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王総御前試合編

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「ローグさんが……出てくれるんですか!?」

 ハイロも全く知らなかったようで、何度もぱちぱちまばたきしながら言う。

「……あまりよろしくない情報が入ってね」

 こういうのを、どういう風の吹き回しなんですか、というのだろう。想定外だったので、俺はリアクションがとれないでいた。

「あとで話すわ。今はキゼーノ選手との試合に集中しましょう」

「えー。せっかく特訓したのに……」

 すこし残念そうに言うフォッシャを、ローグが優しく説得する。

「まぁまぁ。この大会に出るのは災厄カードを見つけ出す方法を得るためなのだから、勝つことが大切でしょう?」

 勝つことが大切、か。俺たちは優勝賞品のひとつ【探索】のカードを手に入れるためにやるんだから、勝たなきゃだめなんだよな。だがそう考えるとプレッシャーもでてくる。
 フォッシャも納得したのか、パッと明るい笑顔になって、

「それもそっかぁ。ま、フォッシャが出てても楽勝だったろうけど、ここはローグにゆずってあげてもいいワヌね。フォッシャは秘密兵器として応援するワヌ」

 ローグにどういう事情があるのかは知らないが、これで勝算はだいぶみられる数字にまで上昇した。

「フォッシャがカードの勉強したことも、役立つときがきっとくると思うわ」

 ふっと微笑んでローグは言う。彼女の言うとおりだ。それにしても、さいきんローグは優しい表情をよく見せるようになった。いつだったか前にラトリーがローグには優しいところもあると言ったときは信じられなかったが、いまではたしかにそうかもしれないと思えるようになってきた。

「それで、なにか策はあるの?」とローグがきいてくる。

「考えてみたのは……」

 俺は作戦のあらましを全員の前で伝える。

「ずいぶん練った作戦ね」

「エイト、そんなこと考えてたワヌか……」

「それでもこの予想をいくらでも越えてくる相手だと思う」

「ガウス選手は、まさしく天才……といったところね」

「ああ。だけど必ず勝つとは限らない」

「本当にガウスはこの作戦通りにうごいてくれるのかしら」

「絶対にやってくる。100……いや99%」

「どうしてそういいきれるのか、理由をお聞かせ願いたいわぁ」

「同じカードゲーマーだから、かな」

 この勘を口で説明するのはむずかしいのだが、言葉であらわすとするならそうなる。

「ルールは致命ダメージ判定方式。どうやってあの鉄壁のキゼーノ選手に一撃をくらわせるか……」

「致命ダメージ?」

 と俺はローグの言葉をさえぎってたずねる。

「エンシェントのダメージ判定ルールね」

「あれってどういう計算で勝負がつくんだ?」

 前から不思議におもっていたことだ。エンシェント式も敵のプレイヤーのオドライフを削りきれば勝ちだとハイロに教わったような覚えがはあるけど、詳しくは未だによく知らないんだよな。

「それも魔法が判断するのよ。定義は難しいけれど、蓄積(ちくせき)でも一撃でも、オドの加護がない場合生命に関わるレベルのダメージが判定基準だと言えるわね。……知らなかったの?」

「初めて知ったな……そうか、致命ダメージ判定ね……」

 いまさらルールを理解する俺に、もはやあきれ返っているのかハイロもローグと一緒に苦笑いを浮かべている。

「それで、編成案だけど……」

 と、俺が話題をきりかえると、

「私は、このカードでいこうかなって」

 ハイロが見せてくれたのは『ルプーリン』のカードだった。たしか、ハイロが精霊杯ローグ戦で使っていた。印象が薄い上ボコボコにされていた記憶もあるが、大丈夫なんだろうか。

「ハイロ……本気か?」

「や、やっぱり、まずいでしょうか」

「まずいってことは……でも、入れたい理由を、きかせてほしい」

「理由……そうですね。信じたいから、だと思います。むかし私の実力不足で、この子をゴミカードって対戦相手に呼ばせてしまったことがあって。たしかにこの子は戦うのは向いてないのかもしれない。だけど、一緒にがんばりたいって気持ちにさせてくれる。妹がくれた大切なカードなんです」

「相手が相手だからな……」

「だめ、でしょうか」

 たしかにこのカード、効果を考えるとエンシェントのルールなら使えなくはなさそうなカードだ。だがチームが使えるウォリアーの数は全部で5枚。べボイを入れる編成上、本音をいえばもっと火力のあるカードを用意したいところだ。

「やってみればいいんじゃないの?」

 と、ローグが言った。

「どうせ普通にやって勝てるような相手じゃないのだし。気持ちの強さや意外性があったほうがうまくいくかもしれないわぁ」

 ローグのその言葉は、すこし意外だった。彼女は理詰めで考える合理的なタイプ寄りだと思っていたが、こういう判断もするのか。
 しかし御前試合に出るのを嫌がっていたのに出ると決めたのには、なにか理由があるはず。つまり今も無責任に言っているわけでもないのだろう。そう考えると同意できる部分もある。

「そうだな……。賭けてみるか。ハイロと、そのカードに」
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