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王総御前試合編
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ヴァングと思われる獣人兵士がつっこんできて、ウォリアーを繰り出してきた。『ナミノリドッグ』スピードのある水系のカード。水の魔法に乗った自由自在なうごきで撹乱(かくらん)できそうなカードだ。
『ナミノリドッグ』は至近距離で爆発する水の魔法をぶつけてきた。
「テネレモレコード発動! 【薮の盾】!」
とっさにテネレモの魔法で草の防壁を出現させ、水鉄砲をふせいだ。敵の連携は優れている。このまま連撃がくると予想し、先手を打つ。
「たのむぞ。『べボイ・トリックスタ』召喚! レコード【スリップギミック<滑り罠>】」
まさにイタズラ小僧といった感じで、悪巧みを考えていそうな顔つきの妖精を呼び出す。距離の近いナミノリドッグと敵ヴァングの平衡感覚を魔法で乱し、動きをにぶらせる。
間髪いれずにべボイのアドバンススキル【ジャマーグラフィティ】を使用する。この魔法、コストは高いが強力で、効果により相手はトリックカードを使うたびオドコストがよりかかるようになり遠距離攻撃の威力は半減、さらにこちらのトリックカード使用にかかるコストが軽くなる。
アドバンスとは思えないほど強力な、もはや妨害ではなく力技のスキルだ。審官の持つ圧倒的な威力はないものの、異なった強みで盤面をコントロールできる。
キゼーノ含め、総員で遠距離魔法をこちらに飛ばしてきたが、ジャマーグラフィティと相まってなんなくすべてテネレモの魔法で受け止めきった。
「魔法妨害系のスキル。これでお得意のトリックコンビネーションは封じたぞ」
「……封じた……?」
キゼーノは表情ひとつ変えることなく、俺の目をみつめる。透き通ったその瞳はこの暗闇の中でも射抜くような鋭さがある。
当然大会がはじまる前から、彼女のデータは調べてきた。ふだんは物静かな人物らしく学者らしい繊細な性格らしいが、今対峙している相手はまるで幾度の死線を越えてきた虎か狼のような威圧感がある。
「ひとつ聞きたい。災厄のカードは編成にいれているか?」
試合中だというのに、持っていたカードを下げて彼女はきいてきた。俺はその余裕にいささか不気味さを感じながら、しかし気圧(けお)されないように腹に力をこめて答える。
「……ゼルクフギアのことか? デッキにはいれてないぞ」
どうしてそんなことを聞くのか、わからなかった。だがだんだんとその答えが頭の中に浮かぶより早く、嫌な予感がこみあげてくる。
「……なぜ……俺が持ってると思った……?」
変だ。世間にはローグがゼルクフギアを討伐したことになっているはず。フォッシャと俺がやったことを知っているのはローグ、ハイロ、巫女の3人だけのはずだ。なのになぜ彼女の口から俺に対して災厄カードなどという言葉がでてくる。
彼女が答える前に、『アグニオン』がこの部屋に到着した。壁を抜けて通過するスキルがあるこのカードは、屋内戦を想定して用意しておいた。おそらくハイロたちが音で俺たちの位置にきづいて先行させてくれたのだろう。敵のナミノリドッグと空中でお互いの魔法をぶつけあい、押し合っている。
アグニオンは魔法攻撃に弱い代わりに、物理攻撃のダメージを受けにくいお化けのような特性がある。対キゼーノに一見分が悪いようで、べボイと組み合わせればこの局面では上質な存在となる。
「風水(かぜみず)にやどる叡智(えいち)を聞かん。『練水探偵(れんすいたんてい)』召喚。【アルケミック・パド<練成の水溜り>】」
キゼーノは独特な召喚フォームだった。指で挟み手首のスナップをきかせ、カードを空中で回転させるように投げる。
広間のいたるところに青白く光る水溜りが出現する。
「なに……!?」
練水探偵だと……!? こいつは大した力はないがウォリアーの持つマイナス効果を除去する特殊なカード。
非常にまずい状況になった。ピンポイントでべボイの優位性が消えることになる。
さすがの臨機応変な編成だ。だが相手にとってうまくいきすぎじゃないのか。
俺は冷静さを失わないよう、すこし間をとって考える。
このチーム戦、全体で使用できるウォリアーの数は決まっている。任意でチームのうちの誰か一人使える控え1枚を加えても全部で5枚しかない。クイーンが1枚、ウォリアーが1枚、コマンドが3枚だ。
そのなかでリスクをとってこんなピーキーなカードを用意しておけるものなのか?
