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王総御前試合編

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「まだ呪いのカードが確実にでてくると決まったわけじゃないわぁ。あくまで可能性があるというだけ。私たちはまず、実体化のカードを追うために【探索】のカードが必要になる」

「たしか優勝賞品がそのカードなんだっけ」と、ミジルがローグにきく。彼女にはチームに加わってもらっているが、あまり多くの情報を教えられているわけではない。ミジルを危険にまきこみたくないというハイロの意向もある。

「ええ。優勝することをまずは考えましょう」

 そう、まだだ。まだ確実に【不幸の連鎖】だと決まったわけじゃない。ましてや大会にも出てこないかもしれない。あくまで巫女の外れることもある占いの結果だ。
 すべてがただの杞憂(きゆう)に終わればいいんだが。

 そこで、チーム編成について言及する。

「編成はローグ、俺、ハイロでいく。一回戦と同じ役割で、俺がコマンドをつとめる。決勝はどちらかの手札とメンバーがつきるまで戦う殲滅戦ルールだから、序盤から積極的に……」

 ミジルはものすごい勢いで向かってきて俺のむなぐらをつかみあげ、

「ちょ、ちょ、ちょっと待った! なんで!? あたしを使いなさいよ! ここまでだれのおかげで勝ってこれたと思ってるわけ?」

 たしかにミジルは大活躍だった。彼女がいなければ決勝にはあがってこられなかっただろう。
 しかし次の相手は今までのように甘くはない。

「ダメだ。今度の相手は優勝候補クラス。さすがにミジルの力も対策される」

 ミジルのカード能力では複雑な状況に対処できない。中級魔法を連発できるのは単純な火力としては強力だが、エンシェントでは封じ込む手はある。考えたうえでキゼーノ戦とおなじ、臨機応変に立ち回れるメンバー構成になった。

「強い弱いの問題じゃない。カード再生能力があるノコウには、相性がわるい。ここまでの試合でカードゲームが甘くないのはわかっただろ」

「まあたしかに、ヤバいときも何度かあったけどさ」

 彼女がこれだけやる気になっているのは意外だった。カードゲーム嫌いだったはずだが、正義感は強いのかもしれない。
 クスッとハイロが笑う。

「ミジルが自分からカードをやりたいって言うなんて」

「けっこうスカッとするよね」

 そう言って笑うミジル。彼女がカードゲームをしているとき、こうやって笑う姿をさいきん見かけるようになった。カードのせいでいやな思いをしたことがあるそうだが、その傷は癒えつつあるのだろうか。

「まぁわかったわ。がんばんなさいよ、スオウザカ。あんたのカードゲーム、見ててあげるから」

 こつん、とミジルは拳の甲で俺の肩をかるく小突く。

「私たちの、よ」とローグがつけくわえた。

「そうね。緊急事態になったら、あたしも加勢するわ」

「そういえば、フォッシャちゃんはどこなんですか?」

 ラトリーが声をあげ、ミジルたちもそれに気づいてあたりを見回す。当然、彼女はここにはいない。

「あいつは……」

 俺は答えられず、だまっていることしかできない。ローグがそれをみかねて、

「いざというとき、彼女なしではくるしいわよ」

「わかってる」

 どうしたんだろうというふうに顔をみあわせるラトリーたち。

 フォッシャのことは気になる。ほかのことももろもろそうだ。いろんなことがありすぎて、頭のなかはめちゃくちゃになりそうだ。
 でも今は試合のことを考えていればいい。そう自分にいいきかせる。


--------


 決勝は明日の昼ごろ。朝起きてからでもまだ作戦を練る時間はある。俺はカードショップに寄って、なにか有効そうなカードがないか物色する。

 ここに来ると落ち着くな。さいきん余計に疲れることが多すぎた。自分にはこういう時間が合っている。

 ショーウィンドウに展示されているカードをつぎつぎにながめていく。どれもこれもすばらしい。輝きがある。
 しかし使いこなせなければ意味はない。あくまで自分が持っていたらどうなるだろうという仮定で、想像をふくらませながらこの時間を楽しむ。
 反対からきていた人にかるくぶつかってしまい、すぐに謝る。どうやらその人もカードをながめていたようで、俺とおなじような体勢で身をかがめていた。

