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王総御前試合編

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「へ?」

 ミジルは突然視線をあつめられて、困惑する。

「あたし!?」

「ミジル……おねがいできませんか?」

 じり、とハイロは妹にちかづいていく。

「そ、そんな目でみつめないでよ……」

「ミジル、おねがいワヌ! たのむワヌ! このとおり!」

 手をあわせて頼み込むフォッシャ。
 意外にもミジルは、かんたんに承諾してくれた。

「いいよ、手伝ってあげる。ま、大変なことが関わってるんなら、ほっとけないわよね」

 俺にはすこしおどろきだった。こいつはカードのことがもっと嫌いだと思ってたんだけどな。

「ミジル! ああ私はなんていい妹をもったんでしょう!」

 歓声をあげ勢い良く、ハイロはミジルに抱きつく。

「ぐえ、く、くるしい……! でも、条件があるから!」

「条件?」

 くっつきそうなほど、ミジルとハイロの顔は接近していた。ずいぶん仲が良いんだな。

「うん。ていうか、お願いが……。前の感覚がわすれられなくてさ……」

 ミジルはそこで俺を指さすと、

「そこの根暗! あんたはちょっと耳ふさいでなさい」

「は? 耳?」

「はやく」

「なんだよ。こうすればいいのか?」

 意味がわからなかったがとりあえず言われたとおりやる。なんだかミジルが「もふもふ」と言っているのがきこえるような気がする。
 フォッシャがしぶしぶという感じでミジルに近寄っていく。満面の笑みのミジルに抱きかかえられ、ものすごくモフられている。
 ミジルの頭にのっけられたり、肉球やお腹を撫でられたり、いつぞやの子どもたちにもみくちゃにされてるときのように好き放題されていた。まあフォッシャもイヤではないのか、なんだか照れていて恥ずかしいという感じに見える。

 もしかして、あいつフォッシャのことがけっこう好きなのか?

 ほとぼりがさめてから、俺は両手をおろす。

「ミジルさん、カードの経験はあるんですか?」と、ラトリーがたずねた。

「ないわね、まったく。むしろ嫌いだったし」

「きらい……だったんですか?」

「まあちょっとあってね」

「よくないことがあったんですね。かわいそうです……よしよし」

 ラトリーは不憫だという表情で、座っていたミジルの頭をやさしく撫でた。とうのミジルは、恥ずかしそうに顔を赤らめている。

「ちょ、ちょっとやめてよ……年下にこんな……」

「じゃ、ミジルもフォッシャとラトリーとおんなじ、初心者ワヌね」

「なかまです。どしろうとです。どしろうと~」

 たのしそうに笑うフォッシャとラトリー。
 本当にこの人たちは、なんというか場を和ませてくれるな。さっきまでピリついてた空気がうそみたいだ。

「ビギナーだから、[どしどし]カードゲームの勉強や[ろうと]思っています……なんちって」

 ラトリーのだじゃれに、ミジルは真顔になって困惑する。

「………………は?」

「ラトリー最高ワヌそれ! あひゃひゃひゃ!!」

「絶好調です」

 そんなやりとりをみて、ローグも地味に笑っていた。

 呪いのカードはどうにかするとして、キゼーノという山場は越えた。なんにせよ探索のカードを手に入れるという俺たちの目標は変わらないのだから、今考えるべきはまず次で当たることになるチームのことだ。

「二回戦の相手は……」

 話をもどすような俺のつぶやきに反応してくれたのは、ローグだった。

「今日勝ったほうとあたるわね。二手にわかれて、情報をあつめましょう」

「エイトさんが作戦をたててくれれば頼もしいんですが」と、ハイロが言う。

「そうね。戦術立案はまたお願いしようかしら」

「わかった」

「あまりムリして動いちゃだめですよ、エイトさん」

 ラトリーは医者のたまごだ。心配してくれているのか、そう声をかけてくれた。

「ああ」

 ラトリーのいうとおり、今は身動きがとれない。試合にもでれない以上できることで勝利に貢献しないと。

「ミジル、ありがとな。引き受けてくれて」

 車椅子の車輪をまわしてちかづき、彼女に言う。

「別に? なんとなくそうしてもいいかなって思っただけ」

「助かるよ。全力でサポートするから、がんばってな」

 俺はミジルのやわらかそうな髪に手を伸ばし、指先がすこし触れる。
 ミジルは顔を赤くするほどおどろいて、

「なっ……!? な、な、なに勝手に人の頭さわってんの!? だれがそんなことしていいっつった!」

「あ、ごめん……頭にカードついてたから」

 別に他意はなく、親切でやったことだったがまだなにか警戒されているらしい。

「は!? なんでやねん……まさか!?」

「くっくっく」

「フォッシャ! あんたね! なにしてくれてんの!?」

「カード仲間のおちかづきのしるしワヌ」

「やってくれるじゃない! モフモフの刑に処すわ!」

「やーい」

「待ちなさいよ!」

 子どもみたいに部屋をかけまわる二人。……元気だなおい。こっちは全身打撲だぞおい。

「さてみんな、でかける仕度をしてちょうだい」

「でかける?」と、ローグにきく。彼女はふっと笑みをみせて、

「ミジルが加わったんだから、カードをそろえないとでしょう」

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