前に王都中のカードショップで対戦して回ったことがあるが、べボイはデッキにはいれずにとっておいた。大会前に情報が流出するのを懸念したからだ。
だがやつの出したカードは、まるで対べボイのアンチリアクションのような……
「ラジトバウムの冒険士集会所ではある男の冒険士がゼルクフギアに立ち向かっていったという目撃情報がある。しかし表向きにはローグ・マールシュが騒動を解決したことになっている……おかしいとは思わないか? スオウザカ・エイト……かなりの腕だと、王都でウワサだったぞ」
キゼーノは憮然とカードを構えながら言う。俺は答えられずに「ぐっ……」と奥歯をかみ締める音が口から吐き出るだけだった。
「カードゲーマーにとって情報は生死をわける命綱。ゼルクフギアを倒した者ならば、なんらかの報酬が与えられるであろう。同時期に『べボイ・トリックスタ』が展示会から姿を消した。さらにあの館のイベントに参加していたことから……貴様の編成は『べボイ・トリックスタ』と『アグニオン』である可能性が高いと判断した」
こいつ……
俺のことを調べつくしている。
「死地へといざなう。トリックカード【魔物の棲(す)む湖(みずうみ)】」
キゼーノがカードを使うとさっきまで彼女の周りを浮遊していた『くらげ傘』が姿を消した。なにか攻撃をしかけるつもりか。テネレモと共に注意を払う。
後ずさりしたとき、ピチャッと水のはねる音がした。さっきナミノリドッグがぶつけてきた水鉄砲は、床に落ちても消えずに水溜りになっている。それを踏んだらしい。ふと見たとき、あのくらげ傘が水面からこちらを覗いているのと目が合った。そう思ったときには敵は水溜りから飛び出してきていて、触手をこちらめがけて伸ばす。
俺は反応できずに、横から入ってきたアグニオンが俺をつきとしてかばってくれた。触手がアグニオンをつかまえると、電気ショックのようなものを放って感電させ、アグニオンは気絶してその場に倒れる。
カードは破れなかったものの、致命傷だ。すぐに俺はべボイで反撃態勢をとろうとしたが、くらげ傘は水溜りの中へと潜っていき、今度はまたキゼーノの近くの水溜りから姿をあらわした。
おそらく特定のウォリアーが水か、あるいは水の魔法から自在に出現できるようになるトリックカードか。かなり厄介そうだな。
「エイトさん!」
気絶したアグニオンを抱きかかえたとき、ハイロたちが違うルートでこの部屋にたどりついた。
「水にちかづいちゃだめだ! そこから敵がでてくるぞ」
「わかりました……でも……ここに来るまで、この部屋から水が流れ出ていて。それをたどってきたんです」
「この部屋から水が……?」
周囲を見回すとあることに気がついた。この大広間にある噴水だか滝のようなオブジェから、細く水が枝分かれしてあふれ出ている。水はそれぞれの通路へと生き物のように伸びていっている。
あのオブジェは元々このステージにあるもののはずだ。どういう力が働いているのかまではわからないが、なんらかの魔法でそれを活かして優位な状況を作ろうとしているわけか。あの【魔物の住む湖】以外にもいくつも策を企んでいるに違いない。水の多い場所はやつにとって好都合のはずだ。このままほうっておけば確実に良くない結果を生む。
「なるほど。海底のように深い知力があんたの武器か」
俺と表向きやり合っているように見せかけて、地理のアドバンテージも伸ばしていっているとはな。
情報収集力、そしてカードゲーマーとしての資質。
わかってはいたが、想定を越えてあまりに手ごわすぎる。
「対して貴様は……まさかそれだけじゃないだろう。審官のカードは、まだ出さんのだな」
キゼーノの表情に油断は一寸(いっすん)たりとも見えない。当然、俺の精霊杯でのデータも踏まえての発言だろう。
もうあのカードは手元にはない。こいつもそこまではさすがに知らないはずだ、ゼルクフギアとの一戦で破れたことは。
たしかにあのカードがあればこの局面でも力で打破できるかもしれない。
だがそれがない今、俺がすべきなのはどうにかして自分たちの力で戦うことだ。
