カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
上 下
89 / 169
王総御前試合編

17

しおりを挟む

「エイト、なんか服装が変わってるワヌ!」

 トコトコと向かってきたフォッシャが声をかけてくる。
 自分の格好をみると、いつもは着ないような黒と紅のマントにデザインが変更されておりおどろいた。これもゲームの仕様なのだろう、なんだかかっこいい。『暁の冒険者』の格好にすこし似ている気もする。

 そう言うフォッシャも体は獣状態のままだが、いつもとは微妙に服のデザインがちがう。ほかの3人をみると、ローグのストールが黒のベールに変わっていた。ハイロはドレスっぽい更に清楚な姿に、ミジルは逆にスカートの丈が短くなったりと露出が増えていた。

 ゲームの仕様で外見の見え方が微妙に変わるのだろうか。ほかの参加者をみると、髪の毛の色や背丈はおろか、性別までゲーム開始前とは変わっている人も見受けられる。そういう人はだいたい経験者らしく、一向に身動きがとれないでいる俺たちとはちがい、颯爽とどこかへ行ってしまった。

 よくみると、役の所属勢力ごとにデザインのまとまりがある。トレジャーハンターと一般人は軽装、機関は黄色を基調とした制服というわけか。

 さて、もう一度目標をカクニンしておくか。
 パンフレットを見る限り、それぞれの役のクリア条件はこうなっている。

目標
トレハン・一般1 宝をみつける
機関2 危険の排除(ボスの撃破)or3の排除
魔物3 1・2への妨害による全滅

 どれかひとつをもっとも早く達成した勢力の勝利。MVPは敗北したチームから選ばれることもある。

「俺はトレジャーハンターだから、宝っていうのを探せばいいわけだな。みんなはどうするんだ?」

 俺が振り返ると、ハイロがおだやかに答えてくれる。

「私はエイトさんについていきますよ」

「フォッシャも一般人だから、宝探しするワヌ!」

 お前が一般人ってどんな皮肉だよ。とすこし心のなかで思ってしまったが、本人に言ったら傷つけてしまうかもしれないので自分のツッコミを反省する。

「あたしは機関?とかいうのみたいだけど、どうでもいいからついていくわ」

 本当に興味なさそうに言うミジル。ローグは答えるまでもない、という感じで自らの髪を優雅にかき撫でる。ローグも格好をみるに、おそらく機関の人間か。

 となると、このなかには『魔物にのっとられた人間』はいない、ということになるな。自己申告の限りでは。

 疑っていてもしかたないし、ゲームをはじめるとするか。

 とそこで、「スオウザカ」とミジルに呼び止められる。

「そこそこカードは強いみたいだけど。私はあんたがハイロにふさわしい人物だと認めたわけじゃない。今日こそ結論を出させてもらうからね」

 ミジルはハイロを家に連れ戻したがっている。しかしハイロの力はこれから先も必要だ。俺たちにとって彼女が抜けたら痛手になってしまう、そうなるわけにはいかない。
 このイベントもカードとは無関係なわけではない。こういうアクティブなことは得意分野ではないけど、活躍できれば勝負強いところをみせるチャンスだ。

「……精一杯やってみる。ハイロ、協力してくれ」

「もちろんです! 私たちのコンビネーションをミジルにみせてあげましょう!」

 ハイロがフォッシャを抱きかかえ、フォッシャもノリノリで応じる。

「おー!」


「まずは情報収集だな。部屋を調べまわってみよう」

 さっそく俺たちは広間から移動する。

 最初に着いた小部屋ではひとつ資料をみつけた。『世界の破壊者』を復活させようとした狂人の手記のようだ。
 こういう演出の小道具をあつめて、宝のある場所を割り出すというわけか。
 宝探しゲームのようなつもりで童心に帰ったように笑っていた俺たちに、ミジルが忠告する。

「あのさ……あんたたち、ロールプレイングするんじゃなかったの?」

 はっとなって、俺たちはしまったという表情で顔を見合わせる。

「そうだった。ちゃんと役になって活躍しないと、MVPはとれないんだったな……」

 手首の紋章をさわって、自分の役柄の詳細をみる。
 たしか役と一緒で、性格とか経歴もランダムに決まってるんだったっけ。

「俺のは……なんだ、これ」

 俺様系ドSキャラってなに。
 ぜ、ぜんぜん想像がつかない。……とりあえずイメージでやっていくか。

 ふと隣に目をやると、フォッシャが虚(うつ)ろな面持ちで、ただボーっとしている。

「どうした?」と声をかけると、

「キオクソウシツになった一般人……だよ。私の名前はたしかフォッシャ……」

 だからどんな一般人だよ。いやもうそれはいいか。

「私は機関の者です。ここはあぶないので即刻立ち去っていただきたいのですが?」

 おお、ハイロのやつうまいな。たしかにいつもとすこし違うなにかの役になってる。

「そうはいかないぜ。俺様はトレジャーハンターのソーサカ・エイツォ。お宝のウワサをきいてこんな山奥まできたんだ……素直にはいそうですかって帰るわけにゃあいかねえな?」

 こんな感じでいいのだろうか。

[外は嵐で、ここにくるまでの橋も壊れてしまっていまス]とGMマスコットが突然あらわれてアシストをくれる。どうやらゲームの進行に必要な情報をこうして与えてくれる存在でもあるようだ。

「それに途中くるまでの橋も壊れちまった。外はひどい嵐だっていうのに、それでも俺たちを追い出すかい?」

「……しかたありませんね。ただし、妙な行動はつつしんでください。べ、べつにあなたたちのことが心配で言っているわけではないですけどね」

 ぷいっと顔を逸らすハイロ。なんだかこういうハイロは新鮮でおもしろいな。
 ミジルとローグは積極的に参加してこないと思うから、とりあえずこの3人で進めていくとするか。

「とりあえず、館のあるじを探すか? 勝手に泊まるわけにもいかないからな」

「それがいいワヌ……ね」

「それならば、私たち機関の目的とも合致しますが……くれぐれも気をつけてくださいね」

 よし。演技なんてどうすればいいかわからなかったけど、なんだか楽しくなってきた気がする、本当に物語の中の人物になったかのようだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...