこが天使だよ。さすがにもう黙ってられないぞ。
「勝負が見えた? あんたに見えてるのはだれかが決めたカードの値段だけだろ。本当のカードの価値は……自分で決めるものだ」
俺は立ち上がって言ったが、彼女はまったくひるまない。
「お言いなさる。そこまでおっしゃるのならぜひみせてほしいものですわね……<逆に>。それらでどこまでやれるのかを。大事な試合に、勝つことができるのどうかを……。そうあなたの腕に、少なからず期待させていただきますわ」
フンと鼻で笑って、彼女は顔の前で手をひらりと揺らす。
「ではごめんあそばせ」
なんだよあいつ。いくら次の対戦相手だからって限度があるだろ。
センリはあわてて、床のカードをあつめて拾ってくれた。彼は申し訳なさそうに眉をさげて、
「ごめんねエイト、あの子対戦相手には容赦なくて……! あとで叱(しか)っておくから、気を悪くしないで」
「いや、俺もつい……」
やれやれ。まあセンリがむしろちょっと変わってて、試合前のカードゲーマー同士が仲良くするほうがおかしいんだけどな。ノコウのほうがふつうの反応だ。
「試合は持ち越しだな」
「だね」
俺はカードをまとめて、帰る仕度をする。もう先にフォッシャがいるかもしれない。はやく戻ろう。
「あ、そうだ、センリ……」
「センでいいって」
「セン……その……」
どうする、言うべきか、言わないべきか。
「いや、やっぱりなんでもない」
あることを言おうとしたが、やはりやめたほうがいいかもしれないと思い、言い直す。
「どうしたの? なんでも言ってよ。僕たちもうカード友だちじゃないか」
そう言うセンは本当に純粋な目をむけてくる。ノコウとはちがう俺を心配してくれている目だ。
彼のことをよく知っているわけじゃない。だが言わないよりは言っておいたほうがいいか。
「……俺、巫女の仕事を受けてるって言ったよな。実はまだ、王都に呪いのカードが残ってる可能性があるんだ」
「えっ」
「そのカードは巫女の占いによれば……大会中にでてくるらしい。まだ確定じゃない。でも、たぶん……」
「そんな……ことが。でも……そうだよね、なにかおかしいもんね、さいきん」
センはかなり動揺しているようだったが、それでも受け入れようという努力はしてくれていた。
俺は彼に提案をする。
「どういう風に災厄が関わってくるのかはわからない。せめて試合前に、おたがいデッキに呪いのカードがまぎれていないかチェックしないか。中までは見なくていい。呪いのカードを探す方法がある。ただ試合前、合流さえしてくれれば」
センはすこし考えていた。いきなりこんなことを言われたらだれでもそうなるだろう。だが思っていたより彼の回答ははやかった。
「……わかった。わかった。協力する。僕はエイトを信じるよ。僕は、わだかまりのない勝負がしたいんだ。できることはやるよ」
「ああ。試合はふつうにやってくれればいい。だけどなにか異変に気づいたら……そのときは、試合よりも呪いのカードをこわすことを優先してほしい。頼めるか?」
そう答えてくれて安心した。センはいいやつだ。と思いたい。
「うん。呪いのカードか……もし本当にそんなことになったら、力をあわせてがんばろうね」
「ありがとう」
決勝の相手が話の通じるやつでよかった。いや、センと仲良くなれてよかったというほうが正しいか。ノコウとかチェイスとかあのふたりは聞く耳もたない可能性が高いからな。
「でも、試合は試合だよ。なにも起きなかったら、正々堂々勝負。どっちが勝っても恨みっこなし……だよ?」
「約束する」
俺は力強くこたえ、おたがい手をがっちりとつかみ合う。
これで100%試合に集中できるとまではいかないが、いくらか気持ちは楽になった。あとは試合に勝って、もし呪いのカードがでてきたらどうにかして破ればいい。
だが、その[あとは]こそが至難の課題だ。
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