『ナミノリドッグ』は至近距離で爆発する水の魔法をぶつけてきた。
「テネレモレコード発動! 【薮の盾】!」
とっさにテネレモの魔法で草の防壁を出現させ、水鉄砲をふせいだ。敵の連携は優れている。このまま連撃がくると予想し、先手を打つ。
「たのむぞ。『べボイ・トリックスタ』召喚! レコード【スリップギミック<滑り罠>】」
まさにイタズラ小僧といった感じで、悪巧みを考えていそうな顔つきの妖精を呼び出す。距離の近いナミノリドッグと敵ヴァングの平衡感覚を魔法で乱し、動きをにぶらせる。
間髪いれずにべボイのアドバンススキル【ジャマーグラフィティ】を使用する。この魔法、コストは高いが強力で、効果により相手はトリックカードを使うたびオドコストがよりかかるようになり遠距離攻撃の威力は半減、さらにこちらのトリックカード使用にかかるコストが軽くなる。
アドバンスとは思えないほど強力な、もはや妨害ではなく力技のスキルだ。審官の持つ圧倒的な威力はないものの、異なった強みで盤面をコントロールできる。
キゼーノ含め、総員で遠距離魔法をこちらに飛ばしてきたが、ジャマーグラフィティと相まってなんなくすべてテネレモの魔法で受け止めきった。
「魔法妨害系のスキル。これでお得意のトリックコンビネーションは封じたぞ」
「……封じた……?」
キゼーノは表情ひとつ変えることなく、俺の目をみつめる。透き通ったその瞳はこの暗闇の中でも射抜くような鋭さがある。
当然大会がはじまる前から、彼女のデータは調べてきた。ふだんは物静かな人物らしく学者らしい繊細な性格らしいが、今対峙している相手はまるで幾度の死線を越えてきた虎か狼のような威圧感がある。
「ひとつ聞きたい。災厄のカードは編成にいれているか?」
試合中だというのに、持っていたカードを下げて彼女はきいてきた。俺はその余裕にいささか不気味さを感じながら、しかし気圧(けお)されないように腹に力をこめて答える。
「……ゼルクフギアのことか? デッキにはいれてないぞ」
どうしてそんなことを聞くのか、わからなかった。だがだんだんとその答えが頭の中に浮かぶより早く、嫌な予感がこみあげてくる。
「……なぜ……俺が持ってると思った……?」
変だ。世間にはローグがゼルクフギアを討伐したことになっているはず。フォッシャと俺がやったことを知っているのはローグ、ハイロ、巫女の3人だけのはずだ。なのになぜ彼女の口から俺に対して災厄カードなどという言葉がでてくる。
彼女が答える前に、『アグニオン』がこの部屋に到着した。壁を抜けて通過するスキルがあるこのカードは、屋内戦を想定して用意しておいた。おそらくハイロたちが音で俺たちの位置にきづいて先行させてくれたのだろう。敵のナミノリドッグと空中でお互いの魔法をぶつけあい、押し合っている。
アグニオンは魔法攻撃に弱い代わりに、物理攻撃のダメージを受けにくいお化けのような特性がある。対キゼーノに一見分が悪いようで、べボイと組み合わせればこの局面では上質な存在となる。
「風水(かぜみず)にやどる叡智(えいち)を聞かん。『練水探偵(れんすいたんてい)』召喚。【アルケミック・パド<練成の水溜り>】」
キゼーノは独特な召喚フォームだった。指で挟み手首のスナップをきかせ、カードを空中で回転させるように投げる。
広間のいたるところに青白く光る水溜りが出現する。
「なに……!?」
練水探偵だと……!? こいつは大した力はないがウォリアーの持つマイナス効果を除去する特殊なカード。
非常にまずい状況になった。ピンポイントでべボイの優位性が消えることになる。
さすがの臨機応変な編成だ。だが相手にとってうまくいきすぎじゃないのか。
俺は冷静さを失わないよう、すこし間をとって考える。
このチーム戦、全体で使用できるウォリアーの数は決まっている。任意でチームのうちの誰か一人使える控え1枚を加えても全部で5枚しかない。クイーンが1枚、ウォリアーが1枚、コマンドが3枚だ。
そのなかでリスクをとってこんなピーキーなカードを用意しておけるものなのか?