「あれ?」とその人が声をあげる。俺も気がついた。

「あなたは……巫女の使者様じゃないですか。あの節は本当にどうもありがとうございます。感謝してもしきれません」

 センリ・ワードハープだ。あいかわらず気品があって、性別がわからないほど美しい出で立ちをしている。

「いや……そんな。それよりセンリ……くん? 御前試合の決勝にでるよね。君もその準備かい?」

「あ、やっぱりスオウザカ選手だったんですか! 絶対にそうだと……。はい、もちろんそうですよ。なにせかなりの強敵ですからね……特にスオウザカ選手、あなたは……」

 ルンルンと鼻唄をかなでそうなほどたのしそうに、センリはぴょこぴょことはしゃぐ。

「すごいなぁ、巫女の使いが決勝の相手かあ」

「使いというか使いぱしりだな。そんなにうやまったりしないでくれ。あれはただなりゆきで巫女の仕事をしただけだから……俺はえらくもなんともない。気にせず試合に集中してほしい」

「はい! わかりました。じゃあ……エイトくんで!」

 そう言って、センリは笑顔になる。
 試合前にじゃれあっている場合じゃない。俺はそこで別れようと背を向ける。

「なんでもいいけど。おたがいベストを尽くせるといいな。それじゃ、ジャマして悪かったね……」

「あっ、……ちょ、ちょっと待って」

 呼び止められた気がして振り返ると、センリはまだなにか話があるらしかった。

「その、お礼がしたいんだ。また家にこない? おもてなしをさせてほしい」

「え? ……は?」

「僕だけ一方的にたすけてもらって、すごく感謝してる。このままじゃ冷静に勝負なんてできないよ……。勝ったら申し訳ないって思っちゃう。だから……お礼をさせてくれないかな?」

「…………えぇぇ……」

 そういうことを言ってきたうえ、センリは純粋なまなざしを向けてきて、俺は断ることができない。
 まいったな。決勝の相手と前日に談笑? 冗談じゃないぞ。




 結局またあの豪邸についてきてしまい、ジュースやらデザートやらおやつというには豪華すぎるほど存分にふるまってもらった。最初は食べるのにためらいがあったが、センリが毒見してくれたのでいただくことにした。
 こんなにおいしいケーキを食べたことがねえ。相当腕のいい料理人を雇っているんだろう。俺が夢中になって食べているところを、にこにことセンリは見守っている。

「うわ、これおいしいな! フォッシャがいたらすげえよろこぶぞ」

「え? フォ?」

「あ、いや。気にしないでくれ。それでセンリ、さっき言ってたツァーズ・オーブってシステム……」

「そうそう、うんうん。ツァーズはね、きっと近いうちボードヴァーサスの新しいムーヴになると思うんだよね。この間の大会でグミ選手がためしてて、3回戦負けだったんだけどすごい革新的なシステムでさ」

「あたらしい環境になるかもしれないってことか。俺はボードなら『ツクモガミ』族はもっと評価されてもいいと思うけどな。工夫によっては……」

「あのカードか……たしかにそうかも。すごいところに目をつけてるね」

「いや、単にデザインが好きだったから目をつけてたら、ある日気づいたんだ」

「エイトくんってヴァーサスくわしいんだね。ここまで話せるひとってなかなかいないよ」

「ああ、まあなんていうか、詳しくならざるをえない部分もあったというか……今はボードやってる場合じゃないけどな」

 時計をちらっと見て、そろそろお暇(いとま)しようかと思ったとき、センリは立ち上がって「そうだ、よかったらもっとカードのこと話そうよ! おもしろいカード見せてあげるからさ! 僕けっこういろいろと持ってるよ!」

「え」

「ほらほら、いこいこ!」

「えっちょっ」

 センリは有無をいわさずに、俺の背を押してどこかへ運ぼうとする。

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