カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
上 下
11 / 169
クリスタルハンター編

9 ダンジョン突入

しおりを挟む

9 ダンジョン突入


 まだ靄(もや)のかかった早朝、街を出ようというところで見知った顔と出くわした。
 昨日の、冒険士を探してるとか言ってたおじさんだ。

「やあ君か」

 どこか彼は焦っているようで早口に言った。娘さんは見つからなかったんだろう。やはり塔にいるのか。

「塔にいこうと思ってね。もう探してないところはあそこだけなんだ」

「娘さん、ですか」

「もう一人前だとは思うんだが、親として心配でね。この島で消息を絶ったみたいなんだ」

「冒険士……僕たちも冒険士です。目的もいっしょです。ここで行方不明になった人たちを捜索してます」

「おお! おお! そうか。じゃあ娘の名前も知っているだろう。クラハという名だ。ゴールドクラスの」

「えっと……」

「知らない!? おまえらほんとに冒険士か。モグリじゃあるまいな」

「すみません、駆け出しなもので」

「なら無理をしないほうがいい。あのダンジョンはかなりの難関らしいからな、わしに任せておけ」

「いや、さすがにひとりで行くのは……」

「なあに心配はいらん。こう見えてわしも昔は腕利きの冒険士でな……『カードの貴公子』スべンディーアたぁ、この俺のことよ」

「……し、しらない……」

 フォッシャと顔をみあせるが、まったくわからない。サナも苦笑いを浮かべていた。

「では、アディオス!」

 スベンディーアは颯爽と立ち去っていく。こちらが止める間もなかった。自身で腕利きだったというだけあって、やたらと足がはやい。

「聞こえてないべな……あれは」とヨッゾ。

「よほど心配なんワヌね」

 娘のために単身この島にくるくらいだからな。一晩で島中を捜索したというのが本当かはわからないが、いくら実力があっても独断行動は危険だ。早く追いかけたほうがいいだろう。

「そうだね……ぜったい助けないと」

 サナがぽそりとつぶやく。いつになく真剣な表情だった。いささかその言葉に違和感を感じつつも、俺たちは先を急ぐことにする。

 


 紅葉した木々を抜け、魔法の塔その足元までやってきた。
 緊張感というやつか呼吸がおちつかない。この仕事は今までのオド結晶集めとはちがう。そのことはもうわかっている。しかしなにかもっといやな予感がする。

 塔の門のまえで狐姉妹がまちかまえていた。彼女たちが前に立ちはだかって、俺たちは進むことができない。

「ここは通しません」

「そういうこと」

「なかへ入ってはダメです」

 ふたりの目は話をきいてくれそうもない。これ以上被害をひろげたくないという言い分もわかる。
 どうするかというときにサナがカードをかまえた。狐姉妹がふらふらとしながら目を重そうにまばたきし、やがてその場にくずれて寝息をたてはじめた。どうやらサナが魔法をつかったらしい。

「サナ……」

 いくらダンジョンに入るため仕方ないとはいえ、魔法をつかうのはやりすぎなようにも思えた。
 だがサナは顔色ひとつ変えずに狐姉妹をそっと横にしてやる。

「いよいよワヌね……」

 門の扉を前にして、さすがのフォッシャも顔がこわばっていた。
 サナが扉に手をかけ、

「伝説ではこのダンジョンの最上階にクリスタルがある。この塔は遥か昔ある魔法使いひとりだけが、走破したといわれてる」

「慎重に進むべな」とヨッゾ。

「あぶないから、ヨッゾまでついてきてくれなくてもよかったのに」

 俺がそう言うのも心配してのことだ。

「冒険士を運ばにゃならんだろうから、手が必要だべさ」

「でも、あんたを心配してるヒトだっているんじゃないか。恋人とか家族とか友だちとか」

「イチレンタクショー。いまはここにいる全員がわての恋人であり、相棒だぎゃ。こわいけど、エイトくんについていけば大丈夫だと思うべさ」

「その意気ワヌ!」

「……わかった。いくか」

 扉に手を伸ばし、サナと共に開けて中に突入する。

 なかは薄暗かった。いくつかの道にわかれており、外からみるよりあきらかに広いく空間が捻じ曲がっているようだ。
 変わっているのは床が水のようになっていることだった。水浸しではない、まさしく液体がある。プールの上にガラスを張ってその上を歩いているような感じだ。
 これが迷宮、ダンジョンか。だが普通の場所ではないだろうというのはわかっている。

 先から気配がして、身構える。正気を失った目の男と、巨大なカマキリかキリギリスのような虫に似たモンスターがただならぬ雰囲気をまといながら近づいてきた。

 いつもならあの怪物を目にした途端に剣を抜くところだが、ここはモンスターの島だ。話が通じれば危害を加えてこないかもしれない。

「あいつら……生物じゃないぞ。魔法みたいな……」

 サナがくれた魔法カード【精霊の祝福】のおかげかいつもよりオドがはっきりと見える。あの2体がまとっているオドの色は生物のそれではない。どちらかというと魔法と同じ種類のものだ。
 
「カードか。サナ、このなかじゃカードを召喚できるのか」

「みたいだね。気をつけて」

「カードと戦うだぎゃ!? どうしよう!?」

「大丈夫。下がってろ、ヨッゾ」

 前に出て1枚のカードをかまえる。俺が呼び出したのは『宿命の魔審官』のカード。拳銃をかまえた男が写っている。
 みたところ敵は、あの緑色のは昆虫系。そして男の方は魔人だろうか。鼻が長く紫色の服に身を包んでいる。老人のようだった。
 敵のカードがどういうタイプかわからない以上、長引かせる理由はないな。

 審官がつくりだす魔法の弾丸が放たれ、敵2体を一瞬で撃滅する。

「序盤から飛ばすワヌねえ」

「おお! この調子なら最上階までいけそうじゃなあ」

 ウォリアーはただの2枚のカードへと戻り、床に落ちたそれを俺は拾い上げる。
 こんな状況でも不思議と落ち着いていた。頭も回っている。これも精霊の祝福とやらのおかげなのか。

「体が軽い。あのカードのおかげかもな。なあ、ところでなんでカードが襲ってきたと思う」

 疑問を口にする。サナが意見を出してくれた。

「だれかがオド結晶を独占しようとして、そういう仕掛けをつくったとか」

「ありえそうじゃな。お嬢さん、冴えてるなぁ」

「どうかな。……こういうセンはないかな? たとえば、冒険士の落としたカードが、勝手に暴走しちゃってるとか……」

「考えてもわからないワヌよ。わけのわからない場所だからダンジョンって言われてるんだし。それより先にすすむワヌ」

「ああ……」

「エイトどんは大いなる遺産が手に入ったら、なにしたいだぎゃ?」

 とヨッゾがきいてきて、

「そうだな。もうすこし色々とカードを見てみたい……かな」

「控えめじゃのう。わては世界旅行の資金にする! 世の中をわての音楽と笑いで満たしてやるんじゃ。ま、コツコツ貯金はしとるんじゃが、多いにこしたことはないからのう」

「サナもなんかあるワヌ?」

「わたしは……」

「したいこととか、やりたいこと、あるワヌ」

「うん……でも、だれかにイヤな思いをさせたり、不幸にさせてまで……自由になろうとはおもわない」

 暗い顔をして小難しいことを言い出すサナ。俺とフォッシャはどうしたんだろうという具合に顔をみあわせる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...