前に王都中のカードショップで対戦して回ったことがあるが、べボイはデッキにはいれずにとっておいた。大会前に情報が流出するのを懸念したからだ。
だがやつの出したカードは、まるで対べボイのアンチリアクションのような……
「ラジトバウムの冒険士集会所ではある男の冒険士がゼルクフギアに立ち向かっていったという目撃情報がある。しかし表向きにはローグ・マールシュが騒動を解決したことになっている……おかしいとは思わないか? スオウザカ・エイト……かなりの腕だと、王都でウワサだったぞ」
キゼーノは憮然とカードを構えながら言う。俺は答えられずに「ぐっ……」と奥歯をかみ締める音が口から吐き出るだけだった。
「カードゲーマーにとって情報は生死をわける命綱。ゼルクフギアを倒した者ならば、なんらかの報酬が与えられるであろう。同時期に『べボイ・トリックスタ』が展示会から姿を消した。さらにあの館のイベントに参加していたことから……貴様の編成は『べボイ・トリックスタ』と『アグニオン』である可能性が高いと判断した」
こいつ……
俺のことを調べつくしている。
「死地へといざなう。トリックカード【魔物の棲(す)む湖(みずうみ)】」
キゼーノがカードを使うとさっきまで彼女の周りを浮遊していた『くらげ傘』が姿を消した。なにか攻撃をしかけるつもりか。テネレモと共に注意を払う。
後ずさりしたとき、ピチャッと水のはねる音がした。さっきナミノリドッグがぶつけてきた水鉄砲は、床に落ちても消えずに水溜りになっている。それを踏んだらしい。ふと見たとき、あのくらげ傘が水面からこちらを覗いているのと目が合った。そう思ったときには敵は水溜りから飛び出してきていて、触手をこちらめがけて伸ばす。
俺は反応できずに、横から入ってきたアグニオンが俺をつきとしてかばってくれた。触手がアグニオンをつかまえると、電気ショックのようなものを放って感電させ、アグニオンは気絶してその場に倒れる。
カードは破れなかったものの、致命傷だ。すぐに俺はべボイで反撃態勢をとろうとしたが、くらげ傘は水溜りの中へと潜っていき、今度はまたキゼーノの近くの水溜りから姿をあらわした。
おそらく特定のウォリアーが水か、あるいは水の魔法から自在に出現できるようになるトリックカードか。かなり厄介そうだな。
「エイトさん!」
気絶したアグニオンを抱きかかえたとき、ハイロたちが違うルートでこの部屋にたどりついた。
「水にちかづいちゃだめだ! そこから敵がでてくるぞ」
「わかりました……でも……ここに来るまで、この部屋から水が流れ出ていて。それをたどってきたんです」
「この部屋から水が……?」
周囲を見回すとあることに気がついた。この大広間にある噴水だか滝のようなオブジェから、細く水が枝分かれしてあふれ出ている。水はそれぞれの通路へと生き物のように伸びていっている。
あのオブジェは元々このステージにあるもののはずだ。どういう力が働いているのかまではわからないが、なんらかの魔法でそれを活かして優位な状況を作ろうとしているわけか。あの【魔物の住む湖】以外にもいくつも策を企んでいるに違いない。水の多い場所はやつにとって好都合のはずだ。このままほうっておけば確実に良くない結果を生む。
「なるほど。海底のように深い知力があんたの武器か」
俺と表向きやり合っているように見せかけて、地理のアドバンテージも伸ばしていっているとはな。
情報収集力、そしてカードゲーマーとしての資質。
わかってはいたが、想定を越えてあまりに手ごわすぎる。
「対して貴様は……まさかそれだけじゃないだろう。審官のカードは、まだ出さんのだな」
キゼーノの表情に油断は一寸(いっすん)たりとも見えない。当然、俺の精霊杯でのデータも踏まえての発言だろう。
もうあのカードは手元にはない。こいつもそこまではさすがに知らないはずだ、ゼルクフギアとの一戦で破れたことは。
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