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王総御前試合編
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しおりを挟む3人といれちがいで、ハイロとミジルが今度はやってきた。
ハイロとは試合のことなどを振り返りその話題で盛り上がったが、ミジルはなにか言ってくるでもなく居心地が悪そうにずっとハイロの陰に隠れていた。
「ほら、ミジル」
ハイロに両肩を押されて、こちらに寄ってきたミジル。ここで、ようやく目をあわせてくれた。
「……その……バカードゲーマーとか言って……ごめん」
ミジルは恥ずかしそうにやや顔を赤らめて言う。イメージと打って変わってしおらしくなっている彼女の姿と言葉がすぐには信じられなかったが、わざわざ言ってくるということはたぶん本心なのだろう。
「まあ、ちょっとは見直したよ。なかなかかっこいいかもね……」
そう言いながら彼女は目をそらして頬をかき、
「い、言っとくけど、カードゲーマーのことじゃないし、間違ってもあんたのことじゃないから。カードのことだかんね」
とあわてて訂正していた。
ああ、そういえば、ミジルも試合を見に来ていたんだったな。ハイロも俺もがんばっていたから、それですこしはミジルの中でカードの捉え方が変わってくれたなら嬉しいことだ。
フォッシャが言っていた見てくれている人はいるという言葉が思い出されて、なんだか一層、勝ててよかったという実感がわいてきた。
なかなかかっこよかったかも、か。俺がつかったカードのことをそう言ってくれたら、そりゃ嬉しいよ。
妙に安心したのとあいまって、なんだか自然と笑いがこみあげてきた。
「なにニヤついてんの? 褒めてないっての。やっぱバカードゲーマーじゃん?」
「ミジル……!」とハイロがたしなめるも、
「ふん」
けらけらと笑って逃げていくミジル。
けっきょくいつもどおりか。でもなんだかあいつ、機嫌がよさそうだった。そりゃ、実の姉がすごい試合に勝ったんだから、嬉しいか。
ハイロが帰ったあと、なにか病室の外の廊下の方で物音がした。
「だれかいるのか?」と声をかけると、少女の姿になったフォッシャがすごすごと出てきた。
彼女が人の姿になっているということはもう夜だってことだ。もうそんな時間か。しっぽに気をとられて気づいたが、フォッシャは紙袋かなにかを持っているのを背の後ろに隠しているようだった。
「そんなにカードゲームが得意な女の子が好きなら、ハイロとずっと一緒にいればいいんじゃない?」
と突然フォッシャは言った。
「ムリして私と大変なことやらなくていいよ。たのしくカードゲームであそんでてほしいな」
そういうフォッシャはなんだかすこし機嫌がわるそうだった。急にどうしたんだいったい。
そんなこと言われても、俺は自分でこの道をえらんだんだ。ハイロとローグだってそうだ。
「俺、ミジルにカードのことを言われて、カッとなっちゃってさ。それからずっとカードってなんのためにあるのか考えてた」
どうしてフォッシャについていくのか、具体的にふたりで話し合ったことはあまりなかったかもしれない。この機会に伝えておいていいだろうと思った。
「俺さ……カードが好きなんだ。ラジトバウムにきて、どうしようもなかったときにフォッシャと会えたからそんな気持ちを思い出せた。お前が逆境でもカードと一緒にがんばってるのをみて、俺もそうなりたいってあこがれたんだ。……感謝してる」
「あ、あこがれ……?」
「カードがこの世界の役に立ってるって知ったとき、嬉しかった。……だけどだれかを傷つける危険なカードもある。カードゲームは、楽しいものなんだ。みんなが笑顔になれるような、そんな力がある。だれかがカードのせいで悲しむ姿は見たくない。だから呪いのカードのことはなんとかしたい。俺は好きでお前についていってるってこと、わかってくれたか?」
長々と語ったあと、けっきょくすぐに訂正をいれる。
「ああ、カードがだぞ! カードが好きだからついてってるんだからな。えーっと……説明がへたで……ごめん」
そんな感じの説明でつうじたかはわからないが、たぶん俺の気持ちはそれで合っている。
「あっそ。ま、好きにすれば?」
納得してくれたのかそうでないのかわからないが、彼女はぶっきらぼうにそういった。
「これ、手伝ってくれるお駄賃(だちん)。……あと」
小さな声で、フォッシャはぼそっと言い残していった。
「……いつもありがと」
俺になにかを手渡して、彼女は病室を出ていく。
カードのパックでもくれるのかと思ったが、彼女が置いていったのは腕輪だった。カードを実体化したお守りのようなものだろうか。
さっそく包帯だらけの腕につけてみる。あまりこういうのをつけたことはないけど、なかなか見栄えがいい。
異世界って逆境でも、かわいい相棒様がいるからがんばれてるところもあるんだけどな。言わないけど